東京の図書館から、今回は小金井市立図書館のライブラリである、イギリス近代管弦楽作品集のアルバムをご紹介します。
原題は「This England」。これがイングランドだ!という意味ですが、ここではわかりやすくイギリスの、と銘打っています。
でも、私としては狭く「イングランドの」という意味で取りたいと思います。それはこのアルバムに収録された作曲家いずれも、「イングランド」の出身だからです。
イギリスを指すとき、その国家の正式名である「イングランド、ウェールズ、スコットランド及び北部アイルランド連合王国」の首都であるロンドンがイングランドにあるがためです。実際にイギリス王室はすでにイングランド王室しか存在していません。
それはイギリスの、血なまぐさい歴史を紐解くことになり、ながーくなりますのでここでは割愛します。そのため、邦題では「イギリス近代管弦楽作品集」と銘打っていますが、私自身はイングランド近代管弦楽作品集として受け取っています。
ほとんど名の知れた作曲家の名前が並び、一人だけあまり知られていないウォーロックがいますが、この人はそもそもが現地では名の知れた音楽評論家だったそうで、日本で知られていないだけなんですね。その音楽を聴いていますと、似ているようで似ておらず、似ていないようで似ているという、奇妙な感覚に陥ります。
それは各作曲家の個性がないように見えて、イギリス音楽が持つ特色というものも自然と浮かび上がらせます。和声進行だとかが似ているのはそれがイングランドらしさだという共通認識が各作曲家の間であることを意味します。そのうえで各作曲家には個性もあることが、たとえばエルガーの弦楽のためのセレナードで明らかにもなっています。
良くイギリスの作曲家には個性がないなど言われますが、確かにこのようなアルバムを聴けばそう判断したくもなります。しかし、たとえばエルガーもディーリアスもホルストも、実際には個性的な作品も書いていることは彼らのほかの作品を聴けば明らかなわけです。ここではあえて、「イングランドらしい和声、旋律を持った作品」を集めているわけで、ある意味プロパガンダに近いアルバムであるわけです。
ですのでその分差し引いて判断をする必要があるように思うのです。このアルバムに収録されたような作品が、この4人にとっては愛国的作品なのだ、ということです。そしてもちろん、愛国的作品がすべてではないことは、数多く聴いているクラシックファンにとっては当たり前とも言えるわけです。これはある編集意図に基づいて収録されただけなんですから。
そういう「編集意図」をアルバムを聴くときに気にする癖さえついていれば、たとえば今回のロシアのウクライナ侵攻において両陣営のプロパガンダに簡単に左右されることはなくなります。ああ、こういう編集方針に基づいているだけなんだな、とわかれば後は自分がそれに呼応するのかしないかだけです。自分で支持不支持を選べばいいだけです。少なくとも流されずに済みます。
演奏者を見ても、バリバリイングランドですし、まさにこれぞイングランド!という題名にふさわしいものになっています。もちろんオケはロイヤル・フィルハーモニーですから悪かろうはずはありません。ですがこれはあくまでもイングランドらしさにフォーカスしているアルバムだ、ということは念頭に置いていいと思います。それをいいと取るか悪いと取るかは、あなた自身にゆだねられています。どっちになったとしても、悪く言われる筋合いなどないでしょう。
そういう世の中で、いつまでもあってほしいものです。
聴いている音源
サー・エドワード・エルガー作曲
弦楽のためのセレナード ホ短調作品20
フレデリック・ディーリアス作曲
「イルメリン」前奏曲
小管弦楽のための2つの小品
グスタフ・ホルスト作曲
セント・ポール組曲作品29
ブルック・グリーン組曲
ピーター・ウォーロック作曲
ガブリオール組曲
デイヴィッド・トウス(ヴァイオリン)
アラン・バーロウ指揮
ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
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