かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

東京の図書館から~府中市立図書館~:テルデックレーベルの古楽演奏によるバッハのカンタータ全集10

東京の図書館から、78回シリーズで取り上げております、府中市立図書館のライブラリである、テルデックレーベルから出版された、古楽演奏によるバッハのカンタータ全集、今回は第10集を取り上げます。なお、実際は第5集の2ということになっていますが、便宜上通し番号にしています。

収録曲は、第19番と第20番の2つです。この全集では指揮者は2人体制で、今回はニコラウス・アーノンクールが担当しています。

カンタータ第19番「かくて戦おこれり」BWV19
カンタータ第19番は、1726年9月29日に初演された、大天使ミカエルの祝日用のカンタータです。

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詳しくはウィキペディアを参照していただきたいのですが、当日の聖書の引用を意識した冒頭になっており、荒々しい音楽になっているのが特徴です。それを古楽演奏だと貧弱かと思いきや、かなり荒々しく、十分です。それがモダンになれば確かにさらに荒々しくはなるなあと思います。ただ、それがモダンのほうがいいと感じるのはあくまでも私たちがモダン楽器の音、正確にはピッチに慣れているからであり、当時の人は現在だと貧弱に思える楽器による演奏であっても、聖書が言う「天使と悪魔の戦い」を感じ取ったと言えます。

今回、指揮者はアーノンクールですから、合唱団もウィーン少年合唱団とウィーン合唱隊です。つまり、ソプラノ・ソロはウィーン少年合唱団ボーイソプラノということになります。そのボーイソプラノがまたうまい・・・当然でしょ?と思われるかもしれませんが、周りは大人なんですよ?これが初演時ではデフォルトだったと考えれば、やはりそのレベルの高さは毎度驚くものです。

また、第5曲のテノールアリア。そのテノールはクルト・エクヴィールツなので素晴らしいのですが、実は二重構造になっていて器楽は別のコラール(Herzlich lieb hab ich dich, o Herr)を演奏しているのです。アリアの歌詞を味わうと同時に、別のコラールの歌詞がそこに交わってくるわけです。実はアリアの歌詞はそのコラールを踏まえており、そのためトランペットはまるで協奏します。これがリリンクだと多少トランペットが前に出ている印象がありました。どちらもトランペットは素晴らしいのですが、主役はどっちなのか、あるいは両方なのかは、二人で解釈が分かれているなと思います。

カンタータ第20番「おお、永遠、そは雷のことば」BWV20
カンタータ第20番は、1724年6月11日に初演された、三位一体節後第1日曜日用のカンタータです。そのタイミングから、コラール・カンタータです。規模も2部制を採っているため大きく、明確に1部と2部とで朗読される聖書の部分が異なることを意味しています。音楽もがらりと変わります。

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このカンタータでは永遠は恐怖の対象という位置づけです。つまり、ポジティブな意味ではなくネガティブな意味です。その「永遠の苦しみ」から解放されるためには、信仰が大事で、現世の富など意味はないよね?と説く内容です。演奏もその「恐怖からの解放」をどう表現するか、演じるかという点が重要になってきます。ソリストは第19番と変わらないラインナップで、さらにアルトのポール・エスウッドが加わっています。それにしても、ウィーン少年合唱団ボーイソプラノ以外のソリストは、人によってはリリンクの方にも参加されていますが、実によく歌い分けています。真に実力がある証拠だと言えます。これは現在のバッハ・コレギウム・ジャパンでも言えますが。

ただ、この古楽演奏のを聴いて気付くのは、恐らくリリンクの録音はマイクを複数使っているな、ということです。器楽と声楽のバランスがいいということは、言い換えればそのバランスを取っているのは果たして人なのかそれとも技術なのか?ということは録音だからこそ問題なのです。マイクを複数立ててミキシングすればいい演奏になることは結構あり、セッション録音ではかなり普通です。クラシック以外だとミキシングしていない録音はないと言えますし。

一方、この古楽演奏では、器楽と声のバランスが若干アンバランスになっています。それは聴き手に於いて決していやなことではなくむしろコンサートホールでの演奏を聴きなれている人であれば普通です。なので全く問題ありません。ゆえにこの録音はおそらくマイクは1本、あっても2、3本で済ませていて目立ったミキシングはしていないと言えるかと思います。それは古楽演奏だからとも言えるでしょう。一方モダンだと、楽器の性能がいいので声楽がどんなに頑張ったとしてもむしろアンバランスになりそのアンバランスは古楽とは異なり不自然さへと向かいかねません。リリンクはその特性を知ったうえでタクトを振っていたはずで、その点も含めて私はリリンクを評価するのです。一方だからと言って古楽演奏を貶めないのは、その録音の裏側ということを知っているからです。

私の父は、某オーディオメーカーのエンジニアだったとかつて述べましたが、それゆえに若い頃はライヴ会場にツートラ三八を持ち込んで自主録音し、自分で楽しんでいた人でもあります。実際家にはオープンリールにその録音が残っており、良く父と一緒に聴いた(正確には「聴かされた」)ものです。その経験を持って私はコンサートホールに足を運び、さらに家では録音を聴いています。そのため、リリンクの演奏がなぜいいのか、その理由を想像できるため、安易に古楽演奏を貶めてモダン演奏を持ち上げるということはしません。どちらであってもいいものはいいです。だだそれだけです。新しいから飛びつくわけでもないです。これは現在ネット界隈で盛り上がっている議論とは一線を画すものでしょう。私はそれでいいと思っています。まただからこそ、コンサートホールにも足を運ぶわけでもあるのです。

 


聴いている音源
ヨハン・セバスティアン・バッハ作曲
カンタータ第19番「かくて戦おこれり」BWV19
カンタータ第20番「おお、永遠、そは雷のことば」BWV20
ウィーン少年合唱団員(ソプラノ)
ポール・エスウッド(アルト)
クルト・エクヴィールツ(テノール
マックス・ヴァン・エグモント(バス)
ウィーン少年合唱団/ウィーン合唱隊(合唱指揮:ハンス・ギレスベルガー)
ニコラウス・アーノンクール指揮、通奏低音チェロ
ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。