かんちゃん 音楽のある日常

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コンサート雑感:ソノーレ・フィルハーモニック・オーケストラ 一夜限りの特別演奏会を聴いて

コンサート雑感、今回は令和7(2025)年2月10日に聴きに行きました、ソノーレ・フィルハーモニック・オーケストラ一夜限りの特別演奏会のレビューです。

ソノーレ・フィルハーモニック・オーケストラは、東京の大学生が集まって結成されたオーケストラです。学生って音大生?いや、音大生も入っていますが中心は総合大学です。コンサートマスター一橋大学。今回協奏曲もプログラムにありましたがそのソリスト一橋大学。オーケストラは早稲田大学(つまり、早稲田大学交響楽団)の学生が主力でそこに音大生や他の総合大学(チェロの首席は中央大学!つまり、中央大学管弦楽団)もという構成です。

このオーケストラは一回限りの団体だそうで。ウェブサイトもありません。団員は口コミや公募などで集まったそうです。元々は一橋大学のピアノサークルで立ち上がり、そこから一橋大学管弦楽団、東京ジュニアオーケストラソサエティ、そして早稲田大学交響楽団へと広がっていったとあるのが興味深いです。そして実は、今回指揮者が居ません!ピアノ・サークルで立ち上げたその時から指揮者無しで考えていたとすれば、すごい企画力と決断力だと思います。なぜなら、当日のプログラム以下の通りオール・ベートーヴェン・プログラムであってモーツァルトではないからです。

①「プロメテウスの創造物」序曲
②ピアノ協奏曲第5番「皇帝」
交響曲第8番

ベートーヴェンがこれらの作品を書いた時期、指揮者がいるようないないようなという時代です。ちょうど時代の境目に当たります。本格的に指揮者というものが常設になったのは、メンデルスゾーンライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団を設立しその指揮者に就任してからです。

ですが、ベートーヴェンの作品もおそらく指揮者無しでも演奏していたはずです。そして以下のエントリでは、「第九」が指揮者無しで演奏されました。

ykanchan.hatenablog.com

これを聴いていたからこそ、今回足を運ぼうと思い立ったのです。学生だとどうなのかなという不安がなかったわけではありませんが、オーケストラだけなら期待できるのではと考えたのもあります。むしろ協奏曲なのでそこが焦点でした。

まず、一つ結論を申し上げれば、一つの楽器が抜けていたにも関わらず、全く気にならないレベルの高い演奏だったと言うことです。その楽器とは、実はトロンボーンなのです。

①プロメテウスの創造物 序曲
1曲目は「プロメテウスの創造物」序曲。ベートーヴェンが作曲したバレエ音楽で、現代では序曲が専ら演奏されます。当日も勿論序曲のみです。

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さて、この曲は上記ウィキペディアにある通り本来はトロンボーンも編成の中にあるのですが、このソノーレ・フィルさんは実は室内オーケストラの形を採っていて40数名の編成です。その中に実はトロンボーンはありません。ホルンとトランペットなのです。あれ?トロンボーンは何処?と探しましたが見当たりませんし、冊子に参加されている方の名前が載っていましたがそこにもトロンボーンの項目はありません。ですが、演奏を聴いていて不具合を感じませんでした。むしろ生き生きとした強いアインザッツの音が冒頭響き渡ったのです!しかも、弦楽器に痩せた音は一切ありません。ホールは、渋谷区総合文化センター大和田さくらホール。非常に響きのいいホールですが、全く聴こえてきません。いいホールであったとしても聴こえてくるときは聴こえるものですが、一切ありません。その音を聴いて猛烈にレベルが高いと感じました。確かに音大生(東京藝大、東京音大桐朋学園大学)も入っていますが、そもそもそれ以外の総合大学に通う学生のレベルが高くないとアンサンブルが乱れますから、いかに音大生以外の学生のレベルが高いかがわかろうものです。

②ピアノ協奏曲第5番「皇帝」
ベートーヴェンのピアノ協奏曲の中でも特に有名なのがこの「皇帝」だと言えるでしょう。

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さて、1曲目はコンサートマスターボウイングに合わせれば何とかなります。では協奏曲ではどうしましょう?私としては、ピアノ協奏曲で来たか!と思いました。なぜなら、ピアノだと実はピアニストが指揮できるのです。初演時はベートーヴェンの弟子チェルニーがピアニストを務めていますが、その前の公開初演、さらにその前の非公開初演でも、指揮者の記述がないと言うことは、ほぼ間違いなくピアニストが指揮を務めているということを意味します。この形は古典派の時代ではよくあることで、モーツァルトも自分のピアノ協奏曲を初演する「予約演奏会」ではモーツァルト自身がピアノを弾き、指示を出していたわけですから、当然同じように演奏されたと考えるのが自然です。そしてこの当日も、ピアニストにより指示がされていました。そのピアニストは、現役一橋大学生である、中村崇仁。実はこのソノーレ・フィルの代表が中村さんなんです。言い出しっぺである可能性は高いですね。ピアノ協奏曲で指揮者無しでやりたい、でもそれだけではコンサートとしては時間が短すぎる。なら管弦楽だけも思い切って指揮者無しでやってしまおう!という発想ではなかったかと思います。むしろ指揮者を探す時間が省けると考えればいい挑戦だったと思います。

この「皇帝」は、かなりアグレッシヴな演奏になっていました。「プロメテウスの創造物」でもテンポが速くアグレッシヴではあったんですが、この「皇帝」ではあまり強弱を付けず大群が押し寄せるかのような激しさを伴うものでした。聴いていてもう少し強弱があった方がいいのになあと思っていてそれでしか表現できないのかなと思っていましたが、それが後半を聴いてあえてであると分かったのです。この辺りは、指揮者無しなのでしっかりと団員が相互に話し合って音楽を作ってきたんだなと思います。多少違和感があっても、最後のクライマックスを終えた後、残響が消えるか消えないかで万雷の拍手!私も思わずブラヴォウ!をかけました。

