かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

神奈川県立図書館所蔵CD:バーバー 作品集

神奈川県立図書館所蔵CDのコーナー、今回はバーバーの作品を収録したアルバムをご紹介します。

・・・って、もう終わったコーナーですよねって?はい、実はもう神奈川県立図書館で借りてきたCDはご紹介し終わったと思っていました。ところが・・・

どうもPCで整理した時に、変なフォルダに入ったようで、全く違うアーティストのフォルダに、神奈川県立図書館で借りてきてリッピングしていた音源が混じっていたようなのです。あちゃー

なので、久しぶりに神奈川県立図書館所蔵CDのコーナーを復活させます。おそらく、この1回だけになる予定ですが・・・さて。

バーバーは、20世紀アメリカの作曲家です。20世紀後半になって、我が国でも認識され演奏回数も増えた作曲家です。

ja.wikipedia.org

時代的には、新古典主義音楽の影響を受けていてもおかしくないですが、バーバーの場合は、新ロマン主義というジャンルにカテゴライズされます。

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ロマン主義のうち、バーバーはアメリカにおける新ロマン主義音楽の一角を占める作曲家です。その特徴はまさに以下にウィキペディアで述べられている内容そのものだと言えます。

西洋音楽史において「新ロマン主義」とは、19世紀において、フランツ・リストリヒャルト・ワーグナーに代表される「新ドイツ楽派」とその影響下にある音楽を指す場合と、20世紀において、ロマン主義音楽がいったん終息した1920年代以降に、ロマン主義音楽の復権をもくろんだり、あるいは表面上、伝統回帰と見せかけるような創作姿勢をとることを言う場合とがある。

注意すべきは、20世紀における「新ロマン主義音楽」は、単なる現代音楽に対する保守反動とは言い切れない面もあることである。なぜなら新ロマン主義音楽を目指した人々は、戦後の欧米におけるアヴァンギャルド中心の芸術音楽のあり方、とりわけ、聴衆の存在を無視した極端な作家主義や芸術至上主義に対して、疑問を投げかけているからなのである。」

これは、私が言う「20世紀音楽」という定義に近いものになっていると思います。実際、現在のクラシック音楽界を見渡してみれば、むしろこの1920年アメリカで起こった新ロマン主義音楽がメインストリームになりつつあると考えています。故に私は現代音楽と言わず「20世紀音楽」とあえて呼んでいます。

ここに収録されている3つの作品は、どれもバーバーが1920年アメリカで勃興した方の新ロマン主義音楽にカテゴライズされる作曲者であり、単純な不協和音反対論者ではないことを強力に示すものとなっています。

まず第1曲目の交響曲第1番。各楽章が連続して演奏されるうえに、しっかりとした調性音楽であり和声もロマン派そのものと言っていい作品です。構造的には、後期ロマン派の様々な作曲家へのオマージュが見え隠れする作品です。

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第2曲目のピアノ協奏曲。なんと!冒頭ピアノ独奏から始まります。これだけでも単純なロマン派回帰ではないのが分かりますが、同時に不協和音が鳴り響くのです!交響曲第1番とはある意味正反対の作品です。なのに、対位法が使われいたり、循環形式だったりと、アンチ不協和音でもありません。

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第3曲目が、スーヴェニアーズ(思い出) 。お土産という意味ですが、お土産は何のために買うのかと言えば、ほとんどの皆さんが思い出として買うのではないでしょうか。他人への土産にしても、土地の物を買ったりしますよね?それはなぜかと言えば、その思い出を共有したいという想いもそこにあるからではないでしょうか。そのためか、この作品も思いっきり調性音楽に触れており、どこから見ても後期ロマン派としか見えない作品です。

enc.piano.or.jp

それぞれ、1937年、1960年、1951年という完成時期です。バーバーがどのような作曲家なのかが、明確なアルバムだと言えますし、その目的を持ったアルバムだと言っていいと思います。指揮はレナード・スラットキン。アメリカ音楽を表現するオーソリティと言っていい指揮者です。

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そして、ピアニストが、スラットキンも演奏していますが(スーヴェニアーズ)、独奏はジョン・ブラウニング。この人が調べると曲者で、演奏するとなるとかなり高いハードルを持って選定していたようです。そのお眼鏡にかなった作曲家がバーバーであり、そういった作品のオーソリティだからこそ、スラットキンと組んだ可能性が高いのではないでしょうか。

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そして、このオーケストラがセントルイス交響楽団。どうも、スラットキンは無類の野球ファンのようで、ワールドシリーズの実況をコンサートの中でやったと言う・・・確かに、セントルイス・カージナルスはあまりワールドシリーズに出るチームではありません。ですが、アメリカという国はやはり欧米諸国であって、おらが街のチームを応援する雰囲気を持っていると言っていいでしょう。MLB中継を見ると、本当にアウェイだとものすごいブーイングをしたりするんです。日本だと阪神ファン広島ファンは危険視されますけれど、むしろ阪神ファン広島ファンのほうが、ワールドワイドなあり方なのだと気付かされます。

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そういった「おらが街」という意識があるからこそ、苦難を乗り越えてオーケストラが残っているとも言えるでしょう。そういった土壌も、ブラウニングがスラットキン、そしてセントルイス響と組んだ理由のように思われます。演奏も随所に、ピアニストの熱情と、それにこたえるオーケストラの熱情とが入り混じり、感情の奔流を感じます。私達日本人のバーバーという作曲家のイメージとはどこか異なる雰囲気が底にあります。どうも、日本ではバーバーが知られたのが「弦楽のためのアダージョ」なので、そのイメージでつい聴いてしまいがちですが、しかしその背景を知ると、俄然バーバーのイメージが変わってきます。

こうなると、なぜチェレプニンが「ローカルこそインターナショナルである」と言ったのか、よくわかる事例のように思うのは私だけなのでしょうか・・・

 


聴いている音源
サミュエル・バーバー作曲
交響曲第1番ホ短調作品9
ピアノ協奏曲作品38
スーヴェニアーズ(思い出)作品28(4手のピアノのための)
ジョン・ブラウニング(ピアノ)
レナード・スラットキン指揮、ピアノ(スーヴェニアーズ)
セントルイス交響楽団

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。