かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

東京の図書館から~府中市立図書館~:テルデックレーベルの古楽演奏によるバッハのカンタータ全集42

東京の図書館から、78回シリーズで取り上げております、府中市立図書館のライブラリである、テルデックレーベルから出版された、古楽演奏によるバッハのカンタータ全集、今回は第42集を取り上げます。CDでは第22集の2となっていますがここでは図書館の通番に従っています。収録曲は第88番、第89番、第90番の3つです。

この全集は指揮者2名体制で、ニコラウス・アーノンクールグスタフ・レオンハルトの2人です。今回の指揮者はグスタフ・レオンハルトレオンハルト合奏団とハノーヴァー少年合唱団です。そのためソプラノはハノーヴァー少年合唱団のボーイソプラノマルクス・クラインが務めています。

カンタータ第88番「見よ、われは多くの漁る(すなどる)者を遣わし」BWV88
カンタータ第88番は、1726年7月21日に初演された、三位一体節後第5日曜日用のカンタータです。

en.wikipedia.org

第1曲目のバスアリアはイエスの言葉かと思いきや、実はエレミヤ書なので旧約聖書です。と言うことは、このバスは預言者エレミヤということになります。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83%AC%E3%83%9F%E3%83%A4

感情を込めて歌うことを否定しませんしむしろ私は感情を込めて歌うほうがすきですが、かといって何事も節度というものがあります。このレオンハルトの指揮にしても、バッハがソリストの配置などをどう考えていたのかを、テクストの大元にまでたどって考えていることが明白です。預言者エレミヤの言葉であるバスアリアは朗々そして毅然として歌い上げていますし、引き続くテノールレチタティーヴォとアリアは、恐れおののく民衆の男性という位置づけになります。ですがその恐れおののきも、リズムと歌唱のバランスの中で実現されるように作曲されているわけで、レオンハルトはそのあたりをしっかりと勘案して演奏させています。

第4曲からは第2部に入り、テノールエヴァンゲリストの役割も果たし今度はイエスが登場、バスアリアはイエスということになります。と言うことは、第88番は旧約聖書から新約聖書という時系列の中で物語を紡いでいることが明白です。

ボーイソプラノであるマルクス・クラインさんの歌唱は清潔感にあふれています。と言うことは、バッハのカンタータに於いてソプラノはどのような役割を果たしているのかという問題意識でレオンハルトボーイソプラノを採用し少年合唱団を使っていると考えていいでしょう。この辺りはアーノンクールと共通しており、なぜ指揮者2名なのかが浮かび上がって切るように思います。

カンタータ第89番「われ汝をいかにせむや、エフライムよ」BWV89
カンタータ第89番は、1723年10月24日に初演された、三位一体節後第22日曜日用のカンタータです。

en.wikipedia.org

これも第1曲はバスアリアなのでイエスかと思いきや、歌詞はホセア書11:8なので旧約聖書です。ということは預言者ホセアということになります。これはテクストからして後にメンデルスゾーンが「エリヤ」を書く内容とほぼ同一です。その内容を人間の普遍性として捉えている点で、この曲も諭旨という意味合いが強いということになります。そうなるとここでも、感情をどこまで込めるかということは重要なテーマになると言えます。

その点では、各ソリストは味わい深いです。毅然としつつも嘆くホセアのバス、引き継いで嘆くアルト、そして清潔感のあるソプラノが入り場面展開。諭しの場面になります。いやあ、ボーイソプラノが入るだけでこれだけしっかりと諭旨ということがわかるのかと思うと、女性を使うことは果たして正しいのかと考えてしまいます。私自身は女性差別反対論者ですが、適材適所という視点で言えば、バッハのカンタータに於いて女性がソプラノを歌うということはかなり高いレベルが要求されることだと感じます。

カンタータ第90番「怖ろしき終わり汝らをひきさらう」BWV90
カンタータ第90番は、1723年11月14日に初演された、三位一体節後第25日曜日用のカンタータです。

en.wikipedia.org

最後の審判がテーマになっているせいか、ソリストテノールとバスだけ。ですがどちらも厳しく激しい歌唱となっています。あれ?古楽は速いだけって?そんなことはないです。むしろ速めのテンポは荒れ狂う未来を予測した預言めいたものになっており、この曲の本質である諭旨というものを物語るものになっています。むしろ論理的に危機を諭すという表現になっています。これは私にとっては好みです。アルトがまたいいアクセントになっていて、場面展開の役割を負っています。

少年合唱団であるハノーヴァー少年合唱団も素晴らしいアンサンブルで、3曲とも締めのコラールを印象づけています。私としては大人のみの演奏が好みではあるのですが、全くそん色ないのがすばらしい!バッハのカンタータとは何ぞやと、私に今一度考え直す材料を与え続けています。

 


聴いている音源
ヨハン・セバスティアン・バッハ作曲
カンタータ第88番「見よ、われは多くの漁る(すなどる)者を遣わし」BWV88
カンタータ第89番「われ汝をいかにせむや、エフライムよ」BWV89
カンタータ第90番「怖ろしき終わり汝らをひきさらう」BWV90
マルクス・クライン(ソプラノ、ハノーヴァー少年合唱団員、BWV88・89)
ポール・エスウッド(アルト)
クルト・エクヴィールツ(テノール、BWV88・90)
マックス・ヴァン・エグモント(バス)
ハノーヴァー少年合唱団(合唱指揮:ハインツ・ヘニッヒ)
コレギウム・ヴォカーレ(合唱指揮:フィリップ・ヘレヴェッヘ
グスタフ・レオンハルト指揮、通奏低音オルガン
レオンハルト合奏団

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。