かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

今月のお買いもの:浜松市楽器博物館 コレクションシリーズ58 ベートーヴェンBEST

今月のお買いもの、令和5(2023)年9月に購入したものをご紹介します。浜松市楽器博物館で購入した、ベートーヴェンBESTです。

先日、浜松市楽器博物館へ行ったエントリを立てましたが・・・・・

ykanchan.hatenablog.com

その中で、ピアノの形式の違いを写真に収めていたのを覚えておいででしょうか?上記エントリに掲載されている写真の8枚目です。一応、再掲しておきましょう。こんな感じです。

 

 

実は、この違いはベートーヴェンの創作に多大な影響を与えているんです。その実演とも言うべきCDが、今回買い求めたものになります。実際は浜松市楽器博物館がすでに出版しているCDからの抜粋なのですが。

え?浜松市楽器博物館がCDを出版しているんですかって?そうなんです。かつては銀座山野楽器でも取り扱いがあったほどの有名なシリーズなんです。バッハのチェンバロ曲の取り扱いもあって、実は狙っていたのですがそもそも現在銀座山野楽器がCD売り場を縮小し、浜松市楽器博物館のシリーズの取り扱いもやめてしまっていますので、現地に行くか通販を使うかしないと購入できません。そのため、今回現地で購入した、ということになります。そして、せっかくピアノの構造を写してきたのだから、それにまつわるCDがいいなと思い、この抜粋にしたというわけでした。本当はバッハのチェンバロのが欲しかったのですが、どうやら店頭には無いようでした・・・

そもそも、博物館にはいくつか役割があります。ここで文化庁のサイトに記述されているものを見てみましょう。

「博物館は,資料収集・保存,調査研究,展示,教育普及といった活動を一体的に行う施設であり,実物資料を通じて人々の学習活動を支援する施設としても,重要な役割を果たしています。」

www.bunka.go.jp

では、このCDが何に当たるのかと言えば、教育普及という活動になります。博物館はそのために展覧会の図録や刊行物の発行をするのですが、このCDはまさに刊行物という扱いになるのです。しかも、浜松市楽器博物館にはアクトシティ浜松が併設されており、ホールがあります。となれば、演奏を収録し、それを刊行物として出版することも亦可能である、ということなのです。私も、大学時代川崎市市民ミュージアムで実習をしましたが、やはりこの博物館の役割は大事ですし、学習したのも懐かしいです。

収録されているのはどれもベートーヴェンを代表するピアノ作品ばかりなのですが、もちろん普通のピアノではありません。博物館所蔵の、ウィーン式あるいはイギリス式の、フォルテピアノ、ということになります。伴奏する独奏楽器も、ピリオドです。なので聴いているとモダンと比べますとピッチが異なります。しかし基本的に、ベートーヴェンがまだ聴覚が生きていた時には似た響きを聴いていたのだなと、はっきりします。

このアルバムには4つのフォルテピアノが使用されており、ブロードウッド、フリッツ、ワルター&サン、シュトライヒャーの4つです。特にこのうちブロードウッドとシュトライヒャーはベートーヴェンピアノ曲を語る上で大切な楽器で、ブックレットには、はっきりとブロードウッドがベートーヴェンに「ワルトシュタイン」を書かせたとの記述があります。さすが「ハンマークラヴィーア」で「未来の人は弾けるようになる」と語った逸話が残っているだけあります。ベートーヴェン以降のピアノ曲作曲家たちは、ほぼ全員がピアノという楽器の進歩を日夜感じ、その結果を作品に反映させていったと言えるでしょう。

一方で、古い技術であってもその限界に挑戦する姿も、このアルバムからは見て取れます。ワルター&サンをこのアルバムではヴァイオリン・ソナタ「春」とピアノ・ソナタ「月光」の収録で使っていますが、ウィーン式なので技術的にはイギリス式よりは劣るため、「春」では多少古臭い部分もありますが、しかし「月光」だと途端に激しく内面をえぐるような作品になっています。同じ楽器を使った演奏でおそらくその楽器に適して作曲されたはずなのに、この差は考えさせられます。それだけ、ベートーヴェンは一人のピアニストとして、ピアノの技術革新を信じ興味を持っていたと考えられるでしょう。実際、ここに収録された曲の大部分は、ワルター&サンのフォルテピアノで演奏されています。ですがベートーヴェンがそこにとどまろうとしたのではなく、新しい技術があればそれを試し、一方で古い技術のものでもそのポテンシャルを最大限引き出そうとして芸術作品を紡ぎ出していった姿が、明確に聴きとることが出来ます。

その経緯を演奏で確認したくて、わざとこの抜粋盤を買ったのです。おかげでベートーヴェンのピアノ作品がどのような楽器を背景に作られ、その魂がどこにあるのかが明確に演奏でわかる、素晴らしいものでした、演奏のレベルも高く、思わずのってしまったり、あるいは感情移入をしてしまったりします。特にピアノを弾いている小倉貴久子女史は解説文も書かれていますが、生命力あふれる演奏です。日本には優れた演奏家たちがいくらでもいることを、明確に示しているという点でも、優れたアルバムだと言えます。

実は、このCDは開館25周年記念企画展「知られざるベートーヴェン」を記念したものです。たとえば、奈良国立博物館正倉院展で言えば図録のようなものです。しかし素晴らしいのは、そのために必要な演奏がすでに博物館刊行物として存在すること、です。このアルバムはその刊行物から集めてきただけなんですから。海外アーティストのCDを買うのもいいですが、せっかくハイレゾやストリーミングの時代にCDを買うなら、このような、演奏でも優れているうえに学術的に意味のあるものを買うほうが、我が国の文化をもっと花開かせるように思うのは、私だけなんでしょうか。私自身、さらにしっかりと全曲が収録されたCDが欲しくなりました。いや、もう棚いっぱいですが・・・・・どーしよー

 


聴いているCD
浜松市楽器博物館 コレクションシリーズ58
開館25周年記念企画展「知られざるベートーヴェン」記念
ベートーヴェンBEST
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲
ピアノ・ソナタ第21番ハ長調作品53「ワルトシュタイン」第1楽章
ヴァイオリン・ソナタ第5番ヘ長調作品24「春」第1楽章
ピアノ・ソナタ第14番嬰ハ短調作品27-2「月光」
チェロ・ソナタイ長調作品69第3楽章
ホルン・ソナタヘ長調作品17第1楽章
創作主題「トルコ行進曲」の主題による6つの変奏曲作品76
ピアノ協奏曲第4番ト短調作品58 原典資料に基づく室内楽稿H.W.キューテン編第3楽章
エリーゼのために イ短調WoO.59
小倉貴久子(ピアノ)
桐山建志(ヴァイオリン)
花崎薫(チェロ)
塚田聡(ナチュラルホルン)
高木聡(ヴァイオリン)
藤村政芳(ヴィオラ
長岡聡季(ヴィオラ

(コジマ録音 LMCD-2107)

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。