かんちゃん 音楽のある日常

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コンサート雑感:合奏団ZERO第32回定期演奏会を聴いて

コンサート雑感、今回は令和6(2024)年8月12日に聴きに行きました、合奏団ZERO第32回定期演奏会のレビューです。

合奏団ZEROさんは音楽監督である松岡究さんの音楽性を実現するために結成された東京のアマチュアオーケストラです。

tokyo-met.com

松岡さんの指揮を幾度か聴いていますが、この方の解釈はステディですが演奏は常に感動させるものであるのは素晴らしいと思います。前回の第31回を聴いても素晴らしい演奏だったので、ちょうどご招待いただいたこともあり、もう一度足を運ぶことにしました。

今回の曲目は以下の通りです。

ハイドン 交響曲第101番「時計」
サン=サーンス チェロ協奏曲第1番
ベートーヴェン 交響曲第7番

仮に一つテーマがあるとすれば、絶対音楽の系譜、でしょうか。特に、サン=サーンスのチェロ協奏曲が取り上げられることはアマチュアオーケストラでも珍しいと思います。

フランス音楽と言えば、ドビュッシーなどドイツ音楽とは距離を置くという見方が多いのですが、ではフランスの音楽界がドイツ音楽を敵視していたのかと言えばそうではなく、むしろ好んで演奏されています。特にドビュッシーがフランス・バロックに範をとったのは、当時ヨーロッパで勃興していた民族主義国民国家という枠組みが大いに関係しています。フランスの「国民音楽協会」を設立した一人にサン=サーンスがいます。そのサン=サーンスの音楽はフランス民族主義だったのかと言えばそうでもないのに、です。この辺りは、何をもって「フランス音楽」と定義するのかというところになるので、難しい側面です。私の見立てでは、サン=サーンスは自分のスタイルはドイツ音楽と共通している部分があるけれど、フランス・バロックに範をとって新しいものを創り出すことに反対はしていません。これは心理学で「境界線を引く」と言いますが、サン=サーンスは境界線が引けた人だと思います。

そんなサン=サーンスを2プロに入れ、1プロにハイドン、メインにベートーヴェンを置き、ちょうど挟み込む形にしたのも面白いプログラムだと思います。交響曲が2曲で通常であればおなか一杯のところですが、そこにまるでデザートのようにサン=サーンスを挟み込む・・・ランチの時間なのに上質なディナーでした。

ハイドンの「時計」は第2楽章のリズムが正確性があるように聴こえるところから後世名付けられた作品で、ハイドン自身は時計をイメージして作曲したわけではありません。むしろ、第1楽章はダイナミックで雄大な部分さえある曲です。「時計」という表題に囚われず、松岡氏がスコアから救いとった指示を的確に大胆に表現するオーケストラは本当に素晴らしい!ホールはなかのZEROホールですが、その響きの良さも相まって、自分は日本ではないところで聴いているのかと錯覚しそうですし、目の前で弾いているのはプロではなかろうかと見まごうほどです。

サン=サーンスのチェロ協奏曲第1番は、後期ロマン派の作品らしいロマンティックさを持ちつつ、様式的には個性がある作品です。1楽章形式が徹底されておりかつ、循環形式をとっており、下記ウィキペディアではシューマンが例示されていますが私としてはリストのピアノ協奏曲のほうが想起される作品です。

ja.wikipedia.org

それでは単なるまねでは?と思われるかもしれませんが、わたしは真似大いに結構!というスタンスです。そのうえで、どれだけ作品に魅力があるのかが重要ではないかと思います。冒頭はいきなりチェロの独奏で始まりつつもすぐオーケストラも入るので、ほとんど独奏楽器とオーケストラが一緒に始めているように聴こえます。ソリストは寺田達郎さん。スズキメソード出身とのことで、道理でチェロが歌っているなあと感じました。オーケストラは対等な立場で時にダイナミックに時に一緒に歌い、その掛け合いも楽しい!20分ほどの短い作品ですが、あっという間に時間が過ぎていきます。

真似をしても魅力が無かったり、師匠を超えようとして個性はあるけど魅力がないというケースは、クラシック音楽を聴いてきますと結構たくさん経験します。特に埋もれた作曲家だとその傾向もみられます。それに比べれば、サン=サーンスはしっかりと存在感のある作品を残していることもまた評価すべき作曲家ではないでしょうか。ソリストのアンコールはもしかすると「白鳥」かなあと思っていたらその通りでした!通常はオーケストラ曲でその中で独奏される曲ですが、今回は完全にチェロのみで演奏され、それだけでも本当に味わいある作品だと感じさせるのはやはりソリストのUDEでしょう。チェロはそもそも最も人間の声に近い楽器だと言われますが、その特徴を白鳥を表現するのに使ったサン=サーンスの魂を掬い取るかのような美しさでした。

メインのベートーヴェン交響曲第7番。力強いアインザッツで始まる第1楽章、哀愁があって時に泣いているかのような第2楽章、リズミカルでまさに舞曲と言えるような第3楽章、激しい踊りのような第4楽章と、表題がついていないにも関わらず魅力ある作品で、「リズムの権化」とも言われるこの曲を、まさに味わい尽くし楽しみ尽くしている演奏!ちょうどベートーヴェンが恋愛をしている時に作曲されたと言われますが、そのベートーヴェンの幸せそうな雰囲気が前面に押し出されている作品を全力で楽しむオーケストラ。第4楽章では私自身思わず体をゆすってしまうほど。オーケストラが楽しんでいるのが聴衆に伝わってくるのです。松岡氏はスコアリーディングから作品の本質、魂と掬い取るのが上手な指揮者だと毎度思いますが、その本質や魂をしっかりと表現できるオーケストラがあってこそです。オーケストラが作品と指揮者に共感している様子が、さらに私の心と魂を揺さぶります。音楽を聴くというのはこういう事だよなあと本当に思います。こんな素晴らしい演奏を聴きますと、おいしい料理が食べたくなります。中野っておいしい店が結構あるんですよねえ。どこかに入ろうかと思いましたが、太るので家に帰るまで辛抱しました・・・

次のコンサートもまた、楽しむために足を運べればと思います!

 


聴いて来たコンサート
合奏団ZERO第32回定期演奏会
フランツ・ヨゼフ・ハイドン作曲
交響曲第101番ニ長調Hob.I:101「時計」
カミーユ・サン=サーンス作曲
チェロ協奏曲第1番イ短調作品33
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲
交響曲第7番イ長調作品92
寺田達郎(チェロ)
松岡究指揮
合奏団ZERO

令和6(2024)年8月12日、東京、中野、なかのZEROホール

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。