音楽雑記帳、今回はクリスティアン・ティ―レマン指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団によるベートーヴェンの交響曲第9番を取り上げます。これは以前、「今月のお買いもの」コーナーで一度取り上げています。
ですが、先日、この全集を第1集から第5集までを取り上げました。そこでは交響曲第8番までしか取り上げていません。なぜなら、第6集はすでに上記エントリで取り上げられているから、です。
ただ、ならば第6集としてこの演奏をもう一度聴いてみたら今どのように感じるのかも重要な視点です。そこで、「ティーレマンとウィーン・フィルのベートーヴェン交響曲全集6」として、もう一度聴いてみたいと思います。
さて、ベートーヴェンの交響曲第9番は、第8番からは遅れる事10年ほど経った1824年に完成、初演された交響曲です。特に第4楽章は合唱が入っていることで有名なので「合唱付き」あるいは「合唱」という表題が付くことが多いのですが、実際はかなり複雑な成立経緯を持った作品です。ゆえにあまり高評価を受けないこともしばしばですが、ベートーヴェンが願った連帯の意識が強く反映されていると言えます。
最後に合唱を持ってくるというアイデア自体はそれ以前にも実はあるのですが、歌詞や構造を見ると、そこにはどこかバッハのカンタータの匂いがします。実際英語ではChoralの名称が与えられていますが、まさにそれこそコラールであるわけです。単なる合唱という意味ではありません。そこにはキリスト教の影もちらつきます。神の下では平等ではないかという、ベートーヴェンの信仰心も見えてきます。あまりキリスト教に信心深かったとは言われませんが、とはいえ彼もどこかで神の存在を認識していたのではないでしょうか。それが第9番という作品の成立に深くかかわっていることは間違いないでしょう。ゆえに、シラーの「歓喜に寄す」をコラールとして使った交響曲ということになるはずで、なかなか深い内容を持っているのですね。連帯がなぜ必要なのか・・・それは、私たちは神の下では平等だからだ、ということです。現在ではそれは単に神という存在を超えて、どんな宗教であろうが高き存在の下では違いはないという意味に置き換えられており、まだまだ現代的な意味を持つ作品だと言えましょう。
ティ―レマンのタクトは、それを踏まえてなのか、第1楽章から第3楽章までは、激しさを伴いながらも内省的な演奏になっています。特にテンポはどっしり系。第1楽章では最後思い切りテンポダウン。どこかしらコラールと言ってもリヒターの演奏を想起させますが、どころどころでテンポが揺らぎ速くなったりもしています。
その点では、第8番までの演奏スタイルがしっかり貫かれていると言えますし、またこの第9番の演奏で見事に結実しているとも言えます。第8番までの演奏はここまでの道程だったかのような・・・
それが変わるのは、第4楽章。それは10年前に立てたエントリ通りです。バリトンのレチタティーヴォの前までは第8番までのスタイルですが、バリトンのレチタティーヴォが始まりその後合唱が入ってからは比較的一定のテンポとなり多少テンポも上がります。
vor Gott!の部分でも vor拍に対しGott!は6拍伸ばしています。実にオーソドックス。ですがアラ・マルシアでテノールソロと合唱が歌いながらオーケストラが段々テンポアップ!オーケストラのみとなったところからそれまでのどっしり系からまるで古楽演奏のような炎が見えそうなくらい熱い演奏に・・・
バッハのコラールを念頭に書かれていると考えられるとはいえ、やはり現代を見据えたかのような歌詞に対し、ティ―レマンは19世紀スタイルをさらに洗練させたかのような演奏で、さらに現代的にブラッシュアップした感があります。それは明らかに第9番が成立したタイミングが音楽史的にはすでにロマン派が始まっていたということもあると思います。ただ、あくまでもティ―レマンは古典派という解釈であると思います。
実はこの音源はスマートフォンに入れて結構頻繁に聴いている演奏ではあるのですが、このように改めて全集の中で聴きますと、この第9番の演奏が際立っています。第9番はベートーヴェンの最高の作品だとよく言われますが、個人的にはいろんな欠点も見える作品です。ですがその欠点も可愛いと感じる私にとってはその内包するエネルギーをどれだけ表現できるのかのほうが焦点です。その視点ではティ―レマンはしっかりと救い上げ、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団そしてウィーン楽友協会合唱団という手兵を得てベートーヴェンが歌い上げた連帯の精神を表現しています。特に第8番までに見られたオーケストラが走ったりするようなことが殆ど聴かれません。合唱団も決して人数が多くはないウィーン楽友協会合唱団ですが、力強くしなやかな演奏を聴かせてくれます。
恐らく、最初から全集を想定されたツィクルスだったと思いますが、その集大成とも言えるこの第9番の演奏は、できるだけ全集の中で聴かれるべきものだと思います。勿論単独でも全くかまいませんし私も単独で聴くことが殆どですが、時にはこうやって全集の中で聴いてみるのも、ティ―レマンが演奏に込めた想いとベートーヴェンに対する共感を感じ取ることができるように思えるのです。
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