かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

コンサート雑感:武蔵野市民合唱団第48回定期演奏会を聴いて

コンサート雑感、今回は令和6(2024)年に聴きに行きました、武蔵野市民合唱団第48回定期演奏会のレビューです。

武蔵野市民合唱団さんは武蔵野市にあるアマチュア合唱団です。かつては武蔵野市から補助金を受けていましたが今は完全独立団体として活動されており、団員も周辺自治体から広く集まっています。

ms-chor.sakura.ne.jp

そして、私自身もこの合唱団の演奏は2度聴いております。その理由は、ピアニストの佐藤季里さんがかつて私が入っていたアマチュア合唱団である宮前フィルハーモニー合唱団「飛翔」の練習ピアニストだったからです。

ykanchan.hatenablog.com

ykanchan.hatenablog.com

2度とも、そのレベルの高さに驚いたものですが、今回も素晴らしい演奏を聴かせてもらえたと思います。特にブラヴィ!の掛け声が・・・さすが、市民合唱団だと思います。

さて、今回の曲目は以下の通りです。

吉岡弘行 キュイジーヌ
吉岡弘行 ふるさと春夏秋冬
③グノー 聖チェチーリア荘厳ミサ曲

今回も武蔵野市民合唱団さんらしいプログラムだなあと思います。1曲づつ行きましょう!

吉岡弘行 キュイジーヌ

作曲者の吉岡弘行さんは実は武蔵野市民合唱団さんの常任指揮者でもあります。つまり、この「キュイジーヌⅡ」という作品は作曲者本人による指揮なんですね。これは演奏にいい影響を与えていたと思います。

実はこの「キュイジーヌⅡ」という作品、その内容は「レシピ」なんです。え?どういうこと?と思われるかと思いますが、レシピ、つまり料理の指南書です。私も自炊をしますがその時に参考にするのがレシピ。その通りに作ればおいしくいただけるというもの。それがなんと混声合唱になっているんです!

吉岡さんは実は「キュイジーヌ」という作品も書いており、そのため「Ⅱ」なんです。採用されているレシピは、

1.ビーフストロガノフ
2.ハンバーガ
3.バリジャータ
4.杏仁豆腐
5.広島風お好み焼

いやあ、おいしそうな料理ばかり・・・じゅるり。思わずよだれが出そうです。歌詞を載せられないのが心苦しいのですが、確かに歌詞はレシピになっているんです。実はⅠも含めてこの作品、本来は女声(もしくは児童)合唱作品。つまり、いつも料理を作っている人たち向けの作品なんですね。料理をいつも作っている人であれば楽しい作品だと言うことです。

www.editionkawai.jp

しかし今回は混声合唱なのです。実は以下のYouTubeで演奏されている混声合唱団SMCさんが歌うことに伴い、混声合唱に吉岡さんが編曲されたそうで、今回はこの混声版が選択されています。ちなみに、YouTube Premiumに入っておられる方はYouTube Musicでも聴くことが出来ます。

www.youtube.com

混声合唱団SMCさんの演奏はサントリーホールであることもあってか、そのレベルの高さは素晴らしいのですが、その熱量としては、私は武蔵野市民合唱団さんの今回の演奏の方が素晴らしかったと思います。実際、武蔵野市民合唱団さんのレベルも決して低いわけではありません。同じ曲から抜粋の動画が武蔵野市民合唱団さんのYouTubeにありましたので挙げておきます。ロケーションは実は今回と同じ武蔵市民文化会館なのですが、この動画では小ホールを使われています。今回の定期演奏会は大ホールでした。ちなみに大ホールは私が最初にベートーヴェンの第九を藤岡幸夫氏の指揮で歌った懐かしいホールです。

www.youtube.com

小ホールのほうが音響がいいように聴こえるのは私だけなのでしょうか・・・でも、この動画を見ますと、慣れているのは大ホールのほうかもと思います。少しだけかしこまった印象を受けます。ちなみにピアニストは今回の定期演奏会でも佐藤季里さんでした。その佐藤さんのピアノもまた楽しそうに弾くんです!

