かんちゃん 音楽のある日常

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コンサート雑感:栄フィルハーモニー交響楽団第69回定期演奏会を聴いて

コンサート雑感、今回は令和6(2024)年4月7日に聴きに行きました、栄フィルハーモニー交響楽団の第69回定期演奏会のレビューです。

フィルハーモニー交響楽団さんは、1986年に横浜市栄区に誕生したアマチュアオーケストラです。1986年というのは、政令指定都市である横浜市において、戸塚区から分区して栄区が出来た年であり、その分区を記念して設立されたようです。

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マチュアオーケストラのレベルは上がっているとはいえ、すべてのアマチュアオーケストラがレベルが高いかと言えばそうでもありません。なので、初めての団体に関しては、ある意味ドキドキとハラハラといった感情が私の中で対立しながら、足を運ぶのが普通ですし、それゆえに聴きに行かないと判断する団体も残念ながらあります。何しろ、アマチュアオーケストラは社会人が中心ですので、大抵土日に集中するためで、どれかを選択せざるを得ないからです。今回も実は、この栄フィルハーモニー交響楽団さんではなく、初めはシベリウスを中心に演奏するアイノラ交響楽団さんを予定していました。指揮者が私が初めてベートーヴェンの第九を歌った時に合唱指導のお一人だった新田ユリさんが音楽監督だからです。ですが、3月9日に聴きに行きました、東京楽友協会交響楽団さんの会場であるミューザ川崎で、栄フィルハーモニー交響楽団さんのチラシを手に取って、固まってしまいました・・・ソリストの名前を見て。

そのソリストとは、某SNSNHK交響楽団の「再雇用王子様」として大人気を博している、チェリストの藤村俊介氏だったからです。以前、このブログでもオーケストラWさんの演奏会を取り上げた時にも登場しているソリストです。

ykanchan.hatenablog.com

当時藤村氏はNHK交響楽団の首席チェリストでしたが、現在では定年退職され、再雇用の身となって現在でもNHK交響楽団のステージに立たれています。再雇用なので毎回ではないようですが、それでも舞台に立つと言うのは、素晴らしいことだと思います。まあ、若手が育ってないとも言えるかもしれませんが・・・そこは深く突っ込まないでおきましょう。

その藤村氏がソリストとして、栄フィルハーモニー交響楽団で登場する・・・さて、どっちを選ぶ?と悩みまくったうえ、再雇用王子様を選びました。えーっと!新田先生、この埋め合わせは必ずします、高津市民オーケストラを聴きに行きます(と宣言したからには行かないと!)

さて、その栄フィルハーモニー交響楽団さん。私は初めて聴くオーケストラです。当然レベルもわかりません。私も横浜市民でなくなってすでに10年以上経っており、横浜のアマチュアオーケストラの事情に疎いのでさらに不安な部分もあったのですが、やはり「再雇用王子様」が登場することが最後まで引っかかったための決断でした。オーケストラWさんで聞いた素晴らしい演奏から4年経ちますが、やはりあの時の歌うチェロが、私の中で強く印象に残っており、その演奏に釣り合うだけのオーケストラなのではないかという、どこか期待する部分もあったのです。

今回のプログラムは以下の通り。

ヴェルディ オペラ「ナブッコ」序曲
エルガー チェロ協奏曲
ドヴォルザーク 交響曲第8番

1プロのヴェルディの冒頭を聴いた途端、判断が間違っていなかったことを確信しました。やせた音が弦楽器にない・・・市民オーケストラだと平均年齢が比較的高いこともあるので、なかなかやせた音を少なくするというのは困難な部分だと思いますが、それでもほとんど聞こえてきません。ホールは横浜みなとみらいホール。とはいえ、やせた音があれば目立つのですが、ほとんど聞こえてきません。アマチュアらしいと思うのは金管楽器がちょっとだけ不安定。ですがそれは、このオーケストラのチャレンジ精神の結果でもあるので私はマイナスには思いませんでした。アマチュアが最も不得手とする、ppとffの差がはっきりと表現されていたからです。

これを金管でやるのは相当大変なことなんです。これは合唱でもそうなのですが、息を自分の体全体でコントロールしないといけないからなんです。それを、筋肉量が落ちて来る中年以降でやるのは相当鍛えないと難しいのです。私もアマチュア合唱団時代に30代で本番を想定して毎日二駅帰宅時に歩いていました・・・そうしないと、腹筋や背筋の筋肉が衰えるからです。さらに言えば、本番中に立っているだけの脚力もないと合唱は歌えません。

楽器であっても、少なくとも肺活量を維持するために、金管楽器においては腹筋と背筋はきたえておかないと息がコントロールできないのでどうしても不安定になり、それが目立つのが強弱をつけるときなんです。特にpp。この時こそ、筋力が物を言うのです。

