かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

コンサート雑感:オーケストラ・ラム・スール第10回記念演奏会を聴いて

コンサート雑感、今回は令和7(2025)年4月29日に聴きに行きました、オーケストラ・ラム・スールの第10回記念定期演奏会のレビューです。

オーケストラ・ラム・スールさんは東京のアマチュアオーケストラです。音楽監督の平林遼さんが特に個性的なのですが、平林さんが結成したものではないようです。とはいえ、相性は抜群です。

orchestralamesoeur.wixsite.com

チケット代が毎回無料で、今回も無料で行われました。その割には、レベルが毎回高すぎる・・・演奏後任意の寄付をという形ですが、次回からはお金を取るそうです。そうなっても十分やっていけるオーケストラだと思います。実際、オーケストラ・ダスビダーニャはできているわけですし・・・最後平林さんがある程度の人数が入らないとホールは貸してくれないと嘆いておられましたが、私はあまり心配する必要はないと思います。またこうやって私のブログが貢献できれば幸いです。

さて、今回のプログラムは以下の通りです。

マーラー 交響曲第10番より第1楽章
ショスタコーヴィチ 交響曲第10番

この二つに共通するのは、10という数字。ウェブサイトにある「プログラムの統一感」ということを明確にされた内容となっています。とてもアマチュアらしいプログラムです。こういう団体、大好きです。勿論、第10回ということに因んでいることは明白です。

マーラー 交響曲第10番より第1楽章
マーラー交響曲第10番はマーラーが残した最後の交響曲です。1910年に着手されましたが1911年にマーラーが死去したため完成に至らず未完で残されました。第1楽章はほぼ成していますが第2楽章以降はスケッチだけのため、通常は第1楽章のみが演奏されます。今回もその形での演奏です。

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とりわけ静謐というか、静かな曲であることが特徴です。それはまだ不完全だからなのかもしれません。そこを平林さんはオーケストラにとりわけ柔らかく演奏することを求めたようで、まるでベルベットのよう演奏・・・思わずうっとり。そのうち寝てしまいそうに・・・つまらないのではなく単なる寝不足ですが。ですがこの柔らかくというのはアマチュアが最も不得手とする表現ですが、本当にプロオケのように演奏してしまうのです。その意味では、その静謐さの中にさらに生命を感じることができればなお良かったのかもしれませんが、そこはマーラーの第10番という作品が不完全ゆえの難しさということもあるでしょう。プロオケでも演奏例が少ないことを考えれば、とにかく静謐に演奏できただけでも評価すべきです。まさにオーケストラ・ラム・スールさんの実力の高さを見せつけた演奏でした。実は次回はマーラーの「復活」なのですが、とても期待できる演奏でした。

ショスタコーヴィチ 交響曲第10番
ショスタコーヴィチ交響曲第10番は、1953年に完成され初演された交響曲です。実際にはもっと早い時期から着手されていたようです。その経緯から、スターリンに抑圧された時代を写したものとも言われています。

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ただ、今回の平林さんの解釈は決して抑圧だけでなく、スターリンの死という「解放」も表現しているというものでした。ところどころ激しいショスタコーヴィチのドグマとも言うべき部分が数々出てきますが、そのところの強さと誠実さはオーケストラ・ダスビダーニャをもしのぐ高い演奏レベル。ゆえに私の魂を貫いていきます。それはまた、マーラーとの対比で静と動ということでもあるでしょう。どちらも高いレベルで表現できることを、聴衆に見せつけた格好です。

ykanchan.hatenablog.com

そして、平林さんが決して抑圧だけではないとするのが、第4楽章。後半から諧謔的と言うかおどけた明るい音楽になっていきますが、そこで平林さんは何と!指揮台で踊り出します。体で表現してオーケストラに指示を出す人ではあるのですが、まさかのダンスが始まろうとは・・・ですがそれは、ここからショスタコーヴィチの喜びが始まるよ、でもそれはひねくれてもいるよという、平林さんの意思表示であり指示でもあるわけなんです。

これを受けるオーケストラは若い人ばかりと思いきやそんなことはなく所々髪がロマンスグレーの方々も・・・その平林さんの「ダンス」を受けて、しっかりと狂気乱舞の様子を表現するオーケストラのレベルの高さ・・・まさにこれがオーケストラ・ラム・スールさんの演奏の楽しさでもあります。これぞアマチュアイズム!でも、決して下手ではない演奏は、大満足です。

最後のアンコールは、おお!祝典序曲!オーケストラ・ダスビダーニャさんなら1プロに持ってくるはずのものをアンコールに持ってきました。実は当日、ホール(横浜みなとみらいホール)後方座席は閉鎖されており譜面台が置かれているだけだったのですが、ショスタコーヴィチの第10番が終っても使う様子がありません。ということはおそらくアンコール用だなとは思っていましたが・・・ただこの曲も、実はスターリンの死による「解放」という意味合いがあるため、しっかりと関連性があるということになります。その意味では、今回の裏テーマは「抑圧と開放」だったのかもしれないと思います。マーラーユダヤ人として当時のドイツにおいては孤独だったとも言えるわけですから。でも、それを自らの創作で自ら開放したとも言えます。人間は創作というアウトプットによりドグマを開放し精神を安定させるわけなのですから。

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その点で、まさに人間とは何ぞやという、芸術の根本を問うプログラムでしたし、また考えさせられる演奏会でした。次回第11回のマーラー「復活」もまた、人間の存在、生と死がテーマ。有料公演になりますが是非とも足を運びたく予定を開けておきたいと思います。

 


聴いて来たコンサート
オーケストラ・ラム・スール第10回記念演奏会
グスタフ・マーラー作曲
交響曲第10番嬰ヘ長調より第1楽章
ドミトリー・ドミトリエヴィチ・ショスタコーヴィチ作曲
交響曲第10番ホ短調作品93
祝典序曲イ長調作品96(アンコール)
平林遼指揮
オーケストラ・ラム・スール

令和7(2025)年4月29日、神奈川、横浜、西、横浜みなとみらいホール大ホール

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。