かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

神奈川県立図書館所蔵CD:メンデルスゾーン合唱曲集6

神奈川県立図書館所蔵CDのコーナー、メンデルゾーンの合唱曲集を取り上げていますが、今回はその第6集を取り上げます。

この第6集では、オーケストラが出て来ません。一番シンプルなアカペラと、オルガン伴奏によるものとなっています。曲目は、ホーラ・エスト、アヴェ・マリア、そしてテ・デウムが2つの4曲です。

この第6集に収録されているその4曲は、実は一転、バロックに範を取ったというよりはむしろ、新しい時代を予感させる曲がずらりと並んでいます。勿論、題材になったテクストは別段新しいものではないので、広義の伝統回帰とは言えるでしょう。

その一方で、実に新しいことをやっているのです。以下、曲の正確な題名を出しましょう。

ホーラ・エスト(4つの四声混声合唱とオルガンのための)
テ・デウム a4(四声混声合唱ソリスト、オルガンのための)
アヴェ・マリア 作品23(八声混声合唱と八人のソリストのための)
テ・デウム a8(ソリストと2つの4部混声合唱とオルガンのための)

さて、何に気付かれましたでしょうか?「テ・デウム」の一つ目は別として、それ以外では合唱団の和声が厚くなっていることがおわかりでしょうか?

特に、ホーラ・エストとアヴェ・マリアの厚さは注目です。実は、私はこういった作品をメンデルスゾーンではないのですが、歌ったことがあります。それは、ブラームスの「運命の歌」。

実は「運命の歌」は、声部が6声ほどになっており、一部では8声にもなっています。これは後期ロマン派では結構当たり前に出てくるものなのですが(特にブラームス)、その先鞭とも言うべき作品が、ここにはずらりと並んでいるのです。

しかも、ホーラ・エストやテ・デウムなどは後年ブルックナーも作曲しており、またこのブルックナーも比較的厚い声部を持つ作品を合唱曲では残しています。

ブラームスブルックナーも、ともに後期ロマン派のシンフォニストであり、同時に素晴らしい合唱曲をいくつも残した作曲家です。私から言えば、両人とも合唱曲作曲家だという認識を持っています。それと見まごうかのような作品が、ここには並んでいるという訳です。

ドイツ・ロマン派と言えば、特に後期ロマン派において素晴らしいシンフォニストが3人も生まれた(ブラームスブルックナーマーラー)ことから、どうしても交響曲に目が行きがちなのですが、それ以上に素晴らしい合唱曲が生まれた時代、そして地域です。そのきっかけは前期ロマン派にあったことが、この作品群からははっきりと見て取れます(ちなみに、それはメンデルスゾーンだけではなく、もう一人シューマンを挙げなくてはなりませんが、それはまた別の機会に。さらには、シューベルトも忘れてはなりません!)。

その起源を辿れば、やはりバッハに行きつくのですが、メンデルスゾーンの功績は、宗教曲だけではなく世俗曲にも素晴らしい合唱曲を残したことなのですが、残念ながらこの全集には宗教曲しか収録されていないために、それはまた別の機会に触れることになるでしょう。しかしその宗教曲だけでも、如何に後世に影響を与えているかが、一目瞭然です。

こういった作品を演奏する場合、基本的にソリストは合唱団から出すのが基本です。つまりこれらの曲は、聖歌隊が歌うことを念頭に作曲されるからです。このCDではまったくその通りに演奏されています。そしてそういった演奏こそ、合唱団の実力が丸裸にされる、「怖い」曲でもあります。それをしてしまっているのが、素晴らしい点です。

これ、実はなかなかできないんです。それは勿論、一人で歌うということの「怖さ」と、ソリストはたちむかわなくてはならないからです。

ソロを担当してみると、プロのソリストを尊敬の念で見ないわけにはいかなくなります。私も練習でですが、第九のソロパートを担当したことがあります(第4楽章アラ・マルシア男声合唱)。練習なのにとても緊張するんです。自分が間違うとすべてをぶち壊す恐怖と、どうしても向き合う為です。私一人が間違えば、男声合唱の練習なのにそこでつっかえてしまう・・・・・その重圧、恐怖と言ったらないです。ソリストって、本当に「プロ」なんだなと、理解した瞬間です。

それを、ごく普通にこのCDではヨーロッパ室内合唱団がこなしています。つまり、それは一定以上の実力が備わっている証拠です。実際、ソリストは何の問題もありません。合唱団から出ているからこそ、合唱団とのバランスも絶妙ですし、曲全体のまとまりもしっかりとした印象を聴き手に与えています。

これはおそらくですが、ヨーロッパ室内合唱団の団員が青春時代、その多くが聖歌隊に所属していたからなのではないか、と思っています。実は、英語表記では「クワイア」なんです、この合唱団。なるほど!と納得です。実は「クワイア」こそ、日本語では聖歌隊とも訳されるんです。

勿論、元々は聖歌隊を指す言葉でした。しかし現在では聖歌隊だけではなく合唱団も指すので、一概にこの合唱団を聖歌隊だということはできません。しかし、聖歌隊くらいの規模の合唱団、という意味でクワイアになるのであれば、なるほどです。つまり、聖歌隊ではないけれども、聖歌隊が歌うような作品を取り上げる合唱団(通常、クワイアという名前になる時は宗教曲を中心に取り上げる合唱団を指すことが多い)である、ということです。であれば、出身が聖歌隊ということは、ヨーロッパでは特段珍しいことではありません。

そういったことが、こういったCDの演奏を聴くと、本当に気が付かされるのですが、それこそ、こういった演奏を聴く醍醐味だと言えるでしょう。



聴いているCD
フェリックス・メンデルスゾーン・バルトルディ作曲
ホーラ・エスト(4つの四声混声合唱とオルガンのための)
テ・デウム a4(四声混声合唱ソリスト、オルガンのための)
アヴェ・マリア 作品23(八声混声合唱と八人のソリストのための)
テ・デウム a8(ソリストと2つの4部混声合唱とオルガンのための)
ニコル・マット指揮
ヨーロッパ室内合唱団

地震および津波により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。同時に原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方に、感謝申し上げます。



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