東京の図書館から、今回は小金井市立図書館のライブラリである、グレインジャーの管弦楽作品集を取り上げます。指揮はサー・サイモン・ラトル、オーケストラはバーミンガム市交響楽団です。
何?グレインジャー?なんじゃーそりゃ?って人も多いはず。グレインジャーはオーストラリア出身の作曲家で、のちにアメリカへ移住し、活躍した作曲家です。
ウィキで載っている主要曲は大抵収録されており、グレインジャーという作曲家の芸術を俯瞰しつつじっくりと味わうことができます。
まず第1曲目が「早わかり」。何が「早わかり」なのかはよくわからない作品ですが、各4曲のテーマを「要約すれば」という事みたいです。
とはいえ、音楽は非常に人懐っこいもので、決して難しくはありませんが、よーく聴いてみれば和声は結構複雑。グレインジャーという作曲家の非凡さを見ることができます。
第2曲目は「トレイン・ミュージック」。実は未完成の曲で、このアルバムでは補筆版が演奏されています。おそらくSLだと思うんですが、鉄道の生き生きとした模様が表現されています。
第3曲目は「カントリー・ガーデンズ」。もともとはピアノ曲。ここではストコフスキーの編曲が演奏されています。これは結構のどかな曲。
第4曲目は「鐘の谷」。もともとはドビュッシーが作曲したピアノ組曲「鏡」の中の1曲で、グレインジャーが管弦楽版として編曲したものです。ドビュッシーの象徴主義からさらに進んで、写実的な印象すら受けます。
第5曲目が「組曲 リンカーンシャーの花束」。実はこの曲は吹奏楽のための作品で、どうやら軍楽隊の編成をもとにしているようで、演奏でも管楽しか聴こえてきません。そう、オーケストラの管楽器だけなんです!それぞれの曲はイギリスのリンカンシャーで採取した民謡をそのまま吹奏楽で演奏するという作品になっており、ただ勢いだけではなくしっかりと表現力が求められる作品。まさしくオーケストラの管楽器セクションにはもってこいの作品だと言えるでしょう。
第6曲目は「パゴダ」。言わずと知れたドビュッシーの組曲「版画」からの1曲で、管弦楽編曲はグレインジャー自身。これもまるで私たちがその絵の中に入っているかのような錯覚すら受けます。
第7曲目は「組曲「戦士たち」」。そもそもはかのディアギレフのロシア・バレエ団より委嘱されたもので、バレエ音楽になるはずだったのですが、台本が出来上がらずバレエは中止、結局管弦楽組曲として仕上がります。
むしろ交響詩のような雰囲気があり、男女のいわゆる「抱き合い」が高揚感と共に表現されています。かといって官能的ではなく、むしろ男女のコミュニケーションツールとしての喜びのほうが前面に出ている作品だと言えるでしょう。
演奏としては、全体演奏であっても管楽器だけでも、本当に饒舌だなあということです。グレインジャーの作品は単にわかりやすいだけではなく、実は和声は結構複雑。意外と繊細なんですね。その繊細さを大切にした演奏は、聴いていると楽しくて、思わず体を揺さぶってしまいます。あ、足が痛い・・・・・でも、気にならないのがこの演奏の不思議なところ。
それはラトルのタクトもあるんだろうと思います。オケを雄弁に語らせるラトルの指揮は、演奏に生命力を与え、ものを言わせます。そういったラトルのタクトが、演奏をして語らせているのでしょう。グレインジャーという作曲家がたんに「コモンウェルス」の作曲家にありがちな外形的なものを追求するのではなく、そこに隠されたテーマを仕込んでいるのをしっかり語ることができているのでしょう。一度は聴いてみることをお勧めします。
聴いている音源
パーシー・グレインジャー作曲
組曲 早わかり(1916)
トレイン・ミュージック(エルドン・ラスバーン版)
カントリー・ガーデンズ(イングランドのモリス・ダンスの調べ、レオポルド・ストコフスキー版)
鐘の谷(ラヴェル作曲「鏡」より)(グレインジャー編曲)
組曲 リンカーンシャーの花束(1939)
パゴダ(ドビュッシー作曲「版画」より)(1918)
組曲「戦士たち」(想像上のバレエ音楽)(1916)
サー・サイモン・ラトル指揮
バーミンガム市交響楽団
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