コンサート雑感、今回は令和5(2023)年10月8日に聴きに行きました、横浜みなととなみ管弦楽団の第15回演奏会のレビューです。
横浜みなととなみ管弦楽団さんは、横浜を中心に活動するアマチュアオーケストラです。不思議な名前なんだけれども、かんちゃんさん、ふざけてません?上から読んでも下から読んでも「みなととなみ」なんですが?という、ア・ナ・タ。鋭いですねえ。いや、ふざけていません。このオーケストラの名称は、オーケストラがまさに上から読んでもみなととなみ、下から読んでもみなととなみとなるよう命名されています。ですが、その言葉遊びの半面、とても音楽に真摯に取り組んでおられる団体です。
https://minato-to-nami-orchestra-yokohama.jimdosite.com/
プログラムに特徴を持つオーケストラにしたいという想いは素晴らしいと思います。いや、アマチュアオーケストラは結構どこも冒険する団体が多いですが、過去のプロラムを見てみても独創的で、オリジナルなものがずらりと並んでいます。神奈川のアマチュアオーケストラでは、あまりない団体だと言っていいと思います。東京だとそこそこありますが・・・・・
横浜や川崎では、ヨーロッパ的な市民オーケストラが多く存在しますが、横浜みなととなみ管弦楽団さんはむしろ東京にあるアマチュアオーケストラに近いスタンスを持っています。たとえば、オーケストラ・ダスビダーニャなどが典型です。そんなオーケストラに近いスタンスで今回も選曲がされています。メインはマーラーの交響曲第2番「復活」。
実は、みなととなみ管弦楽団さんの名前は結構前から存じ上げており、都民交響楽団さんの第九を聴きに行った時にチラシが入っていたように思います。なぜなら、その時に共演した合唱団であるソニー・フィルハーモニック合唱団と共演されるという予定があったからです。
ソニー・フィルハーモニック合唱団さんの演奏会は、小金井宮地楽器ホールでの開催だったのですが、たしか仕事の関係で見送ったと記憶しています。そのため、横浜みなととなみ管弦楽団さんの演奏はまだ未経験だったこと、そしてメインがマーラーの「復活」だったこともあり、チケットを取り足を運んだ次第です。それにしても、横浜まではそれなりに時間とお金がかかるので、大変なのですが・・・・・
ロケーションは横浜みなとみらいホール。何度か来たことがあるホールでしたので慣れてはいましたが、体調が悪くなってからは初めてでしたので、ちょっと不安もあったのですが、マーラーの「復活」だからこそ聴きに行こう!と決めた部分もあります。私自身、復活したい!という想いはありますので。
1プロと2プロは、バロックの作品を管弦楽へと編曲したもの。1プロはバッハの前奏曲ロ短調BWV869。原曲は平均律クラヴィーア曲集第1巻第24曲で、指揮者のレオポルド・ストコフスキーが管弦楽へと編曲したもの。ストコフスキーらしい現代的でロマン派的なアプローチの編曲は、オーケストラが生き生きと演奏しやすかったように思いますが、そのせいなのか、いやあ、アマチュアにしてはレベルが高い!弦のやせた音がほとんど聞こえません。むしろ曲が持つ生命力が前面に押し出されています。
2プロはバッハの先生でもあった、ブクステフーデのシャコンヌ ホ短調Bux:WV160。なんと!この編曲を手がけたのが、メキシコの作曲家、カルロス・チャベス。中南米はバッハなどバロックの作品に範を取ったり、インスパイアされたりという作品が多いのですが、チャベスは編曲を手がけていました。ブクステフーデは時代的にバッハより前ですが大まかな時代は後期バロックとかぶるのですが、とはいえ、編曲はチャベスが生きた時代と地域を反映して、幾分エスニックな雰囲気が漂います。その雰囲気を存分にオーケストラが味わい尽くしているのも好印象。そして、このプログラムこそ、みなととなみ管弦楽団さんらしさが前面に出ていると言っていいでしょう。バッハの先生であるブクステフーデを、オーケストラが取り上げるって、そうそうないですよ?これだけでも、かなり真摯に取り組んでいる証拠でもあります。そのうえで音楽を楽しんでいる。これぞアマチュア精神だと言えます。
さて、休憩の後、マーラーの「復活」。え?第1楽章と第2楽章はそのまま休憩前に演奏されたのでは?と思うかもしれませんが、私自身は、もしかすると1プロと2プロが終ったら休憩かも?と思っていました。確かに「復活」は長い曲ですが、かといって短いものであれば1時間20分程度の演奏もあります。実際、私が持っている尾高忠明指揮東京フィルのものは1時間22分ほどです。ベートーヴェンの第九より、10分~15分ほど長いだけです。なら、マーラーの「復活」だけ後半に、というのは十分あり得る選択です。
