かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

東京の図書館から~府中市立図書館~:カツァリスが弾くベートーヴェンの「運命」

東京の図書館から、今回は府中市立図書館のライブラリである、ベートーヴェン交響曲第5番「運命」のピアノ版を収録したアルバムをご紹介します。

これはナクソスから出ていたリストの全集ではなく、ピアニストはシプリアン・カツァリス。このブログでは最近はメンデルスゾーンのピアノ協奏曲を取り上げた時のピアニストです。かつては、ベートーヴェン交響曲のピアノ版と言えば、このカツァリスのものしかありませんでした。

私が高校生の時、ちょうど通学していたルートの、私鉄とJRとの乗換駅の、私鉄の改札わきに小さなレコード店がありました。そこに常にこのカツァリスのCDが置いてあったのを思い出します。その時は原作のほうしか興味がなくて、この編曲版には全く興味がなかったので買うことはなかったのですが、いまになってはこのカツァリスのものもあまり流通はしておらず、手に入りにくくなりました。おそらく、e-onkyoハイレゾを待つしかないような状況の中で、府中市立図書館で見つけたものです。即決で借りました。

では、全集を取り上げるのですね!いえ、とりあげません。いずれは揃えたいとは思っていますが、実は今回交響曲第5番だけ借りてきたのは、この第5番だけ、トランスクリプションの中で持っていなかったから、です。かつて、神奈川県立図書館でナクソスのリスト全集を借りてきていましたが、その時に第5番を収録しているCDがなく、またe-onkyoハイレゾでも取り揃えがなかったため、実は探し求めていたものだったのです。それがなんと、かつて店頭でよく見ていた、カツァリスで見つかろうとは!

しかも、カップリングはベートーヴェンの「エロイカ変奏曲」。私が高校生の時代ですから、CDもまだ74分までのものしかない時代です。第6番とのカップリングは難しかったのでしょう。そこで、エロイカ変奏曲を持ってきたというわけでしょう。このエロイカ変奏曲も、旋律は「プロメテウスの創造物」が元となっており、それゆえに交響曲第3番「英雄」第4楽章が来た!と思っても不思議はないでしょう。むしろ、「エロイカ変奏曲」とあるように、旋律そのものは実はその第4楽章から採用されているものです。

ja.wikipedia.org

ベートーヴェン自身は単に「創作主題による変奏曲」と名付けていますが、誰が聴いても交響曲第3番第4楽章の第1主題ですから、そう名付けたのも納得です。ベートーヴェンとしては、むしろこの変奏曲の主題を使って、交響曲を書いたと言ってもいいでしょう。作品番号が35、ですから(第3番「英雄」は作品55)。

ここに収録されている2曲は、実はいずれも交響曲である、と言ってもいいと思います。勿論、「エロイカ変奏曲」は純然たるピアノ曲ですし、「運命」は交響曲です。しかし、リストの編曲を聴きますと、「運命」も実際はベートーヴェンがピアノを使って作曲したものだったことを思い起こさせます。ピアノであっても、全体的に不自然さがない点に、それを感じます。勿論、本来弦楽器や管楽器という、ピアノとは構造が異なる楽器も、ピアノという「打弦楽器」で表現するわけですから、第3楽章最終部のトレモロなど、明らかに原曲とは異なる部分もありますが、それが全く不自然に感じないのです。まさにリストは、ベートーヴェンのオリジナリティをなるべく粉わない編曲を心掛けた、と言えます。

これは、以前も触れていますが、そもそもなぜリストがベートーヴェン交響曲をトランスクリプションしようとしたかと言えば、オーケストラ無しに、ピアノ1台で演奏可能なようにという意図を持っています。リストが生きた時代、オーケストラは今のようにある一定の都市なら存在するような時代ではありません。ごく限られた団体しか存在せず、そのアンサンブルやハーモニーを味わう機会は極端に少ない時代です。一方で、ピアノは急速に普及し始めていました。その点を鑑み、ピアノ1台で交響曲を演奏できるようにと考えたわけです。ベートーヴェン交響曲が素晴らしいとリストが尊敬していたからこそ、より多くの人にその魅力を伝えたいと思ったから、なのです。その時、リストの念頭にあったのは、そもそもベートーヴェンもピアノで作曲をしていたはずだと言う確信だったでしょう。なら、ベートーヴェンなら、どのような編曲をしただろうと考えて編曲しても不思議ではありません。

そして、ベートーヴェン自身もまた、自作のピアノ曲の旋律を、管弦楽作品へとトランスクリプションしたのが、「プロメテウスの創造物」(作品43)であり、また交響曲第3番(作品55)だった、と言えます。確かに、ベートーヴェンエロイカ変奏曲を「創作主題による変奏曲」としたのは当然でしょう。その時にはまだ、「プロメテウスの創造物」も交響曲第3番も成立してないんですから。

このアルバムにおいては、交響曲第5番は「交響曲をピアノ編曲したもの」であり、エロイカ変奏曲は「ピアノ作品を交響曲へ編曲したもの」であるわけです。つまり、「交響曲とピアノと編曲」というテーマに貫かれている、ということになります。これはニヤリとさせられますよね~。高校生の私は、その意味が分からずに、スルーしてしまったのでした。普通高校で学校でもクラシックの話題が出るような学校ではなく、高校野球の常連校であれば、仕方ないことでしたが。そんなことを教えてくれる友人もいるはずないので。

しかし、大人になって、瀬川玄氏にSNSで出会い、彼の「音楽道場」に通って、ピアノを愛する人たちに出会い触れたことで、私の視野は大きく開かれたのです。そして今になって「あの時、なけなしのお金を出してでも買っておけばよかった」と後悔しているのです。でも、交響曲第5番だけでも、ようやく私はめぐりあうことが出来ましたし、神奈川県立図書館で第7番と第8番、第5番以外はかりてくることが出来ました。ここにようやく、第5番がそろったことですべてそろったことになります。一方で、今回のカップリングを聴きますと、カツァリスでも揃えたいという欲求が沸き起こっています。果たして、それはかなうのでしょうか・・・あきらめずにはいたいですが、かなり時間はかかるものと思います。カツァリスなら有名だからすぐなんじゃないの?と慰めて下さるのはうれしいですが、いやや、クラシックのアルバムは廃盤になるのも早いので・・・

期待せずにいようとおもいます。いつか、神様がめぐり合わせてくれることでしょう。

 


聴いている音源
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲
交響曲第5番ハ短調作品67「運命」(ピアノ版、フランツ・リスト編曲)
エロイカの主題による変奏曲変ホ長調作品35
シプリアン・カツァリス(ピアノ)

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