東京の図書館から、78回シリーズで取り上げております、府中市立図書館のライブラリである、テルデックレーベルから出版された、古楽演奏によるバッハのカンタータ全集、今回は第55集を取り上げます。CDでは第32集の1となっていますがここでは図書館の通番に従っています。収録曲は第128番と第129番の2つです。
この全集は指揮者2名体制で、ニコラウス・アーノンクールとグスタフ・レオンハルトの2人です。今回はグスタフ・レオンハルトの指揮、レオンハルト合奏団とハノーヴァー少年合唱団、コレギウム・ヴォカーレが参加しています。
さて、前回お読みいただいた方は奇異に感じられるかもしれません。前回取り上げたのが第118番と第119番です。この全集はBWV番号順で収録されているため次は第120番と第121番あたりが来るはずです。ところが今回は第128番と第129番と飛んでいるためです。これはそもそも図書館にないからです。実際の全集では第120番~第127番まではしっかり録音され収録されています。都合2巻分がないわけですが、ない理由は図書館に問い合わせてもわかりませんでした。
①カンタータ第128番「ただキリストの昇天にのみ」BWV128
カンタータ第128番は、1725年5月10日に初演された、昇天節用のカンタータです。
ずばり、昇天という言葉が冒頭に来るコラールが使われているカンタータなのですが、コラールカンタータではありません。それは最後のコラール合唱で使われているコラールは別のコラールになっているためです。いわば変形コラールカンタータと言えるでしょう。
昇天節用のため、所々トランペットが映えます。バッハの時代はバロックとはいえ、正確にはもうギャラントと言っていいような時代になっています。息子たちの音楽はしっかりギャラントですし(特にカール・フィリップ・エマヌエル)。そのため宗教曲に於いても声楽だけでなく器楽も重視される時期だと言えます。この第128番においてもトランペットが大活躍するのはその証だと言えるでしょう。なかなかバロックアンサンブルでもトランペットが編成で入ることは決まった時しかないので、奏者も大変だと思いますが、美しく豊潤な響きを聴かせてくれます。
合唱団にはコレギウム・ヴォカーレが入っていることもポイントです。女声は目立ちませんが、やはり男声は分厚いです。また、確かにハノーヴァー少年合唱団の少年たちの声が目立ちせんので、少年と大人の女性の声とが見事に溶け合っているのも魅力的です。
②カンタータ第129番「主を褒めまつれ」BWV129
カンタータ第129番は、1726年10月31日に初演された、宗教改革記念日用のカンタータです。ただその翌年の1727年6月8日に、今度は三位一体節後第1日曜日、つまり主日用として転用され、現在ではその用途としての楽譜が主流です。そのため、下記ウィキペディア、あるいは歌詞サイトでも三位一体節主日用との記述なのですが、私はウィキペディアの記述から、宗教改革記念日用とまず記載し、後に三位一体節用となったという記述にしたものです。そもそも、東京書籍「バッハ事典」ではまだ仮説の段階であった、最初宗教改革記念日用として成立しその後三位一体節用となったという記述があるのですが、ウィキペディアではそれが新たな史料によって裏付けられたとあるため、ウィキペディアとは異なる見解としました。特に、引用欄にある元のページでは、1726年10月31日の演奏時にはバッハの直筆、そして三位一体節用となった1727年6月8日以降は印刷譜となっているとの記述が判断の決め手です。ただ、現在は三位一体節用として演奏されるのが普通です。そのため、ウィキペディアの用途の記述が必ずしも間違っているわけではありません。
二つの楽譜を見ているわけではないのですが、この曲はおそらく、三位一体節用として演奏された時もほとんど内容が変えられていないものと思われます。と言うのは、このカンタータはコラールカンタータであり、かつ歌詞は全てコラールそのものになっているからです。ウィキペディアでもどちらでも使えるように歌詞の内容はなっているとの記述もあり、恐らくほとんど手が加えられていないと考えられます。
注目は、第4曲目のソリストはソプラノだということです。それはつまり、ハノーヴァー少年合唱団のボーイソプラノが歌っているという事であり、今回はゼバスティアン・ヘニッヒ君です。ハノーヴァー少年合唱団の合唱指揮は設立者でもあるハインツ・ヘニッヒ。あれ?同じヘニッヒさんですねえ・・・ちょっと調べても分からなかったんですが、恐らくハインツ・ヘニッヒの息子がゼバスティアン・ヘニッヒ君だと思います。少年らしいたどたどしさもありつつも、高音は伸びやかで美しいです。注目なのは彼が合唱指揮者の息子だとかではなく、ここでもボーイソプラノが演奏面で採用されているとうことです。純潔あるいは場面転換という意味合いがあるものと思われますし、その解釈をレオンハルトが持っているということに他なりません。これが私が宗教改革記念日用でも三位一体節用でも内容がそれほど変わっていないので編成等もそれほど手が加えられていないと考えるゆえんです。前回も述べましたが、バッハのカンタータとは、聖書の世界を立体的に音で見せ聴かせる意味合いがあるということなので、女声とは限らず天使の意味合いがある少年が担当しても不思議はないということになります。ただ、大人の女声に慣れている現代人は最初なかなか慣れませんが・・・私もそうでしたから。
そしてこの第129番でも、トランペットが活躍します。BWV番号は明らかに何かでまとめていると考えられるのですが、それがどんな順番あるいは法則なのかはなかなか素人には判りずらいのですが、いずれにしてもそのBWV番号の法則に基づいてこの二つが連番でまとめられていることから、第128番と第129番の二つが一つに収録されたと考えるのが自然でしょう。こういう所がさりげなく学究的でかつ演奏が素晴らしいのが私好みです。
聴いている音源
ヨハン・セバスティアン・バッハ作曲
カンタータ第128番「ただキリストの昇天にのみ」BWV128
カンタータ第129番「主を褒めまつれ」BWV129
ゼバスティアン・ヘニッヒ(ソプラノ、ハノーヴァー少年合唱団)
ルネ・ヤーコブス(アルト)
クルト・エクウィルツ(テノール)
マックス・ヴァン・エグモント(バス)
ローベルト・ホル(バス)
ハノーヴァー少年合唱団(合唱指揮:ハインツ・ヘニッヒ)
コレギウム・ヴォカーレ(合唱指揮:フィリップ・ヘレヴェーへ)
グスタフ・レオンハルト指揮、通奏低音
レオンハルト合奏団
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