かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

東京の図書館から~府中市立図書館~:テルデックレーベルの古楽演奏によるバッハのカンタータ全集78

東京の図書館から、78回シリーズで取り上げております、府中市立図書館のライブラリである、テルデックレーベルから出版された、古楽演奏によるバッハのカンタータ全集、今回は第78集を取り上げます。いよいよ最後まで来ました。CDでは第45集の2となっていますが、このブログでは図書館の通番に従っています。収録曲は、第198番と第199番です。

この全集は指揮者2名体制で、ニコラウス・アーノンクールグスタフ・レオンハルトの2人です。この第78集ではその両名による指揮で、オーケストラもウィーン・コンツェントゥス・ムジクスレオンハルト合奏団、合唱団もテルツ少年合唱団とハノーヴァー少年合唱団、コレギウム・ヴォカーレも参加しています。

さて、この最後の第78集ですが、感のいい方だと奇異に思われるかもしれません。この全集ではここまで実は一切世俗カンタータを収録していませんが、この最終第78集で、世俗カンタータである第198番を取り上げているのです。

カンタータ第198番「候妃よ、なお一条の光を」BWV198
カンタータ第198番は、1727年10月17日に初演された、追悼式用のカンタータで、世俗カンタータです。そもそも、200番台以下は教会カンタータなのですが、第198番は一旦教会カンタータとして分類されたものの、その後世俗カンタータになったと思われます。構成を見れば世俗カンタータなのですが、恐らく2部制であるためその間に聖書が読まれたと考えられたことと、初演の場所が教会であったことで推測されたものと思われます。

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では、なぜこの全集で唯一世俗カンタータであるこの第198番が収録されたのでしょう?私の推測は、レオンハルトの編成を使うため、です。このカンタータは追悼用だと言いましたが、ゆえに少年合唱団だけということはあまり考えられず、多くの人が嘆き悲しむという様子を表現するためには、レオンハルトが採用して来た、少年合唱団に大人の合唱団がアンサンブルするというやり方こそあっているとされたと考えるのです。カップリングは第199番ですがその演奏時間を考慮すると、別に第200番をそのまま収録しても良かったはずです。しかし実はこの全集では第200番は収録されず、第199番までとする代わりに世俗カンタータであるこの第198番を持ってきています。これはあえてそうしたとしか考えられないのです。そのため、番号としては教会カンタータに割り振られている世俗カンタータ第198番を収録したとするのが、最も自然なのです。

そして、レオンハルトの編成は、追悼されている人を調べてみても自然であると個人的には考えます。ハノーヴァー少年合唱団が参加しておりとなればソプラノはハノーヴァー少年合唱団の男子であるわけで、実際ヤン・パトリック・オファレル君が務めます。その清純な声は実にぴったりだと言えますが、実は追悼されているクリスティアーネ・エーベルハルディーネは子供を2人設けており、その両人とも男子なのです。

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そうなると、ソプラノとは言え、女子が適切なのか?ということになるわけなんです。そして歌詞も、実は必ずしも女性を想定していません。

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www.bach-cantatas.com

※英語訳なので、適宜翻訳ソフトなどを使ってください。いずれ私はこの第198番も逐語和訳する予定です。

となると、女性なんだけど実はエーベルハルディーネの男子を歌っていると想定されるわけなので、何も女性でなくても少年でもよい、ということになるわけなんです。そうなるとバッハ・コレギウム・ジャパンよりはレオンハルトのハノーヴァー少年合唱団とコレギウム・ヴォカーレのほうがいいという考え方も成立するのです。実際、少年合唱のみならず、大人のコレギウム・ヴォカーレの女声もしっかりと聴こえてくることで重厚さが増し、また多くの人が追悼しているという様子すら浮かび上がってくるのです。その「多くの人」の中には子供もいる、ということです。

そうなると、これに対するアンチとしては、果たしてバッハ・コレギウム・ジャパンという大人だけの団体が適切なのか?という問いを立てるべきですが、差別意識に対して強く批判活動をしている人たちにはこの側面での批判は一切ありません。それは作品の表面だけを見ているからで、もっと深いところを見ればその批判は変わってくるはずなのです。この辺りは現代日本批判精神の貧困の代表と言ってもいいでしょう。もっと芸術に触れてくれと切に願います。その意味でも、レオンハルトのこの演奏は、現代日本において今こそ突き刺さる刃のような存在であると言えるでしょう。もしかすると、それはそもそも欧米でも貧困な批判がもてはやされており、それへのアンチだった可能性すらあると個人的には考えます。仮に現在の演奏スタイルを踏襲するとすれば、ソプラノは女子高生あるいは女子中学生でもあってもいいということになるわけですが、誰もそのような提案をする人はいません。あるいは少年少女合唱団を採用するとか。勿論変声期は考慮するべきですが、それでも例えば音大の女子学生を使うなどの方法もあるわけです。どのように男女のバランスをとるのかは、まだまだ模索が必要だと考えます。