そのppにおいて、金管楽器がどうしても不安定になります。これは比較的平均年齢が高いが故だと思います。それでも、しっかり表情を付けようとする意識は見られましたし、オーケストラ全体がしっかりその差を徹底していたことが、作品の内面を描き出すのに成功していたと思います。特に、弦楽器がこれまた歌う!聴いていてつい酔いますねえ。

2プロは、エルガーのチェロ協奏曲。藤村氏の登場で一気に会場が沸き立ちます。そういえば、今回は前方が比較的席が埋まっています。みなとみらいホールでは珍しい現象です。それはひとえに藤村氏目当てだと言っていいでしょう。私も某SNSで「砂被り席(つまり、1階席を含め舞台を囲む席)でぜひ!」と言われ「では砂被り席で!」と応えたのですが、当日すでにそこは満席でした・・・泣く泣く、2階席に座りました・・

でも、藤村氏は見える位置に陣取りましたが、いやあ、毎度歌うチェロです。しかも、今回はエルガーのチェロ協奏曲の成立背景を踏まえたせいなのか、哀しみというか、むせび泣くかのような、弱弱しかったり、叫んだりというような表現がついており、やはり元NHK交響楽団の首席チェリストだなあと思います。そのチェロとそん色ないオーケストラなんです。藤村氏を迎えて気合が入ったとプログラムに記載がありましたが、まさに弦楽器は気合もそうですが、藤村氏を迎えて喜びを爆発させている印象がありました。ソリストアンコールであるエルガーの「愛の挨拶」ではさらに本当に楽しそうに演奏するのです!

その印象を特に強く感じたのが、後半のドヴォルザーク交響曲第8番です。テンポはややゆったり目なのに、そのテンポが全く気になりません。歌うオーケストラにより、説得力のある演奏になっており、作品を味わい、喜びに満ちた演奏に私自身酔いしれました。

ドヴォルザークは鉄道ファンだったとしても有名ですが、実はコンサートがあった4月7日の前日に鉄道業界では3つのトピックがありました。近江鉄道の上下分離の開始、高架化のため3年間不通が続いた南海高師浜(たかしのはま)線の復活、そしてJR西日本の特急「やくも」の新型車両初運用と、鉄道業界にとっては明るい話題が集中しました。私も鉄道ファンなのでその話題を追いかけていますが、その喜びを、まるでオーケストラの団員も共有しているかのように弾いているのです!あのう、もしかすると、この後やくもに乗りに行く団員の方とかいらっしゃるのでしょうか・・・私自身、ドヴォルザークが今の日本にいたならば、やくもの273系を乗りに行ったのでは?という気がします。

www.jr-odekake.net

特に、伯備線の風光明媚な山中を走る特急「やくも」には、ドヴォルザーク交響曲第8番はぴったりだなあなどと思ったりします。かつてはD51三重連で峠を越えたのが、今や制御付き自然振り子車両で抜けていくのです。車内チャイムはofficial髭ダンディズムですが(彼らが鳥取県出身であるため)・・・

どこか、栄フィルハーモニー交響楽団の団員の方たちも、鉄道の明るいニュースが続いていることに喜びを感じてドヴォルザークに共感しているかのように聴こえるんです。リズム的には鉄道風味がなくむしろ風景を切り取るような解釈なのですが、そこに確実に満ちる喜びが背景にあるようにどうしても聴こえるのです。作品の魂に共感し、演奏者もその魂に共感する・・・ある意味、市民オーケストラだからこそなのかもしれません。ここに仲間がいた!と思わせていただきました。実はこのドヴォルザーク交響曲第8番では、ソリストのはずだった藤村氏がしれっとチェロで参加しているではありませんか!その喜びもあったのだろうと思います。特に藤村氏が楽しそうに体をゆすって演奏していることで、弦楽器パートでも体を使って楽しく弾いているのが印象的でした。それが、ドヴォルザークが鉄道のある風景を見た時に感じた喜びとリンクしたのかもしれません。喜びの相対化と言うのでしょうか、自分たちは必ずしも鉄道ファンではないが、鉄道ファンが鉄道を見た時同様に、自分たちも藤村氏と一緒に演奏できる喜びを感じて、ああ、同じなんだとして演奏しているかのようです。その喜びが、鉄道のトピックで喜びを感じている私の魂と共感したのかなと思っています。素晴らしい、喜びに満ちた演奏に、本当に感謝します!

 

聴いて来たコンサート
フィルハーモニー交響楽団第69回定期演奏会
ジュゼッペ・ヴェルディ作曲
オペラ「ナブッコ」序曲
エドワード・エルガー作曲
チェロ協奏曲ホ短調作品86
藍の挨拶 作品12(ソリストアンコール)
アントニン・ドヴォルザーク作曲
交響曲第8番ト長調作品88 B.163
スラブ舞曲作品46-3(オーケストラアンコール)
藤村俊介(チェロ)
千原友子(ゲスト・コンサートミストレス
稲垣雅之指揮
フィルハーモニー交響楽団

令和6(2024)年4月7日、神奈川、横浜、横浜みなとみらいホール 大ホール

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。