それだけではありません。混声ということは当然男性も入るわけなんですが、その男性もまた楽しそうに歌うんです!いやあ、自炊している私としては、料理していて楽しいことってあるよね!って思います。勿論毎日のことなので時として大変に思うこともありますが、しかし出来上がった料理がおいしい時はそんな苦しさは吹っ飛んでしまいます。レシピに曲をつけるという発想、素晴らしすぎます!

それぞれの料理がもつ背景やおいしさ、幸せなどが詰まっている作品となっており、その描写の表現は作曲者が指揮者であるというアドバンテージもあるのか、表現が豊かだったとおもいます。特に「杏仁豆腐」の甘い幸せや、「ハンバーガー」を持って出かける楽しい様子、「広島風お好み焼き」(歌詞が広島弁)が現地広島で作られている様子、楽しさが存分に表現されていたのはむしろ今回の演奏だったと思います。

この演奏では、合唱団員そして指揮者がカジュアルな服装の上エプロンもつけていたことを付け加えておきましょう!こういう遊び心こそ、市民合唱団というものです!確かエプロンを付けていなかったのはピアニストだけだったと思います。

吉岡弘行 ふるさと春夏秋冬

「ふるさと春夏秋冬」は1989年にこの演奏をしている武蔵野市民合唱団の委嘱により完成した作品です。2017年に聴きに行った第40回定期演奏会で私が間に合わず聴けなかった作品。この作品はその名の通り、唱歌を春夏秋冬でならべた作品ですが、それがひとつのドラマにもなっている作品です。以下のYouTubeは日本ニューフィルハーモニック管弦楽団30周年記念コンサートの動画ではオーケストラ版ですが、そもそもはピアノ伴奏の作品で、今回の武蔵野市民合唱団さんの演奏も原曲のピアノ版です。

www.youtube.com

このオーケストラ版はかなりいろんな他の作品も連結部分に採用されていますが、本来はそれほど挿入はされていない作品です。しかしところどころ「あれ?これ他の作品だよね?」と気づくように作られており、採用された唱歌だけが存在するのではないことは共通しています。ちなみに採用されている唱歌はこのオーケストラ版とピアノ版ともに同じです。同じような作品を取り上げていませんでしたっけ?というア・ナ・タ。おっしゃる通りです。三善晃の「唱歌の四季」がそれです。

ykanchan.hatenablog.com

ただ、「ふるさと春夏秋冬」が異なるのは、もう一度春に戻り、最後が「ふるさと」で終わること。単に四季を並べたのではなく、ふるさとの春夏秋冬が目に浮かぶような作品なのです。ドヴォルザーク交響曲第8番や第9番「新世界より」と同じテイストであると言えばわかりやすいかと思います。

このピアノ伴奏も佐藤季里さん。この人、本当にうまいピアニストなんです。第45回のレビューでも述べましたが、歌いやすく弾きますしまた演奏における表情のつけ方も素晴らしい人なんです。練習ピアニストもできて本番も行けるピアニストはなかなかいないので、様々な団体に引っ張りだこなんだと思います。実際、今回も繊細かつ楽しい演奏を披露していました。

そしてこの作品も吉岡さんの編曲であることから、いわば作曲者ご本人の指揮ということになるわけなんです。唱歌と言えばだれでも知っている曲だと言えますが、しかしその唱歌を一つのドラマに仕立てたうえで、ドキュメンタリーのように情景が浮かぶように並べ編成しなおしているとなるとまた新たなファクターが生まれるものであり、唱歌の世界だけに囚われてしまうと作品が持つ生命や魂が演奏において失われかねないと思います。この辺りはさすが作曲者が振られているとあって、生命力を感じる演奏になっていました。特に力強さは圧巻!男声は少ないはずなんですがホールの最上段でもビンビン聞こえます。第43回定期演奏会で聴けなかった作品が聴けたのは幸せでした。

