東京の図書館から、今回はウラディーミル・アシュケナージがNHK交響楽団を振ったベートーヴェンの第九のアルバムです。
実は、この演奏はe-onkyoネットストアがある時代に、ハイレゾで狙っていたものだったのです。ただ、それを図書館で見つけたので、図書館で借りてきてリッピングしておいたものです。ですが今となってはハイレゾで買っておいてもよかったかなと思っています。Qobuzではないんですよ、全集が・・・e-onkyoでは9曲すべてがそろっていました。ちなみにレーベルはEXTONです。
ですがいくつかはありますので、今回は第九だけ。録音は2005年の12月なので、いわゆるNHK交響楽団の年末の第九特別演奏会を録音したものと言えます(つまり、ホールはNHKホールというデッドなホール)。ちょうどアシュケナージがNHK交響楽団の指揮者に就任したということでタクトを振ったと記憶しています。NHK交響楽団の「第九」の録音はあるようで少ないですし、また古いものはありますがなかなか再販もされないので、ある意味貴重な音源と言えます。エアチェックをしている人はいると思いますし実は私のその一人で、3つほど録音しましたがそのうち今でも音源として手許に残っているのはこの演奏の3年前のものだけです。ですがエアチェックで残しておりそれを楽しんでいるという人も多く、ゆえにあまりNHKとしては出したがらないのかもしれません。特にNHKだとアーカイブスがあって受信料とは別に有料で利用できるので、今時はそっちを使っている人も多そうなので・・・それをスマホで見れば、ソニーのXperiaならハイレゾ相当で聴けてしまいます・・・私自身、+は会員になっていますがアーカイブスは有料なので今のところ見送っていますが、誘惑には駆られています・・・
とはいえ、私もこの演奏はPCでTune Browserを使ってリサンプリング再生していますけど。だからこそ、アーカイブス入会は見送っているという事情があります。
アシュケナージは人生においていろいろあった人なので、ある意味どんな演奏をするのか、期待して借りましたが、実はこの演奏の当時はあまり期待をしていたような記憶を持っていません。ですが借りてみて、それは杞憂だったなと思います。
まず、第1楽章。とても静かな出だし(これはさすがN響)で第主題が始まってからは端正なテンポを選択。ある意味無難にドライヴしている感じです。ですがべったり重厚に演奏させるのではなく八分音符のリズム感を感じさせるような演奏になっており、どっしり系のテンポなのに生き生きとした生命力を感じるのです。ティンパニもぶっ叩いてくれます。
第2楽章はまるでリズムの権化。そのうえで歌謡性も持っていて、第九という曲はベートーヴェンの作曲だったっけ?と勘違いしてしまいそうです。第2主題で繰返しをしているのは好印象。最近はなくてもあまり気にしなくなりましたが、できればくり返してほしい人です、今でも。それをしっかりやってくれているのはいいですね~。省略可とはなっていますが、一応くり返すのがベートーヴェンの「言いたいこと」だと思うので、できればくり返してほしいと思います。中間部でテンポアップするのもいい!それがコントラストになってメリハリが効くんですね。アシュケナージは判っているなあと感じます。やはり、旧ソ連から逃れ、西欧で活動して来た彼の人生がすでに第2楽章で反映されているような気がします。
第3楽章はとにかく美しい・・・まるでわ(以下自己規制)・・・とにかく、さすがプロオケという演奏。第3楽章で寝てしまう人も多いと思いますが、この天上の美しさを如何に出すかが第3楽章の聴きどころで、その聴きどころをしっかり押さえています。プロならば当然と思うかもしれませんが意外とここ難しいです。あまり目立ちませんがリズムもしっかりとあるところでまるで静謐な音楽を鳴らす必要があり、アマチュアではかなり難しい部分です。それを何気なく演奏してしまうんですから、やはりNHK交響楽団は日本のトッププロと言っていいでしょう。ただ、最近の演奏と比べれば表現の幅が狭いという所は若干ありますが、それはこの録音は20年前ですから。今の若い団員さんがまだ10代とかようやく生まれたかという時代です。あるいは音大を出てやっと就職という・・・その時間の積み重ねがあって今の演奏があるわけですから。個人的には、NHK交響楽団は特に21世紀に入って飛躍を遂げたと思います。その最初期の演奏だと言えるでしょう。その割には、この美しい演奏はもう素晴らしいの一言です。特にホルンは絶品!
