かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

神奈川県立図書館所蔵CD:モーツァルト・リスペクト3

神奈川県立図書館所蔵CD、モーツァルト全集のモーツァルト・リスペクトの今回は第3回目です。モーツァルトよりも後の時代の作曲家の作品を取り上げます。

まず一人目は、ベートーヴェンです。彼は基本的にはハイドンの影響にある作曲家ですが、モーツァルトの作品からも様々なことを吸収するため、楽譜を研究しています。

モーツァルトの作品に対しては、ベートーヴェンは是是非非の立場を貫いていまして、評価したものは自作にフィードバックしています。そんな作品の一つが、ここに収録されている変奏曲です。

1曲目は魔笛の「恋を知る男は」を変奏曲にしたもの、2曲目はフィガロの結婚の「男爵が踊るなら」を変奏曲にしたものです。どれも、クラシックの伝統に即した作品となっていますが、作品番号ではなく、WoO番号となっています。

ベートーヴェンは同じような作品で作品番号がついているものにOp.66がありますが、それと比べると劣るためにWoOに入れたと考えるのが自然でしょう。とはいうものの、やはり完成度は高いものとなっています。私の印象としては、WoO40よりもWoO46のほう、つまり魔笛を主題にした方が出来はいいと思います。

ただ、こういった変奏曲は、ベートーヴェンの場合第九へとつながっていくので、粗末には出来ません。そもそも、第九の第4楽章は変奏曲であるということを想起する必要があります。以前から私は第九の成立にはモーツァルト研究が関係していると感じているのですが、モーツァルトが好んで使ったシンコペーションなど、伝統に即しながらそれに束縛されない自在な様式を、ベートーヴェンも志向していたのですから、それは当然かもしれません。

二人目は、ショパンです。え、いきなりなんで出て来るの?と思う方もいらっしゃると思いますが、彼は時代区分としては前期ロマン派の作曲家です。少なくともベートーヴェンとは一部同時代を生きているため、ベートーヴェンが作曲したての作品をライヴで聴いていても決しておかしくないのです。それはモーツァルトの作品がまだ先端の音楽として認識されて演奏されていた時代に生きていたことも意味します。

収録されている「「ドン・ジョバンニ」の「お手をどうぞ」の主題による変奏曲」は作品2でして、ショパン若き日の意欲作です。

ラ・チ・ダレム変奏曲
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%83%BB%E3%83%81%E3%83%BB%E3%83%80%E3%83%AC%E3%83%A0%E5%A4%89%E5%A5%8F%E6%9B%B2

別名を「ラ・チ・ダレム変奏曲」というのですが、作曲年は1827年。ちょうどベートーヴェンが亡くなった年に当たります。時代はようやく前期ロマン派とはいえ、音楽でもてはやされていたのは、やはり古典派だったのです。その古典派の人気曲、ドン・ジョバンニをロマンティックに編曲したのが、この作品です。しかも、変奏曲で・・・・・

私は、モーツァルトへのリスペクトと同時に、ベートーヴェンへのリスペクトがあって作曲されたものと感じています。なぜならば、ベートーヴェンもおなじ題材を使ってやはり変奏曲を書いているからです(オーボエ2、イングリッシュホルンのための「12の変奏曲」WoO28)。

ウィキにベートーヴェンのそれが出ているのは非常に重要です。この作品は、ピアノとオーケストラのためのものになっていますが、まるで所謂ピアノ協奏曲風の幻想曲のようです。しかも、転調はモーツァルトというよりはむしろベートーヴェンを意識したものになっています。そこから出発してショパンらしい華麗さも兼ね備えています。

三人目がチャイコフスキーです。彼はモーツァルト党とも言うべき人で有名で、モーツァルトのような作品が書きたいと思った人でもありました。「ロココ風の主題による変奏曲」作品33を残していることからも、彼が目指したのがロシアの音楽をベースにしてモーツァルトのような気品と華麗さをもった作品であることが明白なのです。

収録されているのは、作品61「モーツァルティアーナ」。そのものズバリ、モーツァルト風なのですが、いや、ふうではなくて、実はモーツァルトの曲を管弦楽曲に編曲したものです。

今日の音楽 と 音楽よもやま話
今日の音楽 11月6日 モーツァルティアーナ
http://bassist-juusan.cocolog-nifty.com/blog/2010/11/116-d5a0.html

それぞれ、原曲がどれなのか、「モーツァルト・コン・グラツィア」のサイトをご紹介しながら、あげておきましょう。

第1楽章
ピアノのための小ジーグ「アイネ・クライネ・ジーグ」 K.574
http://www.marimo.or.jp/~chezy/mozart/op5/k574.html

第2楽章
ピアノのためのメヌエット ニ長調 K.355 (576b)
http://www.marimo.or.jp/~chezy/mozart/op3/k355.html

第3楽章
K.618 モテット「アヴェ・ヴェルム・コルプス」
http://www.marimo.or.jp/~chezy/mozart/op6/k618.html

第4楽章
グルックの主題によるピアノのための10の変奏曲 ト長調 K.455
http://www.marimo.or.jp/~chezy/mozart/op4/k455.html

