かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

神奈川県立図書館所蔵CD:メンデルスゾーン 合唱曲集8

神奈川県立図書館ライブラリ、メンデルスゾーンの合唱曲集をシリーズで取り上げていますが、今回は第8集を取り上げます。

この第8集は、とてもメンデルスゾーンらしいという作品が並んでいます。まず3つの詩編作品78は、詩篇に単に曲を付けたというだけではなく、他の作品に転用されている点で、前回も触れましたがメンデルスゾーンがバッハを意識して作曲しているということがよく分かる作品なのです。

具体的に言えば、2曲目の「神よ、あなたの裁きを望みます(詩編43、初版)」は実は「エリア」作品70にも出てくるもので、作品番号では3つの詩篇のほうが後になっていますが、実際の作曲は3つの詩篇のほうがエリアより前で、つまりこの詩篇をエリアで使っている、ということになります。

つまり、すでにあるものを使って再構成する・・・・・バッハがよくやっていた手法を、メンデルスゾーンも行ったのです。忙しかったからということもあるかもしれませんが、前期ロマン派という時代を考えると、むしろあえてバッハに範を取ってわざとした、というべきだと思います。

若きメンデルスゾーンは、敬虔なプロテスタント信者だったこともあり、バッハの音楽に衝撃を受けます。そして生涯、それが彼の作曲に大きな影響を与えています。ベートーヴェンの第九に続く合唱つきの交響曲である「賛歌」も、ベートーヴェンだけではなくむしろバッハの影響を受けた面が大きい作品です(交響曲についてはまた、別途エントリを上げる予定です)。

交響曲だけでなく、今メンデルスゾーンの合唱曲(主に宗教作品)を取り上げていますが、むしろその合唱曲の多さこそ、バッハの強い影響下にあることを物語るのです。そしてそれは、同時代の作曲家、シューマンにも影響を与えていきます。

マチュア合唱団が演奏する合唱曲の内、近代以外では圧倒的に前期ロマン派の、メンデルスゾーンシューマン、あるいはシューベルトと言った作曲家の作品が多くを占めます。それは、彼らがアマチュア合唱団向けの、優れた作品を生み出していったからなのです。前回も触れましたが、時代は市民革命。合唱曲が教会から外へ出て行った時代なのです。言うなれば、「宗教曲の市民化」なのです。

メンデルスゾーンは敬虔なプロテスタントであったがゆえに、その時代にふさわしい宗教曲を書くことを、自ら課したのでした。そしてその「プログラム」を終生貫いて、様々な優れた合唱曲が、交響曲以上に生み出されました。

多分、メンデルスゾーンが最初あまり評価されなかった(それは日本においてでもですが)のは、交響曲の少なさであり、その一方の合唱曲の豊かさ故であると、私は考えています。しかし、そろそろそれは終りにしたいものです。

続く第2曲目は、6つの箴言作品79です。「箴言」とは、教訓などのことを指すのですが、旧約聖書の中の一書でもあります。

http://dictionary.goo.ne.jp/leaf/jn2/113960/m0u/

ただ、この作品、CDDBで引っ張ってきますと、英訳は実は「アンセム」なんですねえ。

anthem
http://ejje.weblio.jp/content/anthem

派生して、「国歌」という意味もあるのですが、日本語訳では「賛歌」というほうがしっくりくると思います。図書館で借りてきたものには「箴言」とあったのですが、その日本語以外の意味も歌詞には含まれている、と考えるのが正しいと思います。6つのキリスト教の主要行事である、降臨祭、元日、昇天日、受難節、待降節、受難日を取り上げています。

つまり、いかにもキリスト教的なテクストに基づいた作品だといえます。そういった日に、教会で牧師などが語るために、適切な音楽であるということが言えます。

最期のドイツ典礼ですが、実はそれぞれ、キリエ、グローリア、そしてサンクトゥスと分かれていますが、キリエはラテン語ですが、他の二つはドイツ語です。これも、プロテスタントで使う音楽を十分意識しながら、その担い手として市民を想定している作品だといえます。

それはやがて、ブラームスの「ドイツ・レクイエム」で結実するといえば、わかりやすいでしょう。ラテン語、あるいはイタリア語をドイツ語に訳して歌う・・・・・これは市民革命前から、ドイツ語圏では脈々と受け継がれている運動であり、クラシック音楽では遅くともモーツァルトの時代から始まっています。その代表作がオペラ(ジングシュピール)「魔笛」です。

魔笛
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AD%94%E7%AC%9B

このモーツァルトの運動を引き継いだのがウェーバーや、このメンデルスゾーンであり、その一つの作品がこのドイツ典礼である、と言えます。しかも、メンデルスゾーンはバッハの強い影響下にあったがため、モーツァルトでもできなかった、ドイツ語で歌うための宗教音楽を、次々に作曲していったのです。

この全集に収められている作品たちは、そういった音楽史に基づいて残されたものです。特にこの「ドイツ典礼」は、所謂ミサ通常文を、ドイツ語でという点こそ、音楽史上画期的だといえます。バッハですら、ミサ曲ロ短調ラテン語だったのですから・・・・・

それにしても、こういった作品をまとめて出すというのは、さすが本場ならではだなあと思います。これも合唱団はヨーロッパ室内合唱団ですが、実は前回と今回共に、聖歌隊同様、ソリストは団員が務めています。そしてそれは何の違和感もありません。

勿論、専業のソリストを使うほうがもっといい演奏になるかもしれません。ただ、これらの作品は本当にこじんまりしており、それ故指揮者の力量が問われる作品群でもあります。その意味では、室内合唱団で十分だったなあと思います。

本文中でも触れていますが、これらの作品は当時のアマチュア合唱団(市民合唱団)が歌うことを前提としています。聖歌隊などでもないですし、ましてや歌劇場でもありません。ですので、もともと専業のソリストが必ずしも必要ではないわけです。

むしろ、この演奏は専業のソリストを使わないことで、メンデルスゾーンの作曲の意図を、確実に伝えようとしているように聴こえます。しっかりとしたアンサンブルは、小さなアンサンブルでも、壮大で壮麗、そして爽快な音楽を奏でることができることを、しっかりと証明しています。

なぜブルックナーがモテットを数多く作曲したのか・・・・・その原点が、ここにはあります。



聴いている音源
フェリックス・メンデルスゾーン・バルトルディ作曲
3つの詩編 作品78(2声の合唱のための)
�@なにゆえ、国々は騒ぎ立ち(詩編2)
�A神よ、あなたの裁きを望みます(詩編43、初版)
�Bわたしの神よ、なぜわたしをお見捨てになるのか(詩編22)
6つの箴言 作品79(8声の混声合唱のための)
�C降臨祭に
�D元日に
�E昇天日に
�F受難節に
�G待降節
�H受難日に
ドイツ典礼ソリストと二つの4声混声合唱のための)
�Iキリエ イ長調
�Jグローリア
�Kサンクトゥス
ハイケ・ハイルマン(ソプラノ)
ブリジット・ヴェグマン(ソプラノ)
ブリジット・マイヤー(アルト)
ガブリエル・ヴンデラー(アルト)
ゲルハルト・ホルツレ(テノール
ゲルハルト・ネンネマン(テノール
マンフレート・ビットナー(バス)
ヴィルヘルム・シュヴィンクハンマー(バス)
ニコル・マット指揮
ヨーロッパ室内合唱団

地震および津波により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。同時に原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方に、感謝申し上げます。



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