東京の図書館から、4回シリーズで取り上げております、府中市立図書館のライブラリである、ダニエル・バレンボイム指揮ウェスト・イースタン・ディヴァン・オーケストラによるベートーヴェンの交響曲全集、今回は第3集を取り上げます。収録曲は第5番と第6番「田園」です。いわゆる「運命」と「田園」のカップリングです。
以前であれば全集ではなくても第5番と第6番のカップリングは普通にありました。最近は音楽ファイルで販売するケースも増えてきたことで、この2つのカップリングにこだわらないケースもありますが、この全集が出た当時はまだCD全盛期なので、このカップリングになったと考えられます。ゆえに、第4番までは番号が続いて収録されていないという結果にもなっていると言えます。収録時間がどうしてもCDでは合わなくなりますので・・・
この2曲はベートーヴェンの交響曲の中でも特に有名な作品であるだけに、注目を集めるという意味でもカップリングされることも多い作品です。ウェスト・イースタン・ディヴァンという団体の知名度を上げるという意味でもこのカップリングになったと想像されます。
①交響曲第5番「運命」
交響曲第5番は言わずと知れたベートーヴェンの交響曲を代表する作品です。スケッチは1804年から始められていますが本格的にとりかかったのは1806年。1807年に完成し初演は1808年と、実にスケッチから初演までは4年の歳月がかけられています。さらに、作品に大きな影響を与えたのが聴覚障害であり、「ハイリゲンシュタットの遺書」を書いたことで吹っ切れたことが成立に大きな力となったと考えられます。和声も自身の聴覚障害を念頭に置いたもので、当時のベートーヴェンが聴こえる和声の範囲内に収まっているのですが、実に勇壮で壮大な音楽に仕上がっています。
世の中にはいろんな障害を持った方の作品が存在しますが、個人的にはこの「運命」に勝る作品にはいまだ出会ってないというのが印象です。勿論個々の作品は素晴らしいのですが、これだけ魂を揺らす作品というのはなかなかお目にかかることはできません。それはやはり、この「運命」という作品が、ベートーヴェンをして「ハイリゲンシュタットの遺書」で腹に座った、障害と共に生きる覚悟に裏打ちされていることがにじみ出ているからだと、個人的には考えています。確かに「運命」という題名は史料的な側面からはそぐわない部分もありますが、しかしベートーヴェン自身が腹に据えた「覚悟」というのは、障害と共に生きるという自身の運命を受け入れて芸術を紡いでいくというものだと考えるので、この表題は個人的には評価するものです。ゆえに私は使うことにネガティヴではありません。
その物語を、演奏する団員一人一人がどこか感じ取り、自家薬籠中のものにしている演奏が、この演奏であると感じます。第1楽章はどっしり系のテンポですが、段々熱が入っていくのが手に取るようにわかります。中東という、大国や宗教に左右される地域に住む若者たちが一堂に会し、一つの芸術を紡いでいく中でベートーヴェンの苦しみに共感し、表現しているようにすら感じられます。バレンボイムがベートーヴェンの交響曲を最初の全集収録として扱ったのは、このベートーヴェンの苦しみを共有するためだとすれば、見事に目的を果たしていると言えます。特に第3楽章~第4楽章の、私個人が「勝利の音楽」と評する部分に於いて特に顕著です。
②交響曲第6番「田園」
交響曲第6番は第5番と同じ1808年に初演された作品で、当初はこの「田園」が第5番とされていたのは有名な話となっています。スケッチが始められたのは1807年で、そこから一気に作曲が進んでいった作品です。その意味では、第5番の着手によって吹っ切れたベートーヴェンが、自らの芸術の方向性を定めたその進化系だと言えましょう。
二つの交響曲に共通するのは、楽章が繋がっているという点です。第5番においては第3楽章と第4楽章、そしてこの「田園」では第3楽章~第5楽章です。そのうえで5楽章制を採用するという点も個性的。
この演奏では、その個性をどのように表現するか、考えあぐねているような印象を受けます。所々打点に対して音出しが合わない部分も散見されるため、作品が持つ魂をどのように表現すべきか、定まっていないように感じるのです。第1楽章と第2楽章はいいのですが第3楽章あたりからどこかぼやけ始めます。いいように受け取れば個人個人の受け取り方の総量だと言えますが、統一感に欠けている面も否めません。あるいは、戦争がまじかにあるせいか、田舎に行った時の喜びというものに複雑な感情を抱いているせいなのか・・・
とにかく、第2楽章までと第3楽章以降で多少差があるのは残念です。バレンボイムの指揮のせいという可能性もなくはないですが、フレージングを大切にしているバレンボイムなので、あまりそれは考えられないと思います。打点が見にくいという可能性はあると思いますが。
特に嵐の後の平安を表現する第5楽章で顕著なのが残念。全体的にはプロなのでアマチュアに比べればずっといいですが、やはりプロならもう少し何とかしてよという想いはあります。それでも、ユダヤとパレスチナという二つの民族で構成されるオーケストラである程度のレベルの演奏ができること自体奇跡ではあります。その意味では、その後のYouTubeのほうがいい演奏になっているのはブラッシュアップされた当然の演奏だと言えるでしょう。気になる方は検索してみてくださいませ。個人的にはタクトのテンポに多少あってない印象を持ちます。もしかするとリハーサルとテンポが変わったのかも・・・録音で?ですがその可能性もなくはないと思います。とはいえライヴではあるまいしとは思います。
全体的には素晴らしい演奏ですが、細かいところでまだまだと言った部分もある演奏。ここがスタートラインだったとすれば、それはそれでやはり将来性がある演奏だと言えましょう。
聴いている音源
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲
交響曲第5番ハ短調作品67「運命」
交響曲第6番ヘ長調作品68「田園」
ダニエル・バレンボイム指揮
ウェスト=イースタン・ディヴァン・オーケストラ
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