東京の図書館から、78回シリーズで取り上げております、府中市立図書館のライブラリである、テルデックレーベルから出版された、古楽演奏によるバッハのカンタータ全集、今回は第4集を取り上げます。収録曲は第7番と第8番です。なお、この全集は番号順です。そのため、各曲の成立年は異なります。たまたま、この第4集では同じ年になっています。
そして、この第4集では指揮者が代わり、グスタフ・レオンハルトが務めており、合唱団やアンサンブルも変更になっています。ただ、ソリストはそれほど変わっていません。
①カンタータ第7番「われらの主キリスト、ヨルダンの川に来たり」BWV7
カンタータ第7番は1724年6月24日に初演された、洗礼者ヨハネの祝日用のカンタータです。コラール・カンタータ・プロジェクトによって生み出されたコラール・カンタータの一つです。第1曲と最終合唱だけでなく、第3曲のレチタティーヴォにもコラールが入っています。
さて、この第4集では指揮者がレオンハルトに交代したため、冒頭合唱もケンブリッジ・キングス・カレッジ合唱団に変更になっています。ではソプラノはもしかするとキングスカレッジ合唱団からなのですか?と思いますでしょ?そうではないんです。何と、他の聖歌隊のボーイソプラノを採用し、レーゲンスブルク大聖堂少年合唱隊員が務めています。この辺りは、レオンハルトの判断の興味深いところです。おそらく、ケンブリッジ・キングス・カレッジ合唱団だと、カンタータを歌いなれていないということがあったのでは?と思います。この辺り、レオンハルトが使いたかった合唱団はそもそもレーゲンスブルク大聖堂少年合唱団だったのでは?と思わずにいられません。しかし実際はレーベル側の要求でキングス・カレッジ合唱団になったような気がします。
ケンブリッジ・キングス・カレッジ合唱団の歌唱は素晴らしいので文句をつけるつもりはないんですが、しかしボーイソプラノの素晴らしい歌唱を聴きますと、レオンハルトが使いたかったのはレーゲンスブルク大聖堂少年合唱団なんだろうなあと思わずにはいられないのです。アーノンクールはウィーン少年合唱団とウィーン合唱隊の二つを採用していました。同じ様にレオンハルトもしたかったのではと思うのは自然でしょう。
ソリストはほとんどアーノンクールと変更がありません。特にアルトであるカウンターテナーのポール・エスウッドは変更なし。テノールのクルト・エクヴィールツは何とリリンクの時にも参加しています。この辺り、モダン楽器のリリンクを思い切り意識していると思います。ある意味リリンクの全集で定評があったソリストをなるべく採用しています。その点で言えば、いかにバッハ・コレギウム・ジャパンのプロジェクトが意欲的なものだったかが際立ちます。
内容は洗礼なのですが、厳かな雰囲気の曲なので、その雰囲気を壊さない範囲で感情が表現されています。この辺りもどこかリリンクをほうふつとさせます。この点から言っても、リリンクがリヒターとは境界線を引き、古楽演奏に近づけたと言えますし、また古楽側はそのリリンクの演奏を踏まえて自分たちの表現をしていると感じます。
②カンタータ第8番「いと尊き御神よ、いつわれは死なん」BWV8
カンタータ第8番は、1724年9月24日に初演された、三位一体節後第16日曜日用のカンタータです。第7番と同じく1724年の成立ですので、このカンタータもコラール・カンタータの一つとなります。
テンポはリリンクとそれほど変わりません。おそらく古楽演奏はテンポが速いからだめと思っている人は腰抜かすのではないでしょうか?バッハ・コレギウム・ジャパンですら、全部が全部速いわけではないですし、結構バロックにおいては何でもかんでもテンポが速いというものはありません。ケースバイケースです。むしろその判断は指揮者がスコアリーディングの上で判断していると言えます。この第8番においても、レオンハルトは古楽だからテンポは速くという画一的な考えではなく、このカンタータの内容が死と信仰というものに関連することから、ゆったりとしたテンポを採用したと考えていいでしょう。
むしろ、宗教的なテーマから離れ始めた、古典派の作品を演奏する時こそ、テンポはより速くとなっていることに気づきますと、モダン楽器「原理主義」からは逃れられると個人的には思います。むしろレオンハルトが採用したテンポには、聴衆に対する挑戦があるように思うのは私だけなのでしょうか。
ここでも、ソプラノがレチタティーヴォを担当していますが、少年合唱団のボーイソプラノでありながらも、どこか女声的でプロなのか?と思ってしまいます。むしろ欧州のソリストのうまさの本質がここに見えます。その意味では、実は日本でNHK学校音楽コンクールがあったり、全日本合唱コンクールがあったりすることは非常に重要なことだと思います。主催だけを見て批判する無理解な人たちは、この国の文化を破壊するつもりなのかと、憤らずにはいられません。まさに母校日大三高校歌の歌詞「文化の守り」を実践しようとする私としては、安易に受け入れることはできません。特にこのレオンハルトの演奏を聴きますと、強烈に感じます。
聴いている音源
ヨハン・セバスティアン・バッハ作曲
カンタータ第7番「われらの主キリスト、ヨルダンの川に来たり」BWV7
カンタータ第8番「いと尊き御神よ、いつわれは死なん」BWV8
レーゲンスブルク大聖堂少年合唱隊員(ソプラノ)
ポール・エスウッド(アルト)
クルト・エクヴィールツ(テノール)
マックス・ヴァン・エグモント(バス)
ケンブリッジ・キングス・カレッジ合唱団(合唱指揮:デーヴィッド・ウィルコックス)
グスタフ・レオンハルト指揮、通奏低音
レオンハルト合奏団
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