かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

東京の図書館から~府中市立図書館~:テルデックレーベルの古楽演奏によるバッハのカンタータ全集49

東京の図書館から、78回シリーズで取り上げております、府中市立図書館のライブラリである、テルデックレーベルから出版された、古楽演奏によるバッハのカンタータ全集、今回は第49集を取り上げます。CDでは第27集の1となっていますが、ここでは図書館の通番に従っています。収録曲は第107番と第108番の2つです。

この全集は指揮者2名体制で、ニコラウス・アーノンクールグスタフ・レオンハルトの2人です。この第49集はその両名とも指揮を担当しているため、オーケストラと合唱団もそれぞれ異なります。

カンタータ第107番「汝なんぞ悲しみうなだれるや」BWV107
カンタータ第107番は、1724年7月23日に初演された、三位一体節後第7日曜日用のカンタータです。コラール・カンタータですが、歌詞全てがコラールから採用されている作品です。詩人の協力をおそらく得られなかったためと言われていますが、それをレチタティーヴォやアリアに編曲するバッハの能力の高さが証明されている作品でもあります。まさに「人生万時塞翁が馬」そのものです。

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この第107番はレオンハルトの指揮なので、レオンハルト合奏団にハノーヴァー少年合唱団、コレギウム・ヴォカーレとなっているわけなんですが、コレギウム・ヴォカーレの女声もはっきりと聴こえます。この理由は正直分からないんですが、レオンハルトの判断で女声を厚くするという意味合いがあるものと思われます。この全集は番号順ですから、バッハの音楽が段々円熟味を増しているなどという理由はちょっと考えられないんです。時代的には1724年なのでライプツィヒ時代なので、十分円熟味はあるわけですので・・・理由としては薄いです。そうなると、ここまでの収録を踏まえて、大人の女性を入れることで女声に厚みを加え深い発声を加えたかったという、演奏のレベルの問題だと個人的には考えます。

第5曲のソプラノアリアは、ハノーヴァー少年合唱団のボーイ・ソプラノマルクス・クライン君が再登場。コレギウム・ヴォカーレのソプラノでもいいはずですが、ここでハノーヴァー少年合唱団のマルクス・クライン君を使うという所に、ある意味「ピリオド」とは何か?というレオンハルトの問いがあるように感じるのです。当時聖歌隊には少年だけということはなかったでしょうし、それは実は現代でも同じです。少子化で少年合唱は少なくなっていますが、聖歌隊には年齢を問わず参加しているものなのです。それを踏まえた演奏だとは言えるでしょう。そのうえでバランスとして、女声に大人も加えるという判断だと思います。

カンタータ第108番「わが去るは汝らの益なり」BWV108
カンタータ第108番は、1725年4月29日に初演された、復活節後第4日曜日用のカンタータです。

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このカンタータの歌詞を書いた詩人は、女性のツィーグラーですが、この第108番の演奏はアーノンクール指揮ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス、テルツ少年合唱団です。そうなると、前回ツィーグラーだからコレギウム・ヴォカーレの女声を入れたというのは理由として弱いという私の主張が正しかったということを意味しています。ここでは少年合唱団のみを選択したということなのですから。そうなると、バッハのカンタータは当時大人が入ったり少年だけだったり、男声のみだったり女声もあったりしていたということを念頭に置いているとしか言いようがないわけなんです。

とくに、この第108番においては、第4曲の合唱は聖書から歌詞が採られており、そこに少年合唱が響いてくると、まるで天使が歌っているような印象で場面転換になっているのです。そうなると、やはりこの全集では意味を持って少年合唱団と大人の合唱団を使っていると考えていいわけです。私は借りた当初は、この混成に対し違和感を持っていましたが、今では意味があるものだったのだと理解しており、借りて良かったと思っています。それはおそらく、この全集の編集者も同じ考えだったはずです。同じ団体で済ませて少数精鋭でやるほうがコストは安いはずなので・・・それをここまで贅沢なことをするということは、意味があってのことのはずですから。

勿論、この全集を聴いて、バッハ・コレギウム・ジャパンの演奏のすばらしさも感じているのですが、一方で物足りなさも感じています。それは大人だけなので仕方ないと言えますし、それでもチャレンジしたということは大いに評価されるべきです。失われた30年の中で日本社会があまりチャレンジしない体質になっている中で、その30年の間でチャレンジし続けたのがバッハ・コレギウム・ジャパンだったということを、このアーノンクールレオンハルトの指揮と演奏によって私たちは知ることができるのです。それがどれだけ幸せなことなのかは、両方聴かないと気が付かないでしょう。そのためにも、図書館はあるわけです。それを廃止する動きが全国で加速している一方で教育改革や無償化ということが行われているということはどういうことなのかを、日本人は猛省すべきフェーズに入りつつあると個人的には感じています。

 


聴いている音源
ヨハン・セバスティアン・バッハ作曲
カンタータ第107番「汝なんぞ悲しみうなだれるや」BWV107
カンタータ第108番「わが去るは汝らの益なり」BWV108
マルクス・クライン(ソプラノ、ハノーヴァー少年合唱団員、BWV107)
ポール・エスウッド(アルト)
クルト・エクヴィールツ(テノール
マックス・ヴァン・エグモント(バス、BWV107)
リュート・ヴァン・デル・メール(バス、BWV108)
ハノーヴァー少年合唱団(BWV107、合唱指揮:ハインツ・ヘニッヒ)
コレギウム・ヴォカーレ(BWV107、合唱指揮:フィリップ・ヘレヴェッヘ
テルツ少年合唱団(BWV108、合唱指揮:ゲールハルト・シュミットガーデン)
グスタフ・レオンハルト指揮、通奏低音オルガン
レオンハルト合奏団(BWV107)
ニコラウス・アーノンクール指揮、通奏低音チェロ
ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス(BWV108)

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。