第3楽章は、実際はリストのピアノ編曲を管弦楽に編曲しているものですが、一応はモーツァルトピアノ曲管弦楽に編曲している作品です。第1楽章がジーグであることで、幾分唐突に始まる感はありますが、組曲なので敢えてそうしたのかもしれません。何となく古典派の交響曲あるいはディベルティメントを彷彿とさせる構成で、いかにチャイコフスキーモーツァルトに対してリスペクトしていたかの一端を見ることが出来ます。ただ、私としては作品33のほうがよくできているように思うのですが・・・・・

ただ、こういった作品は作曲当時はあまり評価されなかったということだけは、知っておいていいと思います。やはり、ロシアはロシアなのです・・・・・まあ、旧ソ連よりはましなんですけどね。ショスタコーヴィチはうらやましかったと思います。ショスタコは現代音楽というカテゴリー分けをしてしまいがちですが、私はむしろ新古典主義としてもいいくらいだと思っていますので・・・・・

最後に、ソルです。スペイン古典派のギター演奏家兼作曲家です。

フェルナンド・ソル
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%AB%E3%83%8A%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%BB%E3%82%BD%E3%83%AB

え、時代的には前期ロマン派なんじゃないの?と思われると思います。実は、ギターに関しては古典派は音楽史上前期ロマン派の時代に古典派が来るので、要注意なのです。これはギターの発展の歴史と関わってきます。ギターが現在のように6弦になったのは前期ロマン派の時代でして、ギター作品はそこから古典派が始まります。ですので、ギター作品は若干時代がずれるのです。ウィキの記述では「作風」の欄で言及されています。

そんな時代に生まれたソルは、様式的には古典派として扱われるべきだと思います。実際にそれを聴くことが出来るのが、収録されている「モーツァルトの主題による変奏曲作品9」です。主題にこれも魔笛を使っているのが特徴です。主題はベートーヴェンとは異なり、所謂「不思議な鈴の音」(モノスタトス一味の追ってから逃れるため、パパゲーノが鈴を鳴らして、その音色でモノスタトス一味が不思議を踊ってしまい、狂っている好きに逃げる場面)から採られています。ここに、ソルのアレンジャーとしても素晴らしい才能の発揮を私はみるのです。

ギターは、音量が小さいのが難点な楽器です。え、そんなことはないでしょ?と思う方はおそらくクラシックギターではなくて、エレキを想像していらっしゃると思います。クラシックギターの場合、どうしても爪弾く楽器であることから、音は小さくなるのが難点です。たとえば、チェンバロやフォルテ・ピアノを想い出してみてください。そして、私がバランスの点で疑念を呈した、モーツァルトのクラヴィーア協奏曲のピリオド演奏を想起してみてください。ギターでも同じことなのです。

この魔笛の主題は、私は宮前フィルハーモニー合唱団「飛翔」で混声合唱版で歌ったことのある経験から、とても繊細な主題であることを体で知っています。小さな鈴の音を現わすこの主題はそれゆえに、全体的にpで歌われますが、だからこそ、ギターに編曲するのにぴったりなのです。

それでも納得がいかない方のために、このウィキの説明をご紹介しましょう。

アランフエス協奏曲
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%95%E3%82%A8%E3%82%B9%E5%8D%94%E5%A5%8F%E6%9B%B2

この中で、注目はこの記述です。

「なお、クラシック・ギターの音量が小さいことからオーケストラが音のバランスに苦労する(オケの音量を下げたり、ギターにマイクロフォンを置くこともある)ことでも知られる(これはある程度ギター協奏曲全般についていえる)。」

ロドリーゴ新古典主義とも言える作曲家で、時代的にはむしろ現代音楽に属します。その作曲家の作品も同じ問題を抱えているのです。それはソルの時代でも一緒であるはずです。いや、彼の時代はオケがもっとコンパクトですから、より問題は少ないはずですが、それでもこの変奏曲の存在を考えますと、ソルがなぜ魔笛の「不思議な鈴の音」を選んだのかがよく分かります。しかも、この変奏曲はギター単独なのに、です。

ソルがいかに同時代の作曲家の作品に精通していたかがよく分かる作品だと思います。

こういった作品を収録しているからこそ、モーツァルト全集は侮れないんですね。そしてこのシリーズが、やがて私を更なる伝統へと誘っていくことになりますが、それはまた「大バッハの息子達」のシリーズをお待ちくださいませ。

そう、ヨハン・クリスティアンや、カール・フィリップ・エマニュエルなどの、大バッハの息子達の作品へと、私の興味はここから始まっていくのです。



聴いている音源
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲
魔笛」の「恋を知る男たちは」の主題による7つの変奏曲WoO.46
フィガロの結婚」の「伯爵様が躍るなら」の主題による12の変奏曲WoO.40
フレデリック・ショパン作曲
ドン・ジョバンニ」の「お手をどうぞ」の主題による変奏曲作品2
ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー作曲
管弦楽のための組曲第4番「モーツァルティアーナ」ト長調作品61
フェルナンド・ソル作曲
モーツァルトの主題による変奏曲作品9
モーリス・ジャンドロン(チェロ)
ジャン・フランセ(ピアノ)
ギドン・クレーメル(ヴァイオリン)
エレナ・バキシローヴァ(ピアノ)
クラウディオ・アラウ(ピアノ)
エリアフ・インバル指揮
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
アンタル・ドラティ指揮
ニュー・フィルハーモニア管弦楽団
ペペ・ロメロ(ギター)



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