かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

東京の図書館から~府中市立図書館~:テルデックレーベルの古楽演奏によるバッハのカンタータ全集1

東京の図書館から、今回から78回シリーズで取り上げます、テルデックレーベルから出版された、古楽演奏によるバッハのカンタータ全集、今回はその第1回目です。第1集を取り上げます。収録曲は第1番、第2番です。

え、まさか番号順なのですかという、ア・ナ・タ。そーなんです!この全集は番号順で収録されています。つまり、各曲が作曲された時期はランダムなんですね。勿論、教会歴としてもランダムです。そのため、この全集では成立年の解釈などはあまり重要ではないと言えます。むしろ、バッハの時代の編成、音色というものに、演奏が迫れているか、その結果は菊に満足なのかということの方が重要になります。

しかも、この全集は昨日も述べましたが、指揮者が二人体制です。一人はニコラウス・アーノンクール。そしてもう一人が、グスタフ・レオンハルトです。古楽演奏に詳しい人であればもうお分かりかと思いますが、当然ながら演奏するオーケストラも違います。アーノンクールの時は基本的にウィーン・コンツェントゥス・ムジクスですし、レオンハルトの時はレオンハルト合奏団です。

しかも、この全集は各集でアーノンクールレオンハルトとで統一されているとは限らないのが曲者です。今回はアーノンクールで統一されていますが、場合によってはアーノンクールレオンハルトが混在していることもあります。この点はご容赦くださいませ。

さて、まずは第1集に参りましょう!

カンタータ第1番「輝く明けの明星のいと美しきかな」BWV1
カンタータ第1番は、1725年3月25日に初演された、受胎告知の祝日用のカンタータです。

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コラール・カンタータの一連のプロジェクトの、とりあえずの終了を意味する楽曲です。冒頭合唱は伸びやかですが、リズムもしっかり刻んでおり、伸びやかなのにどこか心臓の鼓動が聴こえるような感じです。この演奏を聴くと、多くのモダンを聴いていて古楽演奏に拒絶反応を持っている人は腰抜かすのではないでしょうか。あまりにもゆったりしていて、まるで後期ロマン派のようなテンポなので。

多くの人が勘違いしていますが、あれは基本的に古典派のピリオド演奏です。バロックでも一緒だと思ってはなりません。バロックでは古楽演奏であったとしても必ずしもテンポが速いとは限りません。勿論速いこともあると思いますが。

それよりも注目なのは、この第1番のアリアです。第3曲のソプラノ・アリアですが、実はボーイ・ソプラノなのです。リリンクが大人のソプラノを使っていたのに対し、アーノンクールは合唱団のボーイ・ソプラノに歌わせています。ちなみに、合唱団はウィーン少年合唱団とウィーン合唱隊の合同です。

この編成が正しいかどうかは判断が難しいところです。何故ならば、ウィーン少年合唱団の歴史を紐解きますと、宮廷合唱団だからです。しかも、ウィーンは必ずしもプロテスタントではなく、むしろカトリックです。そのため、この編成は果たして歴史的と言っても適切なのか?という疑問は沸くと思います。ただ、編成あるいは楽器の性能が近いということで言えば適切、ということになります。

その意味では、この演奏に於いて、アーノンクールは宗教ということではなく、楽器や編成というアプローチでピリオドとして演奏している、ということになります。とはいえ、演奏を聞いていますとどこかリリンク的なものも感じられます。ゆったりとしていてもリズム感が感じられるなどがそれです。その意味では、アーノンクールはバッハの芸術が何たるかを理解して表現していると言えます。

最後のコラールでは、合唱に音を短く歌わせています。それでも違和感がないのが不思議。残響がよく響いているため、そういう歌い方もアリだとアーノンクールが判断した可能性はあります。正直、リリンクの演奏は物凄くスコアリーディングは深いですし音楽の背景、聖書なども参照した演奏だと思いますが、残響としては教会ほどの長さがないと感じられる部分もあるのです。一方このアーノンクールのものはしっかりとした残響があります。もしかするとこれは教会で録音しているかな?と感じられます。

その点で言えば、バッハ・コレギウム・ジャパンはリリンクとこの全集を参考にして、ロケーションをチャペルにした可能性が高いです。しっかりとそれぞれはつながっているのですよね。本来それぞれの違いを楽しむとはこういうことだと思います。

カンタータ第2番「ああ神よ、天より見そなわし」BWV2
カンタータ第2番は、1724年6月18日に初演された、三位一体節後第2日用のカンタータです。

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ここでも、ゆったりとしたテンポであっても、リズムを感じることができます。さらにどこか足取りが軽いような部分も・・・それだと、嘆きは?と言うかもしれませんが、祈ることでその意思が神に伝わり、成就されることを音楽で表現したとすれば、問題はないと思います。むしろそれだけバッハの音楽は深く単純ではないのです。その点をアーノンクールもしっかりと踏まえているということになります。

また、第3曲のアルトは、女性ではなくカウンターテナーを採用しています。この辺りは徹底的に当時風を心掛けていると言えます。それでも表現としては問題ありません。カンタータはある意味オペラの一種でもありますが、受難曲に比べるとカウンターテナーが違和感がないと言うのは、カンタータに求められている役割が、受難曲とは多少異なることを意味します。こういう点はリリンクの演奏を至上としてしまうと逆に理解できなくなると個人的には感じます。確かにリリンクの解釈と彼のタクトから紡ぎ出される音楽は素晴らしいのですが、しかしそれはカンタータというジャンルの性格をわかりにくくさせ、誤解させる可能性があると思います。むしろリリンクの功績は、オペラとは離れたものと思われがちのカンタータを、オペラから派生した音楽ということを思い起こさせる点にあると思います。

一方、アーノンクールのこの古楽演奏は、カンタータがオペラから派生して、別の役割も持つようになった、つまり祈りや諭旨という内容も含むということを理解させるのに十分なのです。その演奏を第1集からいきなり提示しているのですね。勿論、大人の声楽はかなり感情も入っているので全くオペラ的ではないとは言えませんが、しかしそのオペラ的というところにも意味がある、ということをさりげなくわからせるアーノンクールの解釈もまた、評価されるべきでしょう。

こうなると、レオンハルトがどのような解釈と演奏をするのかが、楽しみになりますね!

 


聴いている音源
ヨハン・セバスティアン・バッハ作曲
カンタータ第1番「輝く明けの明星のいと美しきかな」BWV1
カンタータ第2番「ああ神よ、天より見そなわし」BWV2
ウィーン少年合唱団員(ソプラノ)
ポール・エスウッド(アルト)
クルト・エクヴィールツ(テノール
マックス・ヴァン・エグモント(バス)
ウィーン少年合唱団/ウィーン合唱隊(合唱指揮:ハンス・ギレスベルガー)
ニコラウス・アーノンクール指揮
ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス

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