なお、ソリストアンコールはリストの「ゲーテの詩による6つの歌曲 第2曲「彩られたリボンで」」S468が演奏されました。実はこれ、ベートーヴェンの歌曲のトランスクリプション。粋でした!そのピアノでは強弱がはっきりつけられていたので、ほぼ間違いなくあえてあまり強弱を付けずに演奏したと言うことが分かりました。オーケストラはどうだったのかは、最後のアンコールでわかることになります・・・

なお、この「皇帝」も本来トロンボーンがある曲ですが、今回は無しで演奏されています。むしろトロンボーンがないのでいっそ思いっきりアグレッシヴに行ったのかもしれません。

交響曲第8番
今回粋だなあと思ったのは、メインがこの第8番だったことです。緩徐楽章がメヌエットになっていることから一見すると古い様式に戻った印象がある曲ですが、しかし実際は宮廷舞曲的ではなく牧歌的になっているため、ベートーヴェンがあえてメヌエットという形式を選んだ可能性が高いでしょう。

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第2楽章のスケルツォは、かなりリズムが強調されている曲です。特にこの第8番あたりから、チェロの首席(中央大学管弦楽団員)の後ろあたりで弾いている早大生が、頭を振りながら体を揺らして演奏しているのが印象的。それ以外の人たちも比較的全身を使って演奏しているのが、結果的に地味にも見られる第8番という作品にも、しっかりとベートーヴェンが込めた情熱が宿っていることを証明してみせました。私自身、第8番で思いっきり楽しめたのは初めてで、若いっていいなあと思います。テンポも若干速めで古典派を意識したもの。そもそも、指揮者無しというのは現代から言えば特殊で古めかしいやり方ではありますが、一方で民主的でありそのうえで指揮者という人件費も削減できるので、新しいとも言えます。その分団員の負担は大きくなりますが、私が言っている「バロック的な編成で古典派以降の作品も演奏されるようになる」という言葉を現実化させたものと言えます。若い人がこうやってチャレンジして、新しい可能性を提示することは喜ばしいことですし、私もエントリを立て続けてきて良かったと思うところです。

この演奏でもトロンボーンがないわけですが、全く支障なかったです。違和感もないのが印象的。おそらくいろんな演奏を聴いているなと思います。古いものを参考にしながら新しいアプローチする。当夜の演奏を聴いて、本当に新しいとは何か?と問わずにはいられませんでした。

さて、感が言い方は、それだと演奏時間がちょっと足らないのでは?と思う方もいらっしゃるかもしれません。実際、当夜もここまででほぼ休憩20分を含め1時間45分ほど。これで終わりかと思いきや、万来の拍手に応えたアンコールは何と!ベト7ベートーヴェン交響曲第7番第4楽章だったのです!

勿論一部ではなく第4楽章フルです。リズムの権化とも言われる第7番ですが、特に第4楽章は熱狂する演奏になります。リズムを協調しつつも、実はここで強弱をしっかりつけて来るんです!まるで最後に取っておいたかのように。そこで初めて、「皇帝」ではあえてだったんだなとわかったのです。「皇帝」の初演時はちょうどナポレオンのウィーン包囲の前後で、ウィーンが騒々しく貴族も逃げてがらんとしていたころ。そんなときに、まるで市民を元気づけるかのような曲であると同時に、カデンツァがないという革新性も持った作品を、その特徴を演奏でいかに表現するのかという、むしろ深い考察の上での攻めの演奏だったと分かったのです。こういう粋なことをするか!と思いました。コンサートマスターとピアニストはこの後リサイタルも開くそうで、そもそも二人とも実力者だということでもあります。それだけのソリストであれば、それが管弦楽であったとしても、いっぱしの解釈をするだけの力量はあるだろうと思います。振り返ってみれば本当に素晴らしい演奏で、一回だけではもったいない!と思います。

私が毎年足を運ぶオーケストラ・ダスビダーニャですが、実はこのダスビダーニャというのはロシア語でさようならという意味。な善ら、ダスビも一回だけの予定だったからです。それがあれよあれよと30回を超える定期演奏会を開いています。ソノーレ・フィルさんもできれば定期的に集まって演奏するようなことがあると嬉しいなあと思います。勿論、指揮者無しで。そういうアマチュアオーケストラがあってもいいと思います。終演後万雷の拍手が残響が消える前に沸き起こったのは当然でしたし、私自身もまたアンコール終演後にブラヴォウ!をかけました。また、協賛に日本奏楽コンクール、東京ピアノコンクールが名を連ねていたのも当然の演奏だったと言えましょう。まさに母校中央大学の応援歌にある通り「精鋭こぞり、奮い立つ」演奏会でした!

 


聴いてきたコンサート
ソノーレ・フィルハーモニック・オーケストラ一夜限りの特別演奏会
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲
「プロメテウスの創造物」序曲作品43より序曲
ピアノ協奏曲第5変ホ長調作品73
交響曲第8番ヘ長調作品93
交響曲第7番イ長調作品93第4楽章(オーケストラアンコール)
フランツ・リスト作曲
ベートーヴェンゲーテの詩による6つの歌曲 第2曲『彩られたリボンで』」S468(ソリストアンコール)
中村崇仁(ピアノ、オーケストラ代表)
加藤弘之コンサートマスター
ソノーレ・フィルハーモニック・オーケストラ

令和7(2025)年2月10日、東京、渋谷、渋谷区総合文化センター大和田 さくらホール

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。