東京の図書館から、78回シリーズで取り上げております、府中市立図書館のライブラリである、テルデックレーベルから出版された、古楽演奏によるバッハのカンタータ全集、今回は第26集を取り上げます。なお、CDでは第13集の2となっていますが、このブログでは図書館の通番を便宜上採用しています。
この全集は指揮者2名体制で、ニコラウス・アーノンクールとグスタフ・レオンハルトの2人が担当しています。今回はニコラウス・アーノンクールが指揮を担当、そのためオーケストラはウィーン・コンツェントゥス・ムジクス、合唱団は女声をウィーン少年合唱団が、男声をウィーン合唱隊が担当しています。
①カンタータ第49番「われは行きて汝をこがれ求む」BWV49
カンタータ第49番は、1726年11月3日に初演された、三位一体節後第20日曜日用のカンタータです。
結婚式を題材にしたものですが、用途としては三位一体節後第20日曜日用ですから結婚式ではありません。むしろ結婚式に信仰を準えたと言えます。
ですが結婚式ということに囚われると、ソプラノとバスのアリアでこの演奏は面喰うでしょう。何しろ、この演奏では女声をウィーン少年合唱団が担当しているわけで、それはつまりソプラノソロはウィーン少年合唱団員である、ということになるわけなので・・・
この演奏でも、ソロはウィーン少年合唱団のボーイソプラノである、ペーター・イェロージッツです。彼にこの辺りでは完全に固定して歌わせています。確かに、バスとのレチタティーヴォやアリオーソを聞きますと、一瞬男声というのを忘れてしまうほどですし、また歌唱も安定しており花嫁が花婿をもとめるかのよう。
それって、同性愛なのですか?と思われるかもしれません。まあ、教会ではあったかもしれませんね・・・そのあたりは深く考察はしませんが、キリスト教も男性優位で来たことからなかなか女性が聖歌隊で歌うということも少なかったとは言えるでしょう。ただ、初演時はどうだったのかはもう少し考察が必要でしょう。ボーイソプラノだったとは思うのですが・・・
そのあたりを突っ込めば藪蛇になることもありますのでこの辺りでやめておきますが(ながーくなりますので)、例えばバッハ・コレギウム・ジャパンがソプラノはソロでも女声にしていることや、アルトでも合唱は女性が担当するのは、ある意味古楽演奏でありながらも現代的な感覚を持っているが故だと言えるでしょう。それは未来へバッハの音楽を歌い継いでいく知恵だといえます。最初期の演奏を聞いてバッハ・コレギウム・ジャパンを批判する人も多いのですが、古楽演奏をたくさん聞いてきますと、バッハ・コレギウム・ジャパンの編成にも意味があることがわかってきます。勿論、モダン楽器による演奏でアルトソロまで女性というのも私は否定しませんし、その方がむしろ現代的であるとも言えるわけなので。ただ、古楽演奏はあくまでもピリオドという言葉で表現されることから、初演時に近づけるという意味合いがあるのであって、昔の人権意識を復活させようというものではないことには留意が必要です。
②カンタータ第50番「いまや、われらの神の救いと力と」BWV50
カンタータ第50番は、1723年9月29日に初演されたと仮定されているカンタータです。その日付だと用途はミカエルの祝日ということになりますが、いまだにはっきりしたことは判っていません。なぜなら、この曲は合唱だけが伝わっている作品だからです。それもたった1曲だけです。それでは歌詞の内容からでしか想像できないため、正確な日付はいまだに不明で歌詞の内容から推測される日付と用途しかわかっていないのです。
この合唱曲が、冒頭だったのか最終だったのか、それとも途中に挟まっていたのかすらわかっていません。パロディカンタータであろうというところくらいです。私が聴く限りでは冒頭合唱でも何ら不思議ではありませんが・・・
さて、演奏ですが、古楽演奏だからと言って簡素だと思うなかれ。実に祝祭感あふれる壮麗なものになっています。合唱から始まり徐々に楽器が増えて行って、最後はトランペットまで現れるまでの過程は感動でゾクゾクします。しかもフレージングも長く、トランペットはおそらく自然トランペットなのでバルヴがないはずですが、美しく壮麗です。自然トランペットが入った場合、どの古楽演奏でもあまり短く音を切るということはしていないんですよねえ。これはロマン派の作品を演奏する時にピリオドでやる場合も留意するほうがいいと思います・・・
また、この段々楽器が増えていくというのは、のちにベートーヴェンの交響曲第9番にまで影響を及ぼしていると感じるのは私だけなんでしょうか?ベートーヴェンはバッハの作品も研究し自作に取り入れていますが、主に鍵盤楽器だったはずではあるのです。でも第九の第4楽章、バスのレチタティーヴォが入る前、歓喜の調べのユニゾンが器楽で奏される前の、低弦からヴァイオリン、そして管楽器などが段々増えていくところによく似ています。モーツァルトのバロック音楽を研究したわけですから、ベートーヴェンが参考にしていてもおかしくありません。そもそも、英語だと「コラール」との表記も多いわけですし・・・
たった合唱1つしかないカンタータでありながら強烈な印象を残す第50番を、壮麗に演奏することでさらに第九につながる音楽史が想起されるような強烈な印象を残す演奏になっているのは、アーノンクールもどこか意識しているせいなのかなと、個人的には思ってしまいます。私が単に第九が好きなだけかもしれませんが・・・
聴いている音源
ヨハン・セバスティアン・バッハ作曲
カンタータ第49番「われは行きて汝をこがれ求む」BWV49
カンタータ第50番「いまや、われらの神の救いと力と」BWV50
ペーター・イェーロジッツ(ソプラノ、ウィーン少年合唱団員)
ポール・エスウッド(アルト)
クルト・エクヴィールツ(テノール)
リュート・ヴァン・デル・メール(バス)
ウィーン少年合唱団、ウィーン合唱隊(合唱指揮:ハンス・ギレスベルガー)
ニコラウス・アーノンクール指揮、通奏低音チェロ
ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス
地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。