かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

東京の図書館から~府中市立図書館~:ブルックナー 宗教曲集4

東京の図書館から、今回は府中市立図書館のライブラリである、ブルックナーの宗教曲集の第4集を取り上げます。

ここまで主にミサ曲が収録されてきましたが、この第4集ではおそらくブルックナーの宗教曲では最も有名な「テ・デウム」が収録されています。様々な作曲家がテ・デウムを作曲していますが、最も有名なのがこのブルックナーのものと言っても過言ではないでしょう。

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テ・デウムは古くはグレゴリオ聖歌にも収録されるもので、その歌詞の冒頭で歌われる歌詞のさらに頭を取った名称です。意味は「われら神であるあなたを讃えん」です。

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ブルックナーは宗教曲でも交響曲でも、キリスト教の神を讃えるという意思を以て作曲している場合が多いのです。特にこのテ・デウムが書かれたあたりからは顕著になります。そのためなのか、交響曲第9番には逸話として「未完成であればテ・デウムを演奏してほしい」とウィーン大学の教壇で語った事が残されており、実際に第9番は未完成に終わり、死後その初演時には第4楽章を演奏せずその代わりとして別途このテ・デウムが演奏されています。

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とはいえ、テ・デウムは宗教曲であり、それゆえにハ長調で書かれています。一方、交響曲第9番ベートーヴェンの第九を意識してニ短調。調性が異なるんですね。ただ、本人はそれでも最後までベートーヴェンの第九を意識していたのかもしれません。

いずれにせよ、テ・デウムはブルックナーらしい作品と言っていいもので、随所にブルックナー終止が用いられ、神を賛美する歌に彩られています。おそらくモテットかあるいは牧師の教導部分を念頭に置いたのか、序奏の後いきなり合唱部分が始まります。これはバッハのカンタータでも使われる手法です。ベートーヴェンもピアノ協奏曲第5番「皇帝」で使っています。いきなり聴衆をその世界へと引き込む力が存在します。そのあたりでも、如何にブルックナーが信心深い人だったかがわかろうものです(ベートーヴェンの場合は、神としても必ずしもキリスト教の神とは限らないとされていますが)。

なぜこのアルバムにはどれもモテットがついているのかは、テ・デウムで明らかだとも言えるでしょう。実際、カップリングはアマチュア合唱団であればどこかで聴いたり歌ったりした覚えがあるのではないでしょうか。例えばこの第4集の7トラック目の賛歌「王の御旗は翻る」などが挙げられるでしょう。ブルックナーの芸術のコアには確かに「神」がいると思える部分です。

特に、モテットでは指揮するヨッフムがついリタルダンドを極端にしている部分すらあります。むしろテ・デウムのほうがテンポ的にはすっきりしている感があります。ビッグネームがモテットのような作品を振ることは珍しいですが、ヨッフムという指揮者が音楽家としてブルックナーの芸術のコアを理解している証拠だと思います。

こういうアルバムを収蔵するというのは、図書館の役割りをしっかり果たしていると言えますし、司書さんのセンスの良さでもあるでしょう。図書館とは経済活動ではなく社会や文化を支えるもので、言わば文明を支えると言っても過言ではありません。そこを単に経済原理だけを追求する自治体は果たして、文明を守ろうとしているのかは、私たち市民は問題意識を持っているべきだと思います。確かに税金に使い道にはシビアでいるべきですが、一方で行政の役割りとは、経済原理とは離れたところにこそあり、ゆえに税金を使うように思うのは私だけなのでしょうか?企業活動も大切ですが一方で企業も社会的存在であり、私たち市民と何ら変わりない、ただ法人格というものがあるだけであるということを理解している経営者や行政の長はどれだけいらっしゃるだろうかとは、常に私は考えております。

 


聴いている音源
アントン・ブルックナー作曲
テ・デウム
モテット
賛歌「パンジェ・リンガ」
賛歌「王の御旗は翻る」
昇階謠「これこそ大司祭である」

詩篇第150篇
マリア・シュターダー(ソプラノ、テ・デウム、詩編
ジークリンデ・ヴァ―グナー(アルト、テ・デウム)
エルンスト・ヘフリガー(テノール、テ・デウム)
ペーター・ラッガー(バス、テ・デウム)
ベルリン・ドイツ・オペラ合唱団(テ・デウム、詩編、合唱指揮:ヴァルター・ハーゲン=グロル)
ヴォルフガング・マイヤー(オルガン)
バイエルン放送合唱団(モテット、合唱指揮:ヴォルフガング・シューベルト
ルートヴィヒ・ラーベラー(トロンボーン、モテット)
ヨーゼフ・ハーン(トロンボーン、モテット)
アルフォンス・ハルテンシュタイン(トロンボーン、モテット)
オイゲン・ヨッフム指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(テ・デウム、詩編

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。