神奈川県立図書館所蔵CDグルダのベートーヴェンピアノソナタ全集の、今回は第9回目。第30番から第31番までを取り上げます。
この3曲は作品番号も連続している、ベートーヴェン晩年の傑作群ですが、この3曲ではグルダの演奏には徹底的に落ち着きというものが見られます。初期作品であったような飛び切り速い演奏などみじんもありません。
第31番ではフーガがあり、第32番ではジャズ風のものがあるなど、様式においてもこの3曲には特色満載ですが、それをただ淡々と弾いてゆくグルダ。いったい何があったのでしょう?
私はここまで聴いてきてこう思います。やはり、グルダはこの全集において、全体を俯瞰して弾いていて、そしてそれはベートーヴェンのピアノソナタの発展という視点で弾いているのだ、と。
変人グルダがどこまですごい演奏を擦るのだろう、たとえばグールドのように、などと期待してはいけません。その代り、渋くしかしきらりと光る演奏で彩られています。
私はここで、グルダの演奏を進めてくださった人に感謝したいと思います。実際はその人が言った通りではなかったわけですが、しかしグルダがまずクラシックの基礎にしっかりと立脚した演奏家であるということを認識させてくれたことに感謝なのです。
グルダは自らが作曲した作品などはかなり勝手にシンドバッドといった感じですが、それはあくまでも音楽史や演奏法など、クラシックの基礎に立脚したうえであるということが、特にこの第9集を聴いてわかるからです。なんと奇をてらっていないのでしょう。けれど、じんわりと感動が押し寄せてきます。
こういった演奏こそ、名演といえるでしょう。変わったことをしていないのになぜか涙が止まらないような、そんな演奏に出会ったら、皆さんは幸せを感じるのではないでしょうか。このグルダの演奏はまさしくその通りの演奏なのです。
最後に、この全集のもう一つの特徴を述べておきましょう。これは音楽論ではなくむしろオーディオの観点になりますが、楽章ごとにトラックわけがなされていないのです。一曲で1トラックです。
これは私も驚きました。昔の録音だからといって、楽章ごとではないトラック割なんて普通のCDでもあるのか!と。
例えば、私がアナログ音源をパソコンへとり入れたのであればわかります。その時のトラック割の方法は二つあり、一つは楽章ごとに取り込むことで楽章を一つのファイルにする方法であり、もう一つはとりあえず一曲全部取り込んで、後で波形編集ソフトを使って楽章を一つのファイルに切り分けることでトラックを振るという方法です。
しかし、この音源はそんなことを一切せず、そのまま一曲を1トラックにしてしまったのです。つまり、取りあえずデジタルファイルとして1曲を音楽ファイルにしたけれど、そのままですよというわけです。
ですから、ベートーヴェンのピアノソナタをよく知っていないと、今どの楽章を弾いているのかが分かりにくくなります。これは記憶をたどるしかありませんが、借りたCDには楽章ごとに時間は書いてあったと思いますので、CDをただ聞き流すのであれば特に問題はないものと思われますが、問題はグルダの演奏のここが聴きたい!という場合はすぐ頭出しが出来ない不便があるのです。
昔、CDが出たことは楽章よりもさらに細かいトラック割がなされていたことがありました。デジタル技術ならではのデータです。しかし、実際に聴くときにはそこまでの細かい分け方は必要なく、結局楽章ごとに落ち着いたのですが、グルダのCDはそれすら必要ないでしょ?という問いかけにもなっているように思います。曲ごとで十分でしょう、と。
実際、私もこの原稿を書くにあたって、楽章ごとに聴くのはせいぜい第九くらいです(いわゆる、vor Gott!の部分の振り方を確認したいから)。それ以外の曲で楽章ごとで聴くことはあまりありません。ないわけではないですが。ほとんどは1曲聞き流しです。携帯で聴く場合もそうです。
そのため、この全集を携帯へ入れようと思ったことも有ります。ただ、人気があるせいか、多少音飛びが・・・・・
ま、これはグルダが1曲全体を聴いて判断してくださいと言っていると、理解するほうがいいように思います。少なくともグルダは、ベートーヴェンのピアノソナタを俯瞰して弾いているのですから、私たちもその観点で楽章など関係なく聴くのが彼の演奏のメッセージを受け取る一番いい方法なのだと思います。
聴いている音源
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲
ピアノソナタ第30番ホ長調作品109
ピアノソナタ第31番変イ長調作品110
ピアノソナタ第32番ハ短調作品111
フリードリッヒ・グルダ(ピアノ)
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