東京の図書館から、5回シリーズで取り上げております、府中市立図書館のライブラリである、ヘンツェの交響曲全集、今回は第4集を取り上げます。収録曲は第1番と第6番の2つです。
ヘンツェはドイツの作曲家ですが、後半生はイタリアに移住するなど、拠点が海外だった人です。今回取り上げる第6番はそのヘンツェの生涯が影響しています。
①交響曲第1番
交響曲第1番は、1947年に作曲された作品です。当初は4楽章制の楽曲として成立しましたが、1963年に3楽章制に改訂、さらにフルオーケストラ用から室内オーケストラ用と「大改造」されました。そもそも最初に手書きの管弦楽パートがコピーの際判読不明になってしまったことから始まっているようです。
英語版ウィキペディアにはしっかりヘンツェの全交響曲のページが存在しています。こういう所が海外ウィキペディアのいいところですね~。そういう努力を日本はSNSが全てという割にはしていないところは非常に憂慮しております。
4楽章から3楽章にした理由はネット検索ではわかりませんでしたが、3楽章制ということであれば恐らく隠しテーマは「自由」だと考えられます。1963年と言えば、ヘンツェがドイツからイタリアへと移住した後です。ドイツの偏狭な社会に対する否定的な想いが、4楽章で成立した作品を3楽章へと「改造」する原動力になったのではないかと言う気がします。
そもそもなんですが、初演がダルムシュタットというのも気になる点です。ダルムシュタットと言えば当時前衛音楽の象徴的な場所でしたし。その前衛音楽は、1930年代にはナチスの迫害も受けています。そういう背景から見ると、ヘンツェがなぜ4楽章から3楽章へと変更したのかが垣間見えるように思えます。明かに古い思想に対するアンチだということ、そこからの解放という側面を持っていると言えるのです。個人的にはなにもそこまでしなくてもという印象は持っていますが、それだけヘンツェは旧い考え方が嫌だったということになりましょう。これもまた一つの表現です。いずれにしても和声は前衛音楽的なのでさもありなんです。
その背景を踏まえ、ヤノフスキはオーケストラにもその和声が織りなす「魂」の表現を大事にしているように聴こえます。そしてその魂は確かに生命となっています。普通不協和音は人間の内面を描いているとは言われますがそこに生命を感じることがない場合もありますが、ヘンツェの場合そこに生命を感じることが多く、ヤノフスキもその作品の魂をしっかり掬い取っています。人間の複雑な精神をしっかりと表現された作品に対するリスペクトを感じます。
②交響曲第6番
交響曲第6番は、1969年にキューバで作曲されました。ヘンツェは1969~1970年にキューバで教鞭を執っており、その時に作曲された作品と言うことになります。そのため、キューバの音楽や、キューバが社会主義国家ということで同じ社会主義国であるベトナムの音楽も入れ込められています。その点で、民族的作品かつ政治思想が強く反映された作品だと言えます。
しかも作品は元から3楽章制。ということはもう明かに「自由」がテーマだと言えます。この場合の抑圧している相手というのは時代的にアメリカということになります。この点でも複雑な社会というのが見えてきます。抑圧という点では単純ですが、しかしちょっと視点を引いてみてみると、本来その抑圧には不寛容であってほしいアメリカが他国を抑圧しているわけで、ヘンツェとしては忸怩たる思いがあったと考えられます。その想いが、和声やリズムに織りなされている作品と言えます。
その精神を、ヤノフスキはしっかりと楽譜から掬い取り、オーケストラに表現させています。ただ、ウィキペディアとCDとでは楽章の指示が異なっています。この辺りは何故なのかはネット検索ではわかりませんでしたが、1994年に即興部を改訂していることからその影響なのかなと思います。いずれにしてもこの曲もまた複雑な内面が表現されているとすれば、その複雑であることをあえてそのまま表現するのがいいという判断をヤノフスキはしているように思います。キューバのリズムが入っていることで不協和音が存在するにもかかわらず生命力を感じます。単なる精神性というものだけではなくそこに血潮を感じるのです。いい仕事してますね~。これぞプロです。
また、第6番は二つのオーケストラのためのと題されていますが、二つをあまり感じません。ただ単にオーケストラを二つに分けているだけなのかもしれません。良く聴きますと若干その気配を感じます。バッハのマタイ受難曲ほどには二つに分かれているのを感じませんが、ヘンツェが「ルター派、プロテスタントの交響曲」と評していることから、恐らくオーケストラをバッハのマタイ受難曲のように二つに分けているように思いますし、その「意味するのは何か」ということがヤノフスキの解釈の中心にあると言えるでしょう。
この第4集は、ヘンツェという作曲家の作品を通して、私たちが前衛音楽に持つ印象を覆させる意味合いがあるように感じます。それがヤノフスキや編集者の意図だとすれば、見事にその意図が私に届いていると言えるでしょう。
聴いている音源
ハンス・ヴェルナー・ヘンツェ作曲
交響曲第1番(室内オーケストラのための)
シンフォニア第6番(二つのオーケストラのための)
マレク・ヤノフスキ指揮
ベルリン放送交響楽団
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