かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

東京の図書館から~府中市立図書館~:スークとパネンカによるベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全集4

東京の図書館から、4回シリーズで取り上げております、ヨゼフ・スークとヤン・パネンカによるベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全集、最終回の第4回は4枚目に収録されている第9番と第10番の演奏を取り上げます。

第9番は「クロイツェル」。ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタの中でも最も評価が高い作品ですが、ちょっと待ってください。「クロイツェル」は3楽章制であるということを踏まえて受け止めていますか?

ja.wikipedia.org

上記ウィキの記述は不完全なものなので、全部を信用することはできませんが、しかし3楽章制ということは私は重要だと思っているのです。なぜなら、3楽章ということはベートーヴェンとしては決して重厚な作品として作曲しているわけではない、ということを意味するからです。

第1主題の激しく嵐のような旋律が印象的なのでつい勘違いしてしまいますが、ベートーヴェンはそんな嵐のような旋律であっても、第9番は3楽章で書いているんです。樫本大進がやったような嵐のような勢いでいく演奏も好きなのですが、このスークとパネンカのコンビはその「3楽章制」が意味するものを大事に演奏しているように聴こえます。

なぜなら、序奏はとても穏やかで、第1主題が始めると途端に激しくなりますが、それ以外の第2楽章や第3楽章ではむしろアーティキュレーションに重点を置いて「歌って」います。この対比と、織り成す綾は、聴いていて爽快さすらあります。

一方の第10番では、明るく平明な作品ながらも味わい深い演奏を繰り広げ、むしろ堂々たる演奏になっているのも魅力です。そのうえで、ベートーヴェンが目指した「独奏楽器とピアノとの対等性」が存分に表現されており、その延長戦上には「音楽の平等性」を目指していることが演奏や表現から明らかです。

ソナタなので、近代の視点では4楽章制が当たり前なのです。ですがベートーヴェンはむしろヴァイオリン・ソナタにおいては3楽章制も多く書いています。それはベートーヴェンの革新性と当時の演奏家の技量とを両立させるという、ベートーヴェンの目的が浮かび上がるものです。ピアノはベートーヴェンも弾けますが、ヴァイオリンはベートーヴェン自身も弾けたとはいえ、実際の演奏では他者に任せないといけません。そのため当時の演奏家の技量を考える必要があるわけです。

そのうえで、対等な関係を作品において実現する・・・・・ベートーヴェンとしては折れないといけない場面もあったはずです。「クロイツェル」はそんな妥協と理想とが混在しているわけなのです。スークのヴァイオリンにはそんな「人間ベートーヴェン」を踏まえた、優しいまなざしを感じます。第9番の少し肩肘張った様子、そして第10番の肩の力が抜けた様子。どちらもベートーヴェンの作品であり、表現であるわけです。ベートーヴェンを決して神格化せず、一人の人間としてとらえ、その一人の人間が生み出した芸術を、一人の人間として向き合う演奏になっているのが、私にとっては非常に好印象です。

それは、20世紀のチェコという社会を生き抜いてきた二人の、人生の反映なのかもしれませんが・・・・・

録音も素晴らしいもので、スプラフォンだと思いますがハイレゾ相当で聴く場合、うまく空気感が出ないことがスプラフォン録音はたまにあるのですがそんなことが一切ないんです。この全集全体で空気感が素晴らしいですし、特にこの第4集で言えば、第9番「クロイツェル」の第2楽章におけるヴァイオリンのピチカートは非常に臨場感があるものです。44.1kHz/16bitでもこれほどの情報が存在していたのか!と驚きを禁じ得ません。もしかするとそもそも録音の時に192kHz/24bitだった可能性もあるかもしれません。それをCD音質へといダウンサンプリングしただけだったとすれば、この現象は説明できるのですが。

いずれにしても、人間が紡ぎだす芸術として、高い評価を与えるべき演奏であると言えるでしょう。

 


聴いている音源
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲
ヴァイオリン・ソナタ第9番イ長調作品47「クロイツェル」
ヴァイオリン・ソナタ第10番ト長調作品96
ヨゼフ・スーク(ヴァイオリン)
ヤン・パネンカ(ピアノ)

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