東京の図書館から、78回シリーズで取り上げております、府中市立図書館のライブラリである、テルデックレーベルから出版された、古楽演奏によるバッハのカンタータ全集、今回は第3集を取り上げます。収録曲は第5番と第6番です。この全集は二人の指揮者とオーケストラによる、番号順となっています。そのため、収録曲は年代順ではありません。
①カンタータ第5番「われはいずこにか逃れゆくべき」BWV5
カンタータ第5番は、1724年10月15日に初演された、三位一体節後第19日曜日用のカンタータです。コラール・カンタータの一つとなっています。同時に、第4曲のレチタティーヴォを中心にした鏡像カンタータでもあります。
発声としてはビブラート歌唱なので、その分は私としてはマイナスですが、かといって歌唱に問題があるわけではなく、特にソプラノのウィーン少年合唱団員はこのカンタータではレチタティーヴォも担当。そうとう実力のある人だと判断してよさそうです。有名ソリストがウィーン少年合唱団出身とか普通にありますし。
このカンタータの特色としては、例えば鏡像カンタータの中心たる第4曲のレチタティーヴォが器楽コラール付きという手が込んだもの。レチタティーヴォのうらで器楽がコラールを演奏するという、二つの旋律があるというものです。ソリストはアルト、ここではカウンターテナーですが、そこもまた味わい深い歌唱。この辺りはさすが古典派あるいはバロック作品の演奏に定評があるアーノンクールだと思います。
②カンタータ第6番「われらと共に留まりたまえ」BWV6
カンタータ第6番は、1725年4月2日に初演された、復活節第2日用のカンタータです。
復活祭だから明るい曲かと思いきや、冒頭合唱はそうでもありません。ただ、この演奏ではそこにウィーン少年合唱団を中心にした合唱が響くわけです。どこか清潔あるいは清廉な印象を持ちます。それが初演時もそうだったかは定かではありません。とてもいい演奏ではあるんですが、同じ古楽演奏である、バッハ・コレギウム・ジャパンと比べてしまいます。少年なのである程度の人数が必要とアーノンクールは判断したのでしょうが、鈴木雅明の場合は、少人数の大人と判断したんだと思います。そもそも楽器編成も少ないわけですし、合唱もそれほど多くはないはずと考えるのは自然です。
その意味では、ソリストと比べて合唱はやや多いなという印象も私の中にはあります。この辺りはもう好みの問題ではあるんですが、バランスというものを考えた時、果たしてアーノンクールの選択がいいかどうかは議論の余地があると考えます。いや、ほんとに素晴らしい演奏なんですけどね。でもそれを素晴らしいと捉えるのは、私自身が20世紀の生まれであり、この21世紀を生きている人間だからだと思います。
2曲とも、やはり現代を生きる芸術家による演奏であり、聴き手も現代を生きる人間だからこそ共感できる演奏になっているとすれば、古楽演奏とは何ぞや?ということになるでしょう。その問題意識があったのが、バッハ・コレギウム・ジャパンだったとすれば、アーノンクールの選択が鈴木雅明に与えた影響の大きさも、この二つの演奏から見えてきます。その点でも、やはりアーノンクールの演奏は重要だと言えましょう。ただ、ソリストの数がリリンクから比べればずっと少ないことは、初演当時のドイツの状況を踏まえたと言えるのです。その点もまた、バッハ・コレギウム・ジャパンに与えた影響は大きかったと言えます。いずれにしても、アーノンクールの演奏も非常に重要なものだと言えます。
聴いている音源
ヨハン・セバスティアン・バッハ作曲
カンタータ第5番「われはいずこにか逃れゆくべき」BWV5
カンタータ第6番「われらと共に留まりたまえ」BWV6
ウィーン少年合唱団員(ソプラノ)
ポール・エスウッド(アルト)
クルト・エクヴィールツ(テノール)
マックス・ヴァン・エグモント(バス)
ウィーン少年合唱団/ウィーン合唱隊(合唱指揮:ハンス・ギレスベルガー)
ニコラウス・アーノンクール指揮、通奏低音
ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス
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