③グノー 聖チェチーリア荘厳ミサ曲

グノーは19世紀フランスで活躍した作曲家で、つまり時代的にはロマン派に属する作曲家です。有名な作品としては「アヴェ・マリア」だと思います。ドリフの「8時だよ全員集合!」の合唱コーナー(志村けんの「東村山音頭」が歌われたことで有名)で演奏された曲でもありますが、そのグノーが1851年に完成させ、さらに1855年に手を加えて発表したのが「聖チェチーリア荘厳ミサ曲」です。

ja.wikipedia.org

ja.wikipedia.org

基本的にはミサ曲なのでミサ通常文が採用されていますが、荘厳ミサ曲、つまりミサ・ソレムニスであるせいなのか、通常文にはない歌詞も挿入されています(ドミネ・サルヴム)。様式も時代もあってかオペラ的にはなっていますが、しかし敬虔な様子が表現されている作品です。

今回はオーケストラは予算の関係だろうと思いますが採用せず、ピアノとティンパニコントラバス、オルガンという編成でした。この編成にするのは指揮者吉岡さんのセンスの良さだなあと思います。弦五部と管楽器の代わりをピアノに置き換え、打楽器はティンパニのみ採用、そして通奏低音の役割を果たすオルガンを採用と、作曲もされるだけある素晴らしい編成になったと思います。実際私も宮前フィルハーモニー合唱団「飛翔」で同じような編成で歌ったことは幾度もあります。その時の音楽監督であった守谷弘も作曲家だったが故の選択でした。

前半で日本語の作品を歌ってきてこのグノーを歌うのは切り替えが大変だと思いますが、その点はほとんど影響なさそうでした。ただ、アマチュア合唱団あるあるですが、ppでの不安定さが散見されたのは残念・・・いや、それだけロマン派の作品には繊細なものが多いという証拠ですし、作品がオペラ的だと言っても宗教曲であるがゆえに繊細であるのは当然だとも言えます。グノーの作品が特に日本では演奏機会が少ないのですが参考になる演奏が少ない中でチャレンジして一定のレベルをたたき出すのはさすが武蔵野市民合唱団さんだと言えます。実は②でも指揮者吉岡さんがソロを歌われているのですがソロが出来るだけの実力があるせいか、合唱団に息を吸わすのがうまいなあという印象です。だからこそ力強い部分が美しい!これはしっかり息が吸えてないと難しいので。それはppでもでしょ?とおっしゃるかもしれませんがその通りです。しかし、平均年齢が高い中でそこまでできたとすれば、もうプロレベルなんですよね。そこまでは残念ながら至っていませんがそれは仕方ないことだと思います。仕事などで忙しかったり、体が若い時に比べて動かなくなってきていたりする状態で体を作るのがいかに大変か・・・それは若い人が実行して乗り越えて欲しいと思います。

アンコールがドリフの番組でおなじみだった「アヴェマリア」。これは繊細な表現がしっかりとついていたのが素晴らしかったです。各曲においても万来の拍手が沸き起こるのは当然だったと思います。

次回は来年。メインがラターの「レクイエム」に指揮者吉岡さんの「たいせつなもの」、そして混声合唱曲「武蔵野」とこれもまた武蔵野市民合唱団らしい曲が並んだと思います。ぜひとも足を運べればと思います。どこかとバッティングしませんように・・・

 

 

聴いて来たコンサート
武蔵野市民合唱団第48回定期演奏会
吉岡弘行作曲(伊藤千鶴作詞)
混声合唱のための組曲キュイジーヌⅡ」
吉岡弘行編曲
混声合唱曲「ふるさと春夏秋冬」オリジナル・アレンジによる唱歌メドレー
シャルル・フランソワ・グノー作曲
聖チェチーリア荘厳ミサ曲
アヴェ・マリア(アンコール)
樫木伴実(ソプラノ、③)
小沼俊太郎(テノール、③)
成瀬当正(バリトン、③)
小介川淳子(オルガン、③)
島田奈央(コントラバス、③)
瀬川順子(ティンパニ、③)
佐藤季里(ピアノ)
吉岡弘行指揮
武蔵野市民合唱団

令和6(2024)年6月16日、東京武蔵野、武蔵野市民文化会館大ホール

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。