カンタータ第199番「わが心は血の海に漂う」BWV199
カンタータ第199番は、1713年8月27日に初演された、三位一体節後第11日曜日用のカンタータです。下記ウィキペディアでは1714年8月12日を採用していますが、私は東京書籍「バッハ事典」での小林義武氏の説を支持して、1713年8月27日を採用しました。なお、「バッハ事典」では1814年は再演としています。

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ソプラノ独唱のカンタータですが、この第199番の演奏はアーノンクール指揮ウィーン・コンツェントゥス・ムジクスで、ソプラノ独唱はテルツ少年合唱団のボーイソプラノ・・・ではなく、バーバラ・ボニーです。なんと初めて大人の女性をソリストで立てた、ということになります。

これはおそらくですが、曲の内容、そして構成から、初演時にはボーイソプラノではなかったのではという推測をアーノンクールがしたこと、そして実際にボーイソプラノでは荷が重いということで、大人の女性となってバーバラ・ボニーに白羽の矢が立ったのではないかと私は推測しています。しかも、徹頭徹尾ソプラノだけで歌われますので合唱団はなしです。となると、大人の女性に歌ってもらっても何ら問題ないということになります。

しかも、バッハの場合、ソプラノは常に少年だったわけではないことがわかっています。大人の女性用がソリストを務めたこともあるわけで、そうなると必ずしも少年である必要はないわけです。言い換えれば必ずしも大人の女性である必要もなく、適宜使い分けるのが本来だと言えるでしょう。

このバーバラ・ボニーの歌唱も彼女の実力を考えれば何ら問題ないです。ビブラート発声なのはノン・ビブラート発声で歌ってきた私としてはどうなの?と思いますが、とはいえ、バーバラ・ボニーの歌唱力は難癖をつけようもない素晴らしいものであることはもう定評です。これを覆すつもりは私は毛頭ありません。初演時の音源が残っていない以上、現代で演奏する上でビブラート発声を選択するかノン・ビブラート発声を選択するかはもう指揮者の好みですから。ただ、教会音楽であるということを考えるとき、個人的にはノン・ビブラート発声のほうがより適切だと考えるもので、できれば他のノン・ビブラート発声をする歌手で聴いてみたいという想いはあります。

とはいえ、そういうことはすべからくお金がかかるもので・・・なので、限られた条件で最善を尽くすということになり、そうなるとほぼビブラート発声をする歌手に頼むというのが、特に西欧においては普通であると言えるでしょう。西欧ではビブラート発声が普通なので。その意味では、むしろバッハ・コレギウム・ジャパンこそアンチだと言えますが、最近はバッハ・コレギウム・ジャパンもビブラート発声をする歌手を使ったりしますので・・・ではアマチュアでとなると、それこそアマチュアでこの曲をどれだけ歌いこなせるのかとなります。アーノンクールバーバラ・ボニーを使っているんですよ?ずっとウィーン少年合唱団やテルツ少年合唱団を単独で使い、ソプラノはボーイソプラノに任せてきた人が、です。まあ、しょうがないよねというのが私の判断です。しょうがないとさせるだけの説得力ある歌唱を、バーバラ・ボニーはしていますし。

その点でも、この全集を選択して良かったと、この第78集を聴いても思います。借りる前は、果たして全曲あるのだろうかと思いましたし実は抜けていることは判っていました。それでも借りたのは、やはりバッハ・コレギウム・ジャパンだけでは知識の幅は小さくなると思ったからです。その判断は間違っていなかったと、最後第78集を聴いても思います。これぞプロの仕事なのです。そしてそのプロの仕事をライブラリとして選択した、府中市立図書館の司書さんもまた、プロフェッショナルだと言えるでしょう。図書館を使いこなさない限り、現代日本の教育の問題は解決しないと思いますが、逆行することばかりやっており、果たしてこの国に未来はあるのだろうかと、暗澹たる気持ちになります・・・

さて、来週からは新しいプロジェクトが始まります。勿論、この「東京の図書館から」のコーナーも続きます!ますますごひいきのほどを!

 


聴いている音源
ヨハン・セバスティアン・バッハ作曲
カンタータ第198番「候妃よ、なお一条の光を」BWV198
カンタータ第199番「わが心は血の海に漂う」BWV199
BWV198
ヤン・パトリック・オファレル(ソプラノ、ハノーヴァー少年合唱団)
ルネ・ヤーコブス(アルト)
ジョン・エルヴェス(テノール
ハリー・ヴァン・デル・カンプ(バス)
ハノーヴァー少年合唱団(合唱指揮:ハインツ・ヘニッヒ)
コレギウム・ヴォカーレ(合唱指揮:フィリップ・ヘレヴェーへ)
グスタフ・レオンハルト指揮
レオンハルト合奏団
BWV199
バーバラ・ボニー(ソプラノ)
ニコラウス・アーノンクール指揮
ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。