東京の図書館から、4回シリーズで府中市立図書館のライブラリである、ブルックナーの宗教曲集を取り上げていますが、今回はその第2回目。第2集を取り上げます。
第2集にはミサ曲第2番と3つのモテットが収録されています。そしてこの第2集はブルックナーがそもそも宗教音楽家だったことが明確なアルバムとなっています。
ミサ曲第2番は1866年に作曲されましたが、初演は1869年。リンツの新大聖堂落成の祝賀のために作曲されましたが、ウィキの言う通り完成が遅れたため1869年の初演になったか疑問です。ウィキの「リンツ新大聖堂」の項目を見てみると、落成は1862年となっておりその時に同じブルックナーのカンタータが作曲され初演されています。
まあこういうことがあるため、ウィキはあまり信用するべきではないと言われてしまうんですよね。1862年に落成していてなおかつその時に記念のカンタータが演奏されているということは、ミサ曲第2番は別途祝賀するために作曲されたわけですから、その「機会」に対しなんらかの障害があったため3年延長された、という見方ができるかと思います。例えば、一旦完成したのだけれども、ミサ曲を演奏するには狭すぎたので改造が必要になった、とか。それを現在の視点からすれば「未完成」ということなのでということなのかもしれません。
モーツァルトのようにすでにプランがあり、いくつかの旋律を前に使っているとかならまだいいのですが、そのような記載はないですし推測できるだけの材料もありません。そのため編制的にミサ曲第2番は大きすぎたためなのでは?と私は想像するわけなのです。
上記上げた3つのウィキのページのうち、3つ目「ブルックナーの楽曲一覧」を見てみると編成が書いてありますが、1862年新大聖堂落成を祈念して演奏された「主を讃えよ」WAB16は男声合唱4部であるのに対し、1866年に作曲されたミサ曲第2番は混声8部です。それだけ合唱団が大きいのですよね。伴奏は同じく管楽オーケストラ(吹奏楽と言ってもいいでしょう)。なので合唱団が大きすぎて初演に改造が間に合わなかった、もしくはそもそもそれだけの規模の合唱団が入るように建設されていたけれども「主を讃えよ」の1862年の落成時には間に合わないことが確実だったので小さな編成にしたのかのどちらかでしょう。
そもそも、ブルックナーはリンツ大聖堂のオルガニストでしたから、内情は知っていると考えていいでしょう。なのでどちらかの理由でミサ曲第2番の初演が1869年になったと考えるほうがいいかと思います。ネットで調べる限りではこれ以上わからなかったので、断定するにはさらに詳しい本を図書館で借りるか現地へ行くかの2択だろうと思います。それができない現状では私としては断定を避けたいと思います。
このミサ曲第2番は、ブルックナーの宗教作曲家の側面をあらわしていると述べましたが、それはこの作品の伴奏が「管楽オーケストラ」である、という点なのです。このアルバムの4曲目であるモテット「乙女たちは王の前に招き入れられる」は伴奏としてトロンボーンがついていますが、このトロンボーンという楽器はモテットなど宗教曲でよく使われる管楽器。なのでブルックナーとしてはフルオーケストラよりも管楽オーケストラのほうがなじみが深かったと言えます。さらに言えば、リンツ新大聖堂の落成を祝賀する機会のミサ曲だからこそ、管楽オーケストラを選択したともいえるかと思います。
その意味でやはり、ブルックナーという人はとても保守的な人だった、と言えるかと思います。その一方でロマン派の作曲家なので、フルオーケストラによるミサ曲も書いていますし、これ以降特に交響曲を書くシンフォニストとしての側面が強くもなっています。こうしたことから、私はブルックナーの交響曲の出発点は宗教曲である、と主張するのです。カップリングでモテットがついているのは第1集と同じですが、この第2集こそそのカップリングが意味するものは強いでしょう。ヨッフムらしいゆったりとしたテンポを維持しながらも、静謐な時間がそこには流れ、ヨーロッパにおける宗教の位置というものを私たちに確認させてくれます。
ミサ曲においても、合唱団はビブラートがかかった発声ながらも生命力あふれる演奏になっており、ロマン派らしい人間がそこにいる音楽がそこにはあります。一方で荘厳さや静謐さも存在し、ブルックナーの芸術のコアな部分が何たるかを、存分に味わえるものとなっているのも魅力です。ブルックナーの交響曲が好きな方にこそぜひとも聴いてほしい演奏です。
聴いている音源
アントン・ブルックナー作曲
ミサ曲第2番ホ短調
モテット
昇階謠「正しい者の口は」(8部合唱)
昇階謠「キリストはおのれを低くして」(4部合唱)
奉献謠「乙女たちは王の前に招き入れられる」(4部合唱、トロンボーン)
ルートヴィヒ・ラーベラー(トロンボーン)
ヨーゼフ・ハーン(トロンボーン)
アルフォンス・ハルテンシュタイン(トロンボーン)
バイエルン放送合唱団(合唱指揮:ヨーゼフ・シュミットフーバー、ヴォルフガング・シューベルト)
オイゲン・ヨッフム指揮
バイエルン放送交響楽団(管楽パートのみ)
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