かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

マイ・コレクション:「完全忠実な新ベーレンライター原典版による世界初演」の第九

今回のマイ・コレは、新ベーレンライター原典版による第九を再び取り上げます。いわゆるその世界初演と言われている、デイヴィッド・ジンマン指揮、チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団による演奏です。

実際には日本のアマチュアオーケストラである日立フィルによって世界初演はなされていることを昨日述べましたが、しかしこのCDの看板が嘘偽りなのではありません。テーマでも掲げましたが「完全忠実な新ベーレンライター原典版による世界初演」であることには代わりないのです。

この演奏ではテンポにまで忠実に再現しています。ですので、第九がもともとどういった姿だったのかが、よくわかる演奏となっています。全体的に早めのすっきりとしたテンポは、この曲が古典派的な色彩を確かに持つことを私たちに教えてくれています。

では、それ以外何があるのかと言えば、とても学究的なことになります。楽譜上の音はどうなのかとか、とてもこまかい部分になってきますが、それは少なくとも合唱団員としては知っておいて損はないが必ずしも必要ではないものが多数を占めます。

その意味では、出た当時私は団員にあまり積極的には薦めなかった一枚なのです。これは指揮者がもっておくべき一枚であって、極端なことを言えば、演奏者は一度聴いてしまえばあとは捨ててもいいくらいの演奏です。むしろ、演奏側としては断然日立フィルの演奏を持つことをお奨めします。なぜなら、日立フィルはさらに吟味をして、現場に即したものにしたうえで演奏しているからです。テンポはこのCDに較べれば若干遅めで、「なぜベートーヴェンは出版時に手稿譜から変更したのか」ということまで考えて演奏をしているからです。

最近ではそういった演奏が増えたこともあり、ブライトコプフ版も新ベーレンライター原典版を踏まえた新校訂になりました。そのきっかけを作った演奏ではあります。

当時私もこの演奏にはある意味驚きました。全体で1時間を切る第九など、今まで聴いたことがありませんでした。繰り返しまで含めてですから、いかに速いのかが分かろうというものです。

しかし、この演奏はあまり受け入れられませんでした。その音楽が、いわゆるベートーヴェンが持つ精神性というものをどこまで反映しているのかという点で、現場サイドで物議を呼んだためです。音楽として素晴らしいのは間違いない、しかし、これはどこまで当時のベートーヴェンの精神を反映しているものなのか、私も真剣に議論したものです。

結果、私は前回の日立フィルとほぼ同じ結論に辿り着きました。楽譜は新ベーレンライター原典版、しかしそれには完全に囚われない演奏をする。それが「落としどころ」だったのです。

この後、私はあまり「きわもの」の第九というものに興味を示さなくなりました。もうこの演奏だけで十分きわものですから。最後に二重フーガが終わったところの休符の異なる別テイクが入っているだけでも、もうおなかいっぱいです。これ以上どんな「きわもの」を求めればいいのでしょう?

むしろ、どんな指揮者がどんな「想い」を持った演奏をしているかに、その興味は移っていきました。そのため、このあたりから第九を買うペースはあきらかに落ちていきました。もう少し厳選して買おう、そういう方針へと変わっていきます。そしてそれが、私自身を新たな地平へと導いてくれました。

そういった「見切り」ということも、大切なことだと教えてくれた一枚でもあるように思います。

ただ、擁護するために言っておきますが、合唱団、オケともにとても秀逸です。だからこそ、ベートーヴェンが本来初めに夢見たような難しい演奏を、難なくこなしているのです。そのアンサンブルは申し分ありません。

しかし残念ながら、であるのにもかかわらず、そこから湧き上がってくるものがない・・・・・それが、この演奏の致命的な欠点なのです。



聴いているCD
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲
交響曲第9番ニ短調作品125「合唱付き」
ルート・ツィザーク(ソプラノ)
ビルギット・レンメルト(アルト)
ティーヴ・デイヴィスリム(テノール
デトロフ・ロート(バス)
スイス室内合唱団
デイヴィッド・ジンマン指揮
チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団
(Arte Nova BVCE-38013)



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地震および津波により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。同時に原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方に、感謝申し上げます。