かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

神奈川県立図書館所蔵CD:ツェムリンスキー 抒情交響曲ほか

神奈川県立図書館所蔵CDのコーナー、今回はツェムリンスキーの抒情交響曲ほかを収録したアルバムをご紹介します。

ツェムリンスキーはこのブログでは弦楽四重奏曲を取り上げたことがあったかと思います。その時からずっと、ツェムリンスキーの管弦楽作品もいつかはと考えて物色し続けてきたのですが、ふと県立図書館で見かけて借りてきたのがこの音源です。

実はこの抒情交響曲こそ、ツェムリンスキーの代表作なのですが・・・・・

ja.wikipedia.org

実は、ツェムリンスキーは普通の交響曲も2曲作曲しています。であるにも関わらずこの作品が代表作というのは、その構成と当時の芸術の集大成ともいうべき総合性だと思います。

マーラーの「大地の歌」の陰に我が国では隠れてしまっている部分があると思いますが、その耽美性とロマンティックさにおいて、マーラーをしのぐと私は思います。ネットにおける評論だとよく耽美性が強調されて「エロい」ともいわれるのがこの作品なのですが、エロさも含めて、恋愛や異性に対する憧憬がその根底にあるような気がするのです。

そもそもは、インドの詩人で哲学者でもあるタゴールの詩を独訳した「園丁」が歌詞で、少なくとも日本語訳からはあまりエロさを感じないんですよねえ。もちろん訳し方なのかもしれませんが、それでも文脈をよく見てみれば、むしろ「恋に恋する」という表現が適切であり、その部分としてエロさがある、と捉えるべきなんだろうと思います。19世紀から20世紀にかけてのヨーロッパとは、そういう時代でしたし。

www7b.biglobe.ne.jp

上記のページはツェムリンスキーに限らず、タゴールの詩に作曲した作曲家の作品を並べたもので、タゴール自身の作品も入っているので、ツェムリンスキーの「抒情交響曲」を探すのは一苦労しますが、たどり着くとその歌詞が意外にもエロくないことに驚かれるはずです。そこがネットの怖いところなんですよねえ。そこは私も一塊のブロガーですから、アマチュアながらも文筆に携わっている立場としては、特に注意しているところではあります。もちろん、史料から想像できることは言いますけれど(モーツァルトの戴冠ミサの旋律がその例)。

やはり、こういった原語が入っている訳サイトは助かります。多分私以外でドイツ語が堪能な人がこの詩を原語で読めば、おそらくネットの反応とはまた違った感想を得るはずですし、私が心がけている点がそこです。私はこう思うということを変えるつもりはありませんが、提示することで違う考えを持つ人が居てもいいわけなので出しているんです。それが芸術の多様性であり、豊かさだと思うからです。

ツェムリンスキー自身が多文化の中で育ち、当時の様々な音楽潮流の影響を受けて創作しています。この抒情交響曲にもそんなツェムリンスキーの芸術性が多分に表れていると思います。

おなじ文脈で収録されているのが、交響的歌曲です。歌詞がアメリカン・ネグロ、つまり黒人奴隷によっている点こそ、共通性なのですね。ついでに言えば、それは抒情交響曲の歌詞を書いたタゴールにも当てはまります。彼が創作のきっかけをつかんだのは、農園時代の労働者たちの歌だったわけですから。

ja.wikipedia.org

おなじ風景が、アメリカ黒人奴隷たちが居た南部の農村にもあったわけです。ツェムリンスキーとしては、自分と同じだ!と思ったのではないかと私などは思ってしまうんです。

音楽がそんな共感に満ちたものなので、その共感の部分をどのように演奏に反映させるかは非常に重要な点だと思いますが、演奏するシャイー指揮コンセルトヘボウ管は実に饒舌なんですよね、これが。ロイヤル、なのに・・・・・上品に、かつとても感情をこめて、下手すればそれこそエロく。だからこそ、作品が持つ「憧憬」という点が自然と浮かび上がります。男女の思いが交わらず、すれ違ったまま終わる・・・・・想いとしてはお互いに多分セックスまで考えているんだけれども、でも実際は至らず想いだけで終わってしまう切なさ。なんと素敵なんだろう!こんなに素敵な作品を素敵に演奏しているのを経験したのは久しぶりのような気がします。

意外なほど、クラシック・ファンが「民主的」というオケほどツェムリンスキーの作品を収録していません。むしろベートーヴェンとか超有名作曲家ばかりなんです。けれどもシャイーはツェムリンスキーという「魂の高さを持つ人」を取り上げ、見事なまでに美しくかつ人間的な泥臭さを両立するこの作品を魅力的に表現しています。この録音はツェムリンスキーという作曲家の日本における「再評価」を促すものであると確信します。

 


聴いている音源
アレクサンダー・ツェムリンスキー作曲
抒情交響曲 作品18
管弦楽とソプラノとバリトンのためのラビンドラナート・タゴールの詩による7つの歌)
交響的歌曲 作品20
(黒人詩集「アフリカは歌う」のテキストより)
アレッサンドラ・マルク(ソプラノ)
ホーカン・ハーゲゴート(バリトン
ウィラード・ホワイト(バス・バリトン、作品20)
リッカルド・シャイ―指揮
ロイヤル・コンセルトへボウ管弦楽団

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方に、感謝申し上げます。