かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

コンサート雑感:宮前フィルハーモニー交響楽団第54回定期演奏会を聴いて

コンサート雑感、今回は令和7(2025)年6月8日に聴きに行きました、宮前フィルハーモニー交響楽団の第54回定期演奏会のレビューです。

宮前フィルハーモニー交響楽団は神奈川県川崎市宮前区のアマチュアオーケストラです。私もかつては姉妹団体に所属していたこともあり、コンサートには何度も足を運んでおりこのブログでも何度も取り上げている団体です。

https://miyamae-phil.jimdofree.com/

フランチャイズとしては川崎市宮前市民館としていますが、最近は春の定期演奏会は多摩市民館で行うことが多く、今回も多摩市民館が会場となりました。川崎市は市民会館を各区に持っており図書館や区役所を含めた総合庁舎を市民館と呼んでいます。そのため、多摩市民館も川崎市多摩区役所の庁舎に存在しています。おそらくは川崎のアマチュアオーケストラ同士でエキストラのやり取りをしている関係もあるのだと思います。

宮前フィルハーモニー交響楽団は団員が活動に主体的に取り組んでいる団体の一つでもあります。これって何かに似ていると思いませんか?このコンサートの前日に足を運んだ、東京バッハ合唱団さんそっくりです。それもそのはず、初代音楽監督であった守谷弘(私が所属していた姉妹団体の宮前フィルハーモニー合唱団「飛翔」の音楽監督でもありました)がヨーロッパの地方オーケストラをモデルとして温度を取りその理念に賛同した人たちが設立したオーケストラだからで、そのヨーロッパのオーケストラの運営の背景には、キリスト教の主体的にかかわるという精神があるからです。その影響を宮前フィルハーモニー交響楽団は色濃く受けているからなんです。ゆえに、団員にキリスト教徒がいようが居まいが、東京バッハ合唱団さんと同じようなスタイルになるのは当然と言えます。

https://miyamae-phil.jimdofree.com/%E6%B4%BB%E5%8B%95%E5%86%85%E5%AE%B9/

また、上記活動内容で取り上げられている「音楽のおもちゃ箱」からは、前回第53回の定期演奏会で共演した、ヴァイオリニストの東亮汰さんも輩出するなど、いまや東京近辺のアマチュアオーケストラの中でも社会的な役割を担っている団体の一つとなっています。

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さて、今回は協奏曲はなかったものの、魅力的なプログラムが並びました。いかにもアマチュアオーケストラらしいプログラムです。

シャブリエ 狂詩曲「スペイン」
ラヴェル ラ・ヴァルス
ベルリオーズ 幻想交響曲

オール・フランス・プログラム。さすが宮前フィルさすがアマチュアオーケストラです。最近ではプロオケでもこのようなプログラムが組まれることが多くなりましたがまだまだアマチュアでよく見るプログラムだと言えるでしょう。その意味でも、やはりアマチュアオーケストラのコンサート行脚は辞められません!

シャブリエ 狂詩曲「スペイン」
シャブリエの狂詩曲「スペイン」は、1883年に作曲された管弦楽曲です。前年にスペインを旅行した時の印象を基に作曲された作品です。

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シャブリエ1880年までフランス内務省に勤める役人でしたので、残された作品は多くないのですがシャブリエと言えばこの「スペイン」というくらいの人気を誇り、その「スペイン」は特に日本国内ではアマチュアオーケストラでよく使われるコンサートピースの一つとなっています。フランス人から見たスペインの風景を描いていますが、それゆえに日本人でも親しみやすいとも言えます。どうしてもスペイン人の視点ではなく他国人からの視点であるということは他国人という意味ではフランス人であろうが日本人であろうが同じだからです。唯一異なるのは、シャブリエはフランス人であるという事だけ。つまりそこにはフランス風味も含まれているということを意味します。

とはいえ、それに囚われずどこまで楽しめるかも演奏では重要な点です。今回の指揮者は横島勝人さんでしたが、4つ振りですがオーケストラに生き生きとした表現を求める方だと感じます。とにかく生きの良さを求める姿勢でありつつも、演奏が美しい!昨年の東さんとの共演で刺激を受けたのか、さらに進化した生命力のある演奏になっていました。特に弦楽器のやせた音が殆ど聴こえてこないのも素晴らしい~。世代交代がここで花開いた印象です。シャブリエストレンジャーとしてスペインを楽しむ精神性に団員が共感しているのが手に取るようにわかるのも好きです。

ラヴェル ラ・ヴァルス
ラヴェルのラ・ヴァルスは、1919年~20年に作曲された管弦楽曲で、フランス語で「ワルツ」という意味。ですので舞曲ということになります。舞曲ですので当時の慣習であればバレエ曲となってもおかしくないのですが、バレエ・リュスのディアギレフは作品を評価しつつも拒否します。その後舞踊音楽としては舞踊団で使われた作品です。ただ、その難しさは成立年代にも関わるのではと個人的には考えます。

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最初暗い旋律で始まりますが、それはこの曲が19世紀のウィンナワルツへのオマージュであることが理由だと思います。特に最後の場面の激しさを勘案すると、第1次世界大戦によって失われた、19世紀の文化への葬送曲でもあると個人的には考えるところです。ゆえに新しい技法を模索していたディアギレフとしては受け入れがたかったと私は考えるところです。

