かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

神奈川県立図書館所蔵CD:ソル ギター作品集1

神奈川県立図書館所蔵CDのコーナー、今回と次回の2回にわたりまして、ソルのギター作品集を収録したアルバムをご紹介します。

2枚組になっているこのアルバムは、ソルという作曲家の魅力を存分に伝えるものになっています。演奏するは福田進一。いまやクラシックだけはなくギター作品を広く演奏する第一人者となりました。

まず1枚目は、変奏曲やソナタと言った、ソルが活動した時代を反映する作品ばかりです。え、ソルが生きた時代っていつ?って?これは失礼しました。大体古典派で、ほぼベートーヴェンと同じ時期を生きた作曲家です。このブログでも2度ほどご紹介している作曲家です。

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比較的裕福な家庭に生まれたというのが、彼のその後の作品の性格を決めることになったのかなあって思います。結局、フランス側についたのだって、生活するためだったはずですし。自立し始めた作曲家はベートーヴェンが最初って時期において、スペインのほうな保守的な社会でどれだけ自立できたかって言えば、なかなか難しいですしね。またまだまだ作曲家の自立を助けるような貴族や市民もいなかったはずですし、いたとしてもナポレオン戦争によって疲弊もしくは破壊されていたはずです。

なのに、フランス側についたというだけで祖国を追われてしまいます。そして生涯戻ることはありませんでした。その意味では、ショパンに通じる哀愁も持っているのがソルの作品の特徴ではないかと思います。ですので、ソルの作品は、聞けば聞くほど現代にも通じる普遍性を持つ優れた作品が多いです。

その特徴的な作品が第1曲と第2曲ではないかって思います。フランスの歌曲「私が羊歯(しだ)だったなら」を主題にした「序奏と「私が羊歯(しだ)だったなら」による変奏曲」と、ベートーヴェンが「戦争交響曲」でも使ったマルボロの歌を主題とした「序奏と「マルボロ―が戦場に行った」による変奏曲」の二つです。

「私が羊歯だったら」というフランスの歌は、このソルがつかっていることからギターを弾く人たちには結構有名なようで、以下のエントリでも紹介されています。むしろ原曲が聴けるのでぜひとも訪問してみてください。

ameblo.jp

すでにフランスへ亡命した時期に書かれた作品で、ロシアからの旅行の後に書かれた作品です。それにしても、どの国でもコスモポリタンナショナリズムが台頭すると肩身が狭いなあって思います・・・・・

一方の「マルボロー」。そもそもはナポレオン戦争の時にフランス側が歌った歌が主題として使われているわけですが、当然ソルはフランス側ですからそれを使ったのだと思いますが、下手すればこの旋律、屈辱でもあるわけです。それでもなぜこれを使ったのか・・・・・これはあくまでも私の推測ですが、フランスでは結構ポピュラーだったからでしょう。ナポレオン戦争に負けたといってもフランスが他国の支配に甘んじたわけではないですから。それはスペインとは全く様相を異にしていたわけなのです。

ですから、ソルはフランスへ亡命している身としてこの旋律を使ったはずですが、ベートーヴェンは同じ理由で使ったとしても、その旋律が意味するものは異なっていたはずです。やや揶揄する意味で使っているに相違ないわけです。なぜならば、この歌は「マルボロ―は戦争に行った。でも戦死して戻ってこなかった」とイギリス軍に負けたフランス軍が悔し紛れに歌った歌だったからです。

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フランスを代表する歌であったからこそ使ったわけですが、そこには実はもっと深い意味が隠されていたはずだと私は思うのです。「ウェリントンの勝利」を違った側面から見れることを教えてくれたソルの変奏曲は誠に素晴らしい作品です。

12の変奏曲も紆余曲折を経た作品とは言え変奏曲の時代であった古典派らしい作品ですし、ソナタは堂々としていて、ソナタはもっと書くべきだったと私は思います。けれどもやはり聴衆のことを考えれば変奏曲が主となり、そしてある意味ではどうしても洒脱なものだけになってしまったのは仕方のないことだろうと思います。それでも作品に決して単調な色だけではなくなるべく陰影をつける努力がなされているのは、ソルの作品を色あせないものにしています。

演奏は上げた通り福田進一。結構思い切った演奏もするギタリストなのですが、このソルに関しては多少おとなしめ。けれども「グラン・ソナタ」では福田らしい思い切った演奏もあり、楽譜と格闘したうえでであろうと思います。もちろんもう楽譜なんてどうてもいいや!と判断して演奏する手もありますが、それはまかり間違うと何それ?って演奏になりますから・・・・・・かなり格闘したうえでの答えなんだろうと思います。けれどもそのスタンスは逆にソルという作曲家や作品たちに生命を与え、現代に語り掛ける力を持っています。そういった演奏が聴けることはとても幸せであり、福田の仕事に敬意を表したいと思います。

 


聴いている音源
フェルナンド・ソル作曲
序奏と「私が羊歯(しだ)だったなら」による変奏曲 作品26
序奏と「マルボロ―が戦場に行った」による変奏曲 作品28
12のメヌエット 作品11より
序奏と主題と変奏 作品20
序奏とアレグロ ニ長調(グラン・ソロ)作品14
福田進一(ギター)

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方に、感謝申し上げます。