かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

東京の図書館から~小金井市立図書館~:ヤブロンスキー兄弟による、ピアノ2台の魅力

東京の図書館から、今回は小金井市立図書館のライブラリである、ヤブロンスキー兄弟による2台ピアノの演奏によるアルバムをご紹介します。

実は、アルバム名は「ラプソディー・イン・ブルー」。言わずと知れた、アメリカの作曲家ガーシュインの作品です。ただ、普通は管弦楽とピアノによる演奏です。しかし、このアルバムはヤブロンスキー兄弟しか演奏者がいません。つまり、その時点でピアノ連弾か2台ピアノによる演奏かのどちらかになるわけで、私達が知っている「ラプソディー・イン・ブルー」の編成ではありません。

実は、ラプソディー・イン・ブルーは、ガーシュインは元々ピアノ2台による演奏を念頭に作曲していた作品だと言うのです。

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そして、収録されている他の作品も、ピアノ2台もしくは独奏を2台に編曲された作品なのです。ピアノ曲は数々あれど、実は結構2台用の作品もあるのか!と目から鱗が落ちるようなアルバムになっています。

まず1曲目が、リストの「ドン・ジョヴァンニの回想」。原曲はモーツァルト作曲の有名なオペラのアリアなのですが。それを再構成しつつも変奏曲までにしているのは、さすがリストです。

enc.piano.or.jp

これは元々はピアノ独奏曲なのですが、それを2台用にリスト自身の手により編曲されたものです。

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リストはこういうことを結構やっており、以前このブログでも、ベートーヴェン交響曲をピアノ用へトランスクリプションした版を取り上げていますが、交響曲第9番を独奏だけでなく2台用に編曲したものを取り上げています。普通にリストはこのようなことをするのですが、それは明らかに当時ピアノという楽器の発達があるのです。そのうえで、オーケストラを持つにはまだ経済が発達してはおらず、そのため気軽に演奏できるためにトランスクリプションが行われたのです。

この「ドン・ジョヴァンニの回想」も、恐らくリストがモーツァルトのオペラを気軽に楽しいでほしいという一念があったように思います。演奏の難易度が高いことも、恐らく原曲のオペラを意識しているためだと思いますし、さらにはリストがそれだけ超絶技巧の演奏家だったということでもあるでしょう。超絶技巧のピアニストであるからこそ、オペラをピアノでできるだけ再現したいという想いが伝わってきます。それであっても、聴き手にはとても親しみやすい構成になっており、そのうえでクラヴィーアの伝統である変奏まで楽しめる作品です。ヤブロンスキー兄弟も、楽しそうに弾いています。

さて、2曲目に入る前に、ヤブロンスキー兄弟をご紹介しておく必要があるでしょう。有名なのは兄のペーター・ヤブロンスキー。「ぺーテル」とドイツ語的な訳もあります。日本では武蔵野音楽大学の教授としても有名です。

www.musashino-music.ac.jp

その弟が、パトリック・ヤブロンスキー。まるでラベック姉妹のような、兄弟息の合った演奏は魅力的。第1曲目から、その兄弟息の合った演奏により、作品が持つ本質を浮かび上がらせています。

2曲目と3曲目がガーシュイン。2曲目は「アイ・ガット・リズム変奏曲」。原曲はガーシュイン自身のミュージカル「ガール・クレイジー」のアリア。そのアリアも有名ですが、むしろ日本ではこの変奏曲のほうが有名かもしれません。もともとはピアノと管弦楽のための作品で、変奏曲風の幻想曲と言ってもいい作品です。ウィキペディアには記載がありませんが、ピティナの方には2台ピアノ用に編曲されたという記述があります。こういう時は、困ったときのピティナ、ですねえ。

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そして、3曲目が、すでにご紹介した「ラプソディー・イン・ブルー」。この曲はそもそもが2台ピアノ用に想定されたものを、ピアノと管弦楽のための作品として完成されたもので、後にピアノ2台用に編曲されています。その経緯を考えますと、「アイ・ガット・リズム変奏曲」もまた、そもそもはピアノ2台用として想定されていたのではないかと個人的には考えています。そのうえで、2曲ともピアノ幻想曲としてトランスクリプションし、まずはそちらを先に発表したのではという気がします。2曲が発表された時代のアメリカ、あるいはヨーロッパ音楽界は、管弦楽優位の時代ですので、ジャズピアニストであったガーシュインクラシック音楽界で認められるためには、管弦楽作品があることが絶対だったわけですから。

しかし、ヤブロンスキー兄弟による2台ピアノで聴きますと、むしろそのほうが生命力を感じるのです!こう見ていくと、ガーシュインもまた、ジャズとはいえピアニストである以上、バッハなどのクラヴィーア曲の伝統にリスペクトしていた印象が強いですし、その解釈でヤブロンスキー兄弟も弾いている印象を持ちます。同じように、尊敬しているし楽しんでいますよ!と二人が会話しているようにも聴こえるのです。

そして最後は、ルトスワフスキの「パガニーニの主題による変奏曲」。主題は、パガニーニの24のカプリースの最終第24番の主題。リストもその主題でピアノ協奏曲と独奏曲「ラ・カンパネラ」を作曲しています。ラ・カンパネラと言えば、先日逝去したフジコ・ヘミングの代名詞とも言うべきコンサートピース。このルトスワフスキのをフジコさんが演奏したら、どんな演奏になっただろうと思いますと、残念でなりません・・・

作曲がルトスワフスキなので、普通に主題を引用しているはずもなく、不協和音が冒頭から鳴り響く作品ですが、しかしその不協和音すら個性だと宣言するかのような演奏するヤブロンスキー兄弟。確かな技術を、作品の魂を掬い取るかような演奏へと昇華させるのはさすがです。

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こう聞いてきますと、2台ピアノだからこそ味わえる、それぞれの演奏の妙だったり、作品の深さだったりが浮かび上がります。そのうえで楽しい!管弦楽だけが音楽ではないという、ピアニストの宣言だと言えば言い過ぎかもですが、しかし本当に音楽の魅力は管弦楽だけではないと思わされます。こういうアルバムに出会うことこそ、幸せな瞬間です。

 


聴いている音源
フランツ・リスト編曲(モーツァルト作曲)
ドン・ジョヴァンニの回想S.418
ジョージ・ガーシュウィン作曲
「アイ・ガッタ・リズム」による変奏曲
ラプソディ・イン・ブルー
ヴィトルド・ルトスワフスキ作曲
パガニーニの主題による変奏曲
ペーテル・ヤブロンスキー(第1ピアノ)
パトリック・ヤブロンスキー(第2ピアノ)

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。