かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

東京の図書館から~府中市立図書館~:萩森英明 沖縄交響歳時記

東京の図書館から、今回は府中市立図書館のライブラリである、萩森英明の沖縄交響歳時記を収録したアルバムをご紹介します。

萩森英明って誰?琉球交響楽団?クラシックファンでも知らない人のほうが多いのではないでしょうか。かくいう私もそうです。特に琉球交響楽団ってアマチュアなんですか?という声も聴こえてきそうです。

萩森英明(はぎのもりひであき)さんは東京出身の音楽家で、現在は洗足学園音楽大学で教鞭を執っていらっしゃいます。クラシックだけでなくJPOPでアレンジの仕事もしてきた人です。

www.senzoku.ac.jp

また、琉球交響楽団はれっきとした沖縄のプロオケです。2001年に設立された日本の地方オケの中では新しい団体で、沖縄の音楽文化を支える一翼を担っています。

www.ryukyusymphony.org

音楽監督大友直人氏。大友氏の名前は広く知られているかと思いますが、その彼が現在琉球交響楽団音楽監督になっているのはあまり知られていないかと思います。府中市立図書館の棚でこのアルバムを見つけた時、一瞬迷ったのですが指揮者が大友直人と見て、借りる決断をしましたがその判断は間違っていなかったと、このアルバムを聴いて感じています。

実は大友氏は琉球交響楽団の設立に大きくかかわっており、NHK交響楽団の首席トランペット奏者であった祖堅方正(そけんほうせい)氏が沖縄県立芸術大学の教授であった時に設立を依頼され、共同で設立したのが琉球交響楽団なのです。

沖縄交響歳時記は、2020年に萩森英明さんによって作曲された交響組曲で、琉球交響楽団の東京公演を記念して委嘱されました。

www.respect-record.co.jp

楽曲の詳しい内容は上記URLのほうが詳しいのですが、とにかく沖縄の音楽がそこには詰め込まれている上で、管弦楽曲として美しい作品に仕上がっています。まさに日本の新古典主義音楽と言ってもいい作品です。私たち本土の人間でもきいたことがあるような沖縄民謡がそこに散りばめられており、さらに6つの楽章の内4つは四季が表題として付けられ、まさに「歳時記」に相応しい楽曲です。

その点では、長らくJPOPなどのアレンジもされてきた萩森氏ですが、そこにはチェレプニン派(特に伊福部昭)の影響が見て取れます。ですが和声としては調性がはっきりしているものになっており親しみやすい曲でもあります。それが時に聴いていて郷愁から涙を誘います。特に私は30年ほど前沖縄に行ったこともありますので・・・鉄ヲタとしてはまだゆいレールに乗ったことがないので是非ともまた沖縄には行きたいところですが、聴きますとより一層その想いを強く持ちます。

また使われている民謡も現地の風土に根差したものが採用されているのも魅力的。また過度に民謡色に染めずそれを19世紀ヨーロッパで行われたように巧みに管弦楽作品として仕上げているのもいいです。東京出身の萩森氏だからこその共感もそこにはあるのかなと思います。東京に限らず首都圏、特に東京、神奈川、千葉、埼玉と言った都県の特に政令指定都市に生まれますと、田舎への憧れがあるためです。沖縄民謡が散りばめられているのに、私も父方の田舎である長野県諏訪市御柱祭を思い出すくらいです。

それが、例えば大友氏がルーマニア国立放送交響楽団の公演で日本初演に先駆けて第2楽章「春」と第3楽章「夏」を演奏した時に、団員が嬉々として演奏するということにつながっていると感じます。つまり、沖縄人ではなく東京人(つまりはヤマトんちゅ)が作曲したことで普遍性を持つことになったということです。それは沖縄という土地が、そもそも琉球王朝時代中継貿易で栄えてきたという歴史が、いまでも息づいていることを意味します。確かに歴史では様々なことが沖縄には起こり、人々は抑圧されてきましたが、その中で沖縄の人々は自らの精神を捨ててはいなかったことを意味します。勿論沖縄の作曲家にも優れた人がいて、まだ知られていない人もいますが、そういう人達へのリスペクトも、この曲からは浮かび上がります。まさにクラシック音楽の歴史においてそうだったように。

その精神への共感、そして指揮者との関係性が、演奏からにじみ出ています。特に最終楽章である「カチャーシー」では特に色濃く出ており、楽器を持っているのにどこか踊っているかのように聴こえてくるのです。そもそも団員の方が沖縄出身者が多くを占める事、そして指揮者の大友氏が設立から関わり続けていることが理由でしょう。甲子園で沖縄の高校が出ますと必ず「ハイサイおじさん」が演奏されますがまさにハイサイ!って感じなんです。これを最終楽章に持ってきた萩森氏も粋ですねえ。沖縄の魂がそこには存在し、ゆえに嬉々として演奏しているのがはっきりと聴き取れます。

また、音響もいいんです!沖縄にそんなホールあったのかと思いますが、何と南城市にあるそうで・・・ウェブサイトを調べてみますと、小さいながらも音響のいいホールでの収録です。

www.city.nanjo.okinawa.jp

日本のクラシックシーンで様々な新しい楽曲が生まれていることを私たちはもっと知るべきだと思いますし、また私も生でこの曲を聴いてみたくもなっています。他のクラシックの名曲とこの曲とが一緒に演奏された東京公演がCDになってくれればなあと思います。個人的には地方オケこそ、自主レーベルを持ち世界へ発信していくべきだと思っていますが、琉球交響楽団もそのようになれば、市場は世界に広がります。さらなる飛躍を願うばかりです。できれば沖縄まで行って公演が聴きたくなります!

 


聴いている音源
萩森英明作曲
沖縄交響歳時記
大友直人指揮
琉球交響楽団

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