アマチュアによくありがちな、ppとffの差が少ないということがなく、ダイナミックな演奏が繰り広げられます。ホールは横浜みなとみらいホールの大ホールですが・・・・・これには工夫があり、実は当日は1階席だけが解放され、それ以外は閉鎖されていたのです。どうして?とおもいましたが演奏を聴くにつれて納得。そうすればアマチュアにとっては、キャパが小さいホールとさほど変わりなく聴かせることが出来るからです。いやあ、これは参りましたという感じです。特に第3楽章以降、ソリストや合唱団が入るとボルテージが上がってきます。そのうえ、合唱団が秀逸!繊細な表現力と力強さが同居する演奏はアマチュア離れしています。合唱団は常設の団体が参加しているのではなく、おそらくこのコンサートのために集まった人たちで結成されたもの。なので団長ではなく世話役となっていました(なお、世話役の方は私が本名で活動しているSNSにいいね!をつけてくださいました。この場を借りて御礼申し上げます)。ふと見れば、ソプラノに見覚えのある女性が・・・・・プログラムで名前を確認したところ、大田区第九合唱団で一緒だった方で間違いありません。彼女が参加している団体なら、実力があって当然だと思いました。以前、AGORAの演奏会でもお見掛けし、終演後話をしたこともあります。元気そうで何よりです。というか・・・・・
第5楽章の合唱が本当に素晴らしく、精神性がある演奏。 Bereite dich(生きることに 備えよ) の部分で泣いてしまいました。語ると長くなりますので簡単に話しますが、難病を抱えしばらく仕事からも離れなくてはならなくなった私にとって、今「生きる」ということはとても大切な言葉であり、テーマです。その私にとって、
生まれしものは かならず滅びる
滅びしものは 生まれ変わる
震えるのは やめよ
生きることに 備えよ
という部分は、感動で打ち震えるものでした。滅びしものは、生まれ変わる・・・・・なんと希望に満ちた言葉だろう!制限がある中でも、私は今生きている。生を受けている限り、あきらめてはいけない、そう勇気をもらえる歌詞であり、演奏でありました。感動して思わず嗚咽するだけの演奏を、マーラーのアマチュアの演奏で経験しようとは。チケット代と交通費を払ってまで、足を運んでよかった・・・・・演奏が終わり、残響を味わった後に、我慢しきれなくなり「ブラヴォウ!」を2回もかけてしまいました。
横浜みなととなみ管弦楽団さんは、代表者が指揮者の児玉章裕氏。実は彼は、音大などの出身ではなく、アマチュア指揮者です。会社員の傍ら日曜指揮者として活動し、横浜でいくつかのアマチュア団体を立ち上げた方とプログラムで知りました。今年はなぜかこのような指揮者に出会う確率が高い年になっています。4月のProject B オーケストラも、指揮者は元会社員でしたし。どちらも演奏や解釈に何ら問題ない、素晴らしい演奏を繰り広げています。この「復活」をプログラムに入れたのは、会社員としての人生が反映されているのかもと思うと、どこか共感できるものがあります。「人はパンのみにて生きるにあらず」ですし。
単にいい演奏が聴ければと足を運んだコンサートで、感動に打ち震え、勇気までもらえるとは・・・・・しばらくコンサートがないとのことですが、再開を願ってやみません。この御恩は、必ずコンサートへ足を運ぶことで返したいと思います。できれば、ベートーヴェンの第九もお願いしたいところです・・・・・
聴いてきたコンサート
横浜みなととなみ管弦楽団第15回演奏会
ヨハン・セバスティアン・バッハ作曲
前奏曲ロ短調BWV869(平均律クラヴィーア曲集第1巻第24曲、レオポルド・ストコフスキー編曲)
ディートリッヒ・ブクステフーデ作曲
シャコンヌ ホ短調Bux:WV160(カルロス・チャベス編曲)
グスタフ・マーラー作曲
交響曲第2番「復活」
三浦志保(ソプラノ)
熊井千春(アルト)
みなととなみ「復活」合唱団(世話役:広瀬泰文)
児玉章裕指揮
横浜みなととなみ管弦楽団
令和5(2023)年10月8日、神奈川、横浜、西、横浜みなとみらいホール大ホール
地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。