かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

東京の図書館から~府中市立図書館~:リゲティ 管弦楽作品集

東京の図書館から、今回は府中市立図書館のライブラリである、リゲティ管弦楽作品集を取り上げます。

リゲティは当ブログでも幾度か出てきている作曲家です。ハンガリー生まれでオーストリアで活躍したユダヤ人です。その出自と時代による経験が、リゲティの音楽には色濃く反映されているように私は思います。

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このアルバムに収録された作品は、どれもリゲティ亡命後の作品。そしてトーン・クラスターが使用されている作品たちです。そのため、音の波状攻撃という印象を受けます。二つの協奏曲も正直古典的な協奏曲とはいいがたい作品です。少なくともこのアルバムに収録されている協奏曲は、単にオーケストラと独奏楽器が並立するという様式になっています。特に「フルート、オーボエ管弦楽のための二重協奏曲」はいきなり独奏楽器が出たうえでカデンツァも聴きとりにくい作品で、ともすればバロックの合奏協奏曲をトーン・クラスターで表現したような作品になっています。「室内協奏曲」はまさにリゲティ流の合奏協奏曲だと言えるでしょう。

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さらに「管弦楽五重奏のための10の小品」は楽器の並列の印象が強く、様式という印象は薄いです。それはある意味、ベートーヴェンが確立した「楽器同士、独奏楽器とオーケストラの対等性」の極致とも言えましょう。そのうえで、一つ一つが混然一体となって音楽を作り上げていくという感じです。それはそれで「様式」と言っていいのだと思います。

その「様式」と和声が紡ぎだすものは、リゲティが経験した人生に基づく、人間の内面なのかもしれないと私は感じます。アルバムの編成も、ソリストが集まったもの、そして室内アンサンブルと小さなもの。ですが音楽は壮麗で、宇宙が鳴っているような感覚さえあります。何かが鳴いているのか?と思うと等間隔で音が鳴っており違う印象を受けます。音がせわしなく感じたと思えば、一転静寂が訪れたり。実に複雑ですが、一方では壮麗な世界が広がっています。

単に悲劇を和声的に描くのではなく、人間の魂の深淵に迫っていくような音楽。東洋的に言えば草庵で沈思黙考するような。座禅をしてどこか自分が浮遊している感覚すら覚えます。ある意味、ジャポニズムから始まった東洋への興味が、西洋音楽というフィルターで漉され、音楽としてそこにあることになったと言えなくもないのでは?と思います。

リゲティの人生は、到底普通の人では経験し得ないほど激烈なものだったと言えるでしょう。ユダヤ人として生まれたがために迫害を受け家族も亡くし、生き残ってもさらに大国に踏みつぶされ、当局ににらまれる・・・・・単に悲しむというよりは、その経験からどこか斜に構えていたと、音楽から私は受け取っています。それゆえに音楽はわかりにくくなってもいますが、リゲティの人生を知ると、その音楽が意味することが、少しずつ分かってくるように思うのです。

それはある意味、リゲティの処世術だったのかもしれません。勿論自分の表現を貫き通したことは事実ですが、かといってあからさまに戦うと周りとの関係がおかしくなります。如何にすれば自身の魂に平和が訪れ、自身を貫き通せるのかに、心血を注いだ人だったと、音楽からは感じます。演奏者たちも、どこかそのリゲティの生きざまとその結果生み出された芸術に共感している印象を受けます。トーン・クラスターなのでともすれば人間臭さが感じられないんですが、この演奏にはどこか人間臭さというか。温かみを感じるのです。そこに、演奏者たちの意志を感じるのです。現代音楽はこのように聴くのか!と自分自身が驚くとともに、見開かされる演奏です。

 


聞いている音源
ジョルジーリゲティ作曲
管弦楽のためのメロディー(1971)
フルート、オーボエ管弦楽のための二重協奏曲(1972)
13人の奏者のための室内協奏曲(1969/70)
管弦楽五重奏のための10の小品
オーレル・ニコレ(フルート)
ハインツ・ホリガーオーボエ
ウィーン管楽ソロイスツ(10の小品)
 ヴォルフガング・シュルツ(フルート)
 ゲルハルト・トゥレチェク(オーボエ
 ペーター・シュミ―ドル(クラリネット
 フォルカー・アルトマン(ホルン)
 フリッツ・フォルトル(バスーン
デイヴィッド・アサ―トン指揮
ロンドン・シンフォニエッタ

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。