かんちゃん 音楽のある日常

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東京の図書館から~小金井市立図書館~:ベルグルンドが振るシベリウス交響曲全集及び管弦楽作品集5

東京の図書館から、小金井市立図書館のライブラリである、パーヴォ・ベルグルンドが振るシベリウス交響曲全集と管弦楽作品集の第5集を取り上げます。

第5集には交響曲第7番、そして「フィンランディア」を代表する交響詩、そしてカンタータ混声合唱曲が収録されています。

交響曲第7番はシベリウス交響曲として行きつくところまで行った作品であり、単一楽章の中にいくつかの部分があるという形になっており、シベリウスとしては構造的にこれ以上新しいことはできないと判断したようで、結局交響曲はこの第7番で完成は終わってしまいます。第8番も着手したようですが歓声を見ず、結局この第7番がシベリウスが完成させた最後の交響曲となりました。

まあ、「ハ長調」を採用した時点で、もうこれで終わりという感じはします。ハ長調はミサ曲で使う聖なる調。シベリウスが知らなかったとは思えません。つまり第7番とは、シベリウスにとってのミサ曲、と位置付けることも可能かもしれない作品です。

それだけ、究極の作品であるわけなんですが、実は21分ほどで終わってしまう短い作品でもあります。その短さから言ってもこの作品には隠された「聖なる部分」があると私は考えています。ベルグルンドはそんな「聖なるもの」を引き出すかのようにオケを存分に鳴らして歌わせます。そう、ミサ曲のように・・・・・おっと、これは解釈が一緒ですな、と感じます。

そのあとには、シベリウス管弦楽作品がずらり。まず「大洋の女神」はギリシャ神話に基づく作品。シベリウスの作品の中では珍しい題材だと言えますが、愛国的かつコスモポリタン的な部分も持つシベリウスだとむしろ自然なのかもしれません。

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次の「故国」はウィキですと「我が祖国」と記載がある作品です。まあ一緒と言えば一緒ですが、「我が祖国」だとどうしてもスメタナの連作交響詩のほうを想起してしまいます。その分、「故国」とは粋だなあと思うのですけれど。勿論、祖国フィンランドを歌い上げた作品であると言えます。すでに独立を果たした後の作曲ですが、赤衛軍、つまりソビエト共産党の息のかかった団体の影響が後退した後の作曲となると、共産主義への抵抗ということもあるのかもしれませんが私は必ずしもそうは考えません。むしろ帝政ロシアを虎の威を借る狐のようにソビエト共産党が使ったことへの反発でしょう。そもそも、フィンランド帝政ロシア支配下にあったわけですから。そのロシアを否定するなら、フィンランドへの影響は極力少なくするのが共産党としては本来だろうという批判精神すら、この愛国的な作品には見え隠れします。

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4曲目が「火の起源」。これはフィンランドの伝説に基づいたもので、よく知られるギリシャ神話とは違うものですが、どこか似通ったものは感じます。火というものが文明を表し、それが「国」であれば、これはフィンランドを意味する言葉でもある作品で、フィンランディアと同じく帝政ロシア支配下にあった時代に書かれた作品です。

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5曲目は有名な「トォオネラの白鳥」と6曲目が「レンミンカイネンの帰郷」ですが、この二つはセットで一つとして扱われています。ともに「レンミンカイネン組曲」あるいは「四つの伝説曲」として知られているもの。そのうち有名なのが、この二つなのです。

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そして最後が有名なフィンランディアで締めるなんざあ、粋だねえと最後まで思います。普通最初にもってきてもいい作品ですが、これを最後に持ってくることによって、「フィンランディアという作品は何ぞや」と考えさせられるってわけです。勿論帝政ロシア支配下に置いて作曲されたとても愛国的作品ですが、表面上はとても情熱的あるいは愛国的に見えますが、わたしからすれば「火の起源」のほうがよほど愛国的な作品だと見えるのです。愛国的というよりは煽情的な作品だとフィンランディアは言えるのではないでしょうか。一方「火の起源」は表面的には愛国的に感じないかもしれませんがフィンランドの伝説に範をとるという時点で、愛国的作品というのは確定しています。なぜにフィンランディアばかり日本では取り上げられるのか?それは一度立ち止まって考えるほうがいいかもなあと、現在の自民党政権を見ると考えさせられます。

しかも、ベルグルンドはここで粋なことをしています。「故国」と「火の起源」はともに合唱を伴う作品ですが、その合唱団を「故国」ではヘルシンキ大学男声合唱団とフィンランドの合唱団を使っているんですが、「火の起源」という愛国的作品ではソヴィエト・ロシア国立アカデミー・エストニア男声合唱団にさせているんです。思わずニヤリとさせますよねえ。ベルグルンドの深謀遠慮すら見え隠れします。もちろんそれは表現として素晴らしいものを追求した結果だと言えますが・・・・・

最後の最後まで、飽きさせないベルグルンドが振るアルバムは、全集としてそろえておいていいものだと本当に思います。カラヤンができなかったシベリウス交響曲全曲収録をやってのけたのは、このベルグルンド。その意味でも、価値の高い全集だと思います。

 


聴いている音源
ジャン・シベリウス作曲
交響曲第7番ハ長調作品105
交響詩「大洋の女神」作品73
③「故国」作品92
④「火の起源」作品32
交響詩「トォオネラの白鳥」作品22-2(「四つの伝説曲」より)
交響詩「レミンカイネンの帰郷」作品22-4(「四つの伝説曲」より)
交響詩フィンランディア」作品26
ヘルシンキ大学男声合唱団(③)
ヨルマ・ヒンニネン(バリトン、④)
ソヴィエト・ロシア国立アカデミー・エストニア男声合唱団(④)
クリスティーン・ペンドリル(コール・アングレ)
パーヴォ・ヤルヴィ指揮
ヘルシンキフィルハーモニー管弦楽団(①~④)
フィルハーモニア管弦楽団(⑤~⑦)

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。