かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

東京の図書館から~小金井市立図書~:チャイコフスキー国際音楽コンクール1990ガラ・コンサート

東京の図書館から、今回は小金井市立図書館のライブラリである、1990年のチャイコフスキー国際音楽コンクールのガラ・コンサートを収録したアルバムをご紹介します。

チャイコフスキー国際音楽コンクールは、4年おきに開催される国際音楽コンクールです。以前は三大国際音楽コンクールと呼ばれましたが、2022年のロシアによるウクライナ侵攻で、国際音楽コンクール連盟から排除されました。

ja.wikipedia.org

このコンクールは、主催国ロシアの芸術家がひしめき合うコンクールで、ロシア以外の演奏家が賞取るのはなかなか難しいコンクールでもあります。ウィキペディアの該当ページを見ても、多くはロシアや旧ソ連演奏家が賞を取っています。

その中で、1990年にヴァイオリン部門で当時歴史上最年少で優勝したのが、日本人である諏訪内晶子です。

ja.wikipedia.org

一方、その年のピアノ部門優勝が、ボリス・ベレゾフスキーです。

ja.wikipedia.org

二人の活動は、ロシアのウクライナ侵攻により、明暗が分かれる結果になっています。諏訪内さんはこれ以降、勉学に励みながら、さらに実力をつけ、現在も演奏活動にいそしんでいますが、ベレゾフスキーは、その発言からほぼ除名状態になっています。

このアルバムは、その二人の優勝を記念した、ガラ・コンサートが収録されています。チャイコフスキー国際音楽コンクールでは定番になっています。ウィキの説明では、オーケストラはロス・シンフォニーが担当したと記載がありますが、借りてきたCDにはモスクワ・フィルの記載があります。私も当時NHKBSで見た記憶がありますが、オーケストラについての詳しい説明はなかったように記憶しています。おそらくですが、コンクールの最中はアマチュアのロスト・フィルが担当し、最後のガラ・コンサートだけモスクワ・フィルが担当したのだろうと思います。モスクワ・フィルはそもそもこのコンクールにおいて担当オーケストラですが、アマチュアに変わった理由がストライキですので、そのストライキがガラ・コンサートまでに解消したということだと思います。

このアルバムを聴きますと、本当にもったいないことをロシアはしたものだなあと思います。諏訪内さんも特に歌いまくる豊潤なヴァイオリンですし、ベレゾフスキーも、激しくも正確かつ生命力のあるピアノです。ただ、個人的に言えば、演奏としては諏訪内さんのほうが好きですね。メリハリがしっかりついているため、作品が持つ生命力や魂が浮かび上がってきます。一方のベレゾフスキーは、どこか自分の技術をひけらかしているという印象がぬぐえません。

さらに、指揮者であるキタエンコのテンポは、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲でも、ピアノ協奏曲でも、私が好きなテンポではなく、正直言えばあまりいい演奏だと認識できません。それでも、やはり諏訪内さんのヴァイオリンには、どこか人間味を感じるのです。しかし、ベレゾフスキーのピアノには、人間味が感じられず、説得力のある演奏になっていません。

ですが、拍手は断然ベレゾフスキーの方に多いのが印象的。とはいえ、諏訪内さんの演奏でも、ヴァイオリン協奏曲の第1楽章が終った後に拍手が沸き起こっています。ある意味スーパーアウェイの中で、諏訪内さんは聴衆に説得力のある演奏をしてみせたと言えましょう。

それは、諏訪内さんの謙虚さからきているのかもしれません。実際、諏訪内さんはロシアによるウクライナ侵攻後も演奏活動を続けているわけで、ソ連あるいはロシア政府の庇護下で学び演奏活動をしてきたベレゾフスキーは、ちょっとした言動で排除されてしまったのですから。この差を説明するには、単に戦争における相対する側ということでは説明しきれず、やはり二人の人間性ということになるでしょう。特に、諏訪内さんは女性ということで、どちらかと言えば虐げられてきた人間であり、ベレゾフスキーは男性かつ政府により庇護を受けてきた(特に旧ソ連では、体制に歯向かうことは死すら意味する)ので、その言動に配慮が足らないのは当然だとも言えるでしょう。その差が、その後の活動の明暗を分けたと言えるのではないでしょうか。

そしてその差が、私自身は演奏に出ているような気がしています。チャイコフスキーは確かにロシアの作曲家ですが、一人の人間であり、芸術家です。その人間が紡ぎ出したものを、どれだけ楽譜から掬い取り、人間の「歌」として表現しようとしたのか?というところは、批判の対象であろうと思います。諏訪内さんはその表現にすぐれ、ベレゾフスキーは単に政府の威光で第1位になったに過ぎなかったのでは?という気がしています。勿論、ベレゾフスキーのピアノがダメというわけではないんですが、どこかただ弾きましたという印象が強いのです。特にテンポが速いパッセージで顕著で、そこが技術を単にひけらかしているだけのように聴こえてしまうんです。

キタエンコと言えば、激しい中でも人間味があるタクトを振る人ですが、やはり自国のピアニストということで、どこか変に素晴らしく見せようという印象も受けます。一方で諏訪内さんに対しては、これでいいでしょ?みたいな演奏が、テンポからも見えてしまいます。

その中でも、見事なヴァイオリンを聴かせた諏訪内さんは、やはりするべくして優勝したのだと、この演奏を聴いて感じます。その意味では、今一度、この演奏は評価するべき演奏だと思います。チャイコフスキー国際音楽コンクールだから聴かないのではなく、サッカーでスーパーアウェイであっても応援に行くサポーターと同じく、私達クラシックファンも、いつまでも語り継ぐべき演奏であると思います。

 


聴いている音源
チャイコフスキー国際コンクール1990ガラ・コンサート・ライヴ
ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー作曲
ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品35
ピアノ協奏曲第1番変ロ長調作品23
諏訪内晶子(ヴァイオリン)
ボリス・ベレゾフスキー(ピアノ)
ドミトリ・キタエンコ指揮
モスクワ・フィルハーモニー管弦楽団

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。