そういえば、20年前と言えば、某再雇用王子様が40代・・・おっと、誰か来たようだ。
さて、仕切り直して。
第4楽章。まず最初のティンパニ連打はぶっ叩いてくれているのはいいんですが多少音が立っていない感じ。もっとぶっ叩いてくれてもいいと思います。まあ、硬い感じにはなっています。この辺りにまだ20年前という月日を感じます。ですが激しさはしっかりありますし、今までの「音楽」から「新しい音楽」が生まれて来る仕掛けとしては十分だと思います。
歓喜の主題が次々に受け渡されているうちに盛り上がっていきますが、それも静謐から段々盛り上がっていく感じがいいです。テレビだとここがかなり大きかったりしますが、実際ライヴだと小さめなのだとわかります。その意味でも、できればもっと年末の第九特別演奏会はCDやハイレゾにしてほしいという願望はあります。メディアミックスの世の中なので、そういうことをもっとNHKにはやってほしいと思っています。
その後バリトン・ソロが入って合唱が入ってきますが、ソリストはいいんですが合唱が最初雑に聴こえてしまいました。合唱団は二期会なので悪かろうはずがないんですが・・・さては音量かな?と3コマ程度スピーカーであるソニーのSRS-HG10のヴォリュームを上げましたら俄然よくなりました。この辺りはハイレゾを買った方がよかったかなと思った部分です。ソリストは全員素晴らしいですが特にいいのはソプラノの森麻季。え?こんな時代に出演していたっけと思って検索したら、それなりの年齢なのですね・・・いやあ、今でも若く見えます。大変失礼いたしましたっ!
そして合唱は、最初アルトと男声だけで、その次にソプラノも入ってくるという、楽譜通りなのもいいですね~。日本における第九演奏の標準としても望ましい演奏だと思います。アマチュアだと弱めになってしまうので最初からソプラノも歌うということもありますから・・・最近は少なくなりましたが。
そして、私が問題にする、vor Gott!の部分。vor1拍に対し、何とGott!が4拍、あとは残響ですが多少残響が終らぬうちにアラ・マルシアに突入・・・なんと、十分変態演奏でございます!それでも不自然ではないのが素晴らしい!この辺り、NHK交響楽団というオーケストラの実力の高さが垣間見える部分です。20年後の現在、素晴らしい演奏が実現できている基礎はここにあり、と言えるでしょう。
そのあとの、激しいオーケストラの演奏を経ての、練習番号M・・・美しい!力強く最初力任せかなと思いきやそんなことはありません。力強さと美しさが見事にマリアージュしています。ここもできればハイレゾのほうが良かったかもしれません。リサンプリング再生と言ってもしょせん疑似ですから・・・その意味では、この演奏はCD音質では入りきらないと言えるでしょう。すでに20年前の段階でNHK交響楽団というオーケストラはそのような演奏ができるオーケストラである、ということです。そりゃあ、最近の「マーラーフェスティバル」で高評価を受けるわけです。しかもその指揮者はファビオ・ルイージですし・・・その基礎は、このアシュケナージの指揮にもしっかり見受けられます。
第九の演奏に於いて、合唱が力任せだけでという批判をよくみますが、それはライヴを聴いたうえでなのかそれとも録音を聴いてなのかは、判断するときに注意したいものです。この録音のように再生装置あるいはメディアの状況により左右されます。そもそも第九の編成ってオーケストラも大編成で通常ない楽器も参加する上に合唱団も4声入るわけで、膨大な情報量なわけです。正直ハイレゾをききなれてくると、CDの44.1kHz/16bitという情報量は、第九という曲を再生するには不足していると感じざるを得ませんし、仮に十分だとしてもそれに見合う再生装置がないと何とも言えないでしょう。
それはまた、アシュケナージの人生も投影されていると言えるでしょう。そのアシュケナージの人生が投影された「指示」に対し、共感してしっかりと表現できるだけのオーケストラと合唱団・・・すでに応えるだけの実力をしっかり持っていたと言えます。
楽譜通りのところと変態演奏とが同居しつつ、美しく力強い演奏で最後まで締めくくるこの演奏は、もっと評価されてしかるべきと個人的には思います。つくづく、ハイレゾで9つ全部買っておけばよかったと後悔しています・・・
聴いている音源
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲
交響曲第9番ニ短調作品125「合唱付き」
森麻季(ソプラノ)
シャルロット・ヘルカント(メゾ・ソプラノ)
ミカ・ポホヨネン(テノール)
セルゲイ・レイフェルクス(バリトン)
二期会合唱団(合唱指揮:田中信昭)
ウラディーミル・アシュケナージ指揮
NHK交響楽団
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