東京の図書館から、今回から3回シリーズで、府中市立図書館のライブラリである、メシアンの「鳥のカタログ」を収録したアルバムをご紹介します。第1回目の今回はその1枚目です。
メシアンの「鳥のカタログ」は、1956~58年に作曲された、ピアノ独奏曲です。この時期、約10年に渡りメシアンは鳥をテーマにした曲を集中的に発表しています。
メシアンと言えば、フランスを代表する20世紀の音楽家で、特に「トゥランガリーラ交響曲」で有名です。この作品もいわば、20世紀音楽で流行った不協和音を多用した作品で、鳥あるいは鳥がいる風景を描いたものです。
なので、必ずしも鳥だけを表現しているとは言えないと言われますが、よくよく聞きますと、鳥の鳴き声のようなパッセージが随所に見られます。
この「鳥のカタログ」は7巻存在し、第4巻を中心に鏡像のようになっています。本来はそのように収録できればいいと思いますが、何せ全曲演奏すれば2時間を超える大曲です。そうなると、いくつかに分けざるを得ず、特にCDで収録するとその収録制限容量に左右されますから、どうしても鏡像のようにはいかないのが現実です。そのため、このアルバムは3つに分けられています。
今回取り上げる第1集には、第1巻から第3巻までが収録されています。どの曲においても、基本的にはその鳥の鳴き声がパッセージとして取り入れられているため、メシアンが生物や自然と言ったものに敬意を持っていたことは明白です。「トゥランガリーラ交響曲」で色彩を音楽で表現したのと同様に、「鳥のカタログ」では、鳥の鳴き声を一つのモティーフにして、風景を描いていると言っていいのではないでしょうか。
この第1集で素晴らしいのは、ピアノでおのおのの鳥の鳴き声を表現しているという点で、特に第3巻の「モリフクロウ」です。フクロウの鳴き声は、よく知られているのは「ホウホウ」というものですが、これを打鍵するピアノで、繊細に描いてみせているんです!それ以外でも、打鍵するピアノで素晴らしく歌わせていると感じますが、「モリフクロウ」は別格だと思います。
ピアノは世界を一台で表現するとはよく言われますが、その実例として、この「モリフクロウ」は最適であると言っていいでしょう。単に時代的にピアノの性能が上がったと言うだけではなく、その性能を表現に生かす手法の進歩を感じます。そしてそれは、実はベートーヴェン以降の作曲家たちの延長線上でもあります。
以前であれば、不協和音がある作品を私はあまり好まなかったですし、拒否すらしてきましたが、最近はその不協和音の中に味わいがあり、人間の主張が詰まっていると感じるように変化しました。様式や技術の進歩に目を向けることで、むしろ古いものも新しいものも受け入れられる自分がいます。それは単に新しいものが素晴らしく古いものは捨てるべきという思想からではなく、新しいものがどのような歴史の中で生まれてきたのかを知ることにより可能になったと言えます。
メシアンの芸術の根幹は何か?その探求が、私に「鳥のカタログ」を手に取らせたと言えます。そして、私自身はメシアンの芸術を単に色彩感覚だけで捉えるべきではないと主張します。それは、少なくとも「鳥のカタログ」では、色彩という表現にとどまっていないからです。そうしないと、鳥の鳴き声をパッセージとして使う理由が説明できないのです。色彩を表現した作曲家という定義は、メシアンに対しては限定的に使うべきだと思います。そうではなく、クラシック音楽において、表現の幅を色彩までに拡大した作曲家がメシアンであると定義づけるほうが適切でしょう。いきなり、メシアンという作曲家がいかなるものかの定義を覆してくれるのは嬉しいですね!
その貢献をしているのは、演奏するアナトール・ウゴルスキ。生まれは旧ソ連なのですが、キャリアの中で前衛音楽に傾倒したことで迫害を受け、西欧に亡命したというピアニストでもあります。
ウゴルスキの前衛音楽への興味というものが、演奏に作品が持つ生命の表現につながっているように聴こえるのです。迫害の中で自らの信念を曲げなかったピアニストだからこそ表現できる境地・・・
都市ではなく地方にいたからこそ感じ取れる、自然の息吹やその「声」が、ウゴルスキの演奏には満ちているように聴こえます。故に、メシアンが作品で表現したいものが、演奏で自然と浮かび上がるのではないでしょうか。単に力強い打鍵だけで自らの演奏を誇示するようなものではなく、自らの技術を表現に全身全霊で持って使い、聴衆に届けることに資力しているように聴こえるのです。この点でも、ウゴルスキは称賛に値するピアニストであると言っていいでしょう。
昨年8月に永眠した、ウゴルスキ。このシリーズにおいて、じっくりその演奏を味わいたいと思います。
聴いている音源
オリヴィエ・メシアン作曲
鳥のカタログ
第1番:キバシガラス
第2番:キガシラコウライウグイス
第3番:イソヒヨドリ
第4番:カオグロヒタキ
第5番:モリフクロウ
第6番:モリヒバリ
アナトール・ウゴルスキ―(ピアノ)
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