その葬送曲でもあるという点をどれだけ表現できるかも重要なポイント。そこを宮前フィルハーモニー交響楽団は抜かりなくやってのけてしまうんです。市民オーケストラなんですが・・・本当に日本のアマチュアオーケストラのレベルは上がったと思います。勿論プロオケに比べればアラはありますが、それでも楽しめるだけのレベルは持っています。団員が共感して楽しんでいるのがひしひしと伝わってくるのが最高です。ある意味バッハの組曲の延長線上とも言える作品を、しっかりとその精神性と味わい楽しんでいるのはさすがです。

ベルリオーズ 幻想交響曲
ベルリオーズ幻想交響曲1830年に作曲された交響曲ですが、標題音楽でもあります。その意味ではベートーヴェンの「田園」の系譜を引くと言えるでしょうが、必ずしも伝統的な交響曲の様式に沿っているわけでもない作品でもあります。第1楽章はソナタ形式ですが。ただ、全体的には交響曲の様式を供えた作品だと言えるでしょう。

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このブログでも、様々なアマチュアオーケストラの定期演奏会レビューで取り上げてきた幻想交響曲ですが、今回の宮前フィルハーモニー交響楽団の演奏で唸りましたのは、強いアインザッツと美しさが同居しアウフヘーベンしているという点です。特に第2楽章、第4楽章、第5楽章は最後通常は強く終わりますが、今回は全て美しく柔らかく終わっています。それが全く不自然ではないんです。これはアマチュアオーケストラだと他の演奏に引っ張られて崩壊してもおかしくないのに、しっかりと指揮者の解釈を表現しているのです。目の前で弾いているのは東京のアマチュアオーケストラではなく川崎の市民オーケストラなんですが・・・

それだけ、高いレベルを持っている証拠でもあります。特に幻想交響曲は意外とアラも出る曲ですがそれがほとんどなく、ここは力強く演奏するよねという所はその予想よりも強烈な音が客席まで飛んできます。そのうえで最後は美しく柔らかく終わるんです。いやあ、もううっとりです。

幻想交響曲ではバンダが大活躍します。第3楽章ではオーボエが、そして第5楽章では鐘が、舞台ではなく他にスタンバイして演奏されます。第3楽章のオーボエは舞台上のコーラングレと共演しますが、今回は多摩市民館の客席に陣取りました。ホールに入った時に譜面台がセットされている部分がありましたのでそれはおそらく幻想交響曲で使うのだろうと予測しましたがビンゴ。ただ、最近は客席と言ってもそこは周りを閉鎖することが多いのですが、今回はほとんど閉鎖することなく隣に聴衆が座っているような状態での演奏だったのは新鮮です。それでも演奏会が成立してしまうのは宮前フィルハーモニー交響楽団の人気と実績のなせる業でしょう。

一方で第5楽章の鐘は、舞台袖に隠れて扉を開けての演奏となりました。通常は美しい鐘の音が鳴り響くはずなのですが・・・あれ?音が外れてる・・・

鐘でそんな音が外れるようなことがあるとは到底考えられないので、これはわざとやっているとしか考えられません。今までのアマチュアオーケストラの演奏を振り返ってみても、弦楽器でやせた音があったとしても打楽器で音が外れる、特に鐘で外れるということは構造上あり得ないのですが、しかしどう聞いても外れているというかぼやけています。これはおそらくですが、第5楽章の魑魅魍魎の世界、あるいは幻覚を見て狂っている状況を表現していたと考えられます。確かに弦楽器はグレゴリオ聖歌を奏しているわけで、なので通常は鐘はきれいに鳴らすのですが、ここではその鐘を魑魅魍魎あるいは幻覚を見ている本人が乱打していると解釈したと考えられます。こういう視点もあったか!と目からうろこ。確かにそう考えればその外れている鐘の音もアリだと思います。ザ。ドリフターズの「8時だよ!全員集合」を見ていた世代の方は判るかと思いますが、志村けん加藤茶の頭の上に洗面器が落ちて来るあのシーンが、この鐘の音と同じだとすると、笑ってしまいますしまたそれだけおかしなことが起こっていることを意味します。「ワルプルギスの夜の夢」とも訳される第5楽章を勘案すると、ドリフターズのギャグにも相当する場面でもあり、思わずうなってしまいました。それを表現してしまう宮前フィルハーモニー交響楽団の団員たちも相当で脱帽です。そのうえで最後も美しく柔らかく終わっても何ら不自然ではなくむしろ自然・・・私の中では名演の一つとなりました。私はかけませんでしたが最後ブラヴォウ!がかかったのも当然と言えましょう。

次回は宮前市民館でモーツァルトの「ハフナー」とチャイコフスキー交響曲第4番と交響曲を2つ並べるという・・・おなか一杯になりそうなプログラムですが、2つともある意味難しい作品でもあり、宮前フィルハーモニー交響楽団の成長がまたみられるとおもうとワクワクします。12月21日なのでいろいろ予定もある時期ですが、できるだけ次回も足を運びたいと思います。なお、今年のミューザ川崎市民交響楽祭のチケットも確保しましたので、それもまた楽しみです。チラシは幹事オケの麻生フィルテイストですが、そこで宮前フィルハーモニー交響楽団の団員の方がいかにアンサンブルするか、今から楽しみです。

 


聴いてきたコンサート
宮前フィルハーモニー交響楽団第54回定期演奏会
アレクシ=エマニュエル・シャブリエ作曲
狂詩曲「スペイン」
ジョゼフ・モーリス・ラヴェル作曲
ラ・ヴァルス
ルイ・エクトル・ベルリオーズ作曲
幻想交響曲作品14
横島勝人指揮
宮前フィルハーモニー交響楽団

令和(2025)年6月8日、神奈川、川崎、多摩、多摩市民館大ホール

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。