かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

コンサート雑感:ムシカ・ポエティカ2023「レクイエム集い」~魂の慰めのために~を聴いて

コンサート雑感、今回は令和5(2023)年11月6日に聴きに行きました、ムシカ・ポエティカ2023「レクイエムの集い」~魂の慰めのために~のレビューです。

ムシカ・ポエティカは、主にハインリッヒ・シュッツの合唱曲を研究し表現するハインリッヒ・シュッツ合唱団・東京を母体とする音楽集団です。

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シュッツ合唱団の他にいくつかの団体が存在しており、今回はもう一つの団体、メンデルスゾーン・コーアも参加しています。メンデルスゾーン・コーアはハインリッヒ・シュッツ合唱団・東京と同じく、メンデルスゾーンの作品を研究し発表する団体。今回はそのうち、ハインリッヒ・シュッツ合唱団・東京のメンバーの方からお誘いを受け、チケットを提供していただきました。この場を借りて御礼申し上げます。

私がこのお誘いを受けたのは、プログラムがメンデルスゾーンの「エリア」だったからです。この時期に「エリア」とは!しかも、ロケーションは府中の森芸術劇場ウィーン・ホール。私も幾度か足を運んでいるホールですし、またこのホールがどのような場所に立っているかも、この演奏会に足を運んだ理由です。かつてホールのあった場所は、旧日本軍の施設があり、そのため戦後米軍に接収されます。今でもそのあとが残っており、私はかつてその敷地のすぐわきで仕事をしておりました。返還後、一部がそれぞれ府中の森公園府中の森芸術劇場)と、航空自衛隊府中基地、そして防衛省の住宅になりました。調布飛行場はかつては陸軍航空隊の基地でしたし、付近には航空機を空襲から隠ぺいする掩体壕もいくつか残されています。そんな場所で、今イスラエルハマスの間で戦闘が起こっているというタイミングで、メンデルスゾーンの「エリア」。これはぜひとも行きたい!と思い団員の方に問い合わせましたら、ご招待しますとのこと。本当にありがたいことです。

エリアとは、旧約聖書に登場する預言者「エリア」を題材にしたオラトリオです。かつて、私もエントリを上げています。

ykanchan.hatenablog.com

このエントリで挙げた演奏は、NHK交響楽団第1000回定期公演。そして今年、NHK交響楽団の定期公演は2000回を迎えます。その節目の年に、かつてNHK交響楽団が取り上げた「エリア」を、民間団体が演奏するとは!その点でも、聴きに行きたいと思ったのでした。

エリアを担当するバスは、指揮者も務める淡野太郎氏。まるでペーター・シュライアー。エリアは歌い出しが預言者エリアのアリアですが、ちょっと緊張気味だったかな?と感じましたが、曲が進むにつれてヴォルテージが上がっていき、雄弁になります。それはそれで、人間の繊細な内面を表現したもののように聴こえました。NHK交響楽団の、サヴァリッシュ指揮とはことなり、力だけで押すことはありません。勿論、そのNHK交響楽団の演奏は素晴らしいですし、今でも私の一押しです。ですが今回の演奏も本当に素晴らしく、登場人物一人一人の感情が表現され、ドラマティックです。ウィーン・ホールにはパイプオルガンが設置され一段高くなっていますが、その高低差をうまく利用し、時にはソリストが上りアリアを歌ったりするのがドラマティックさに磨きをかけていました。今回はパイプオルガンも利用されており、特に第2部の「山に向かって目を上げ」は本当に美しい!エリアが扇動に惑わされて手のひらを返し自らの命を狙うようになった群衆から逃れ、荒れ野をさまよう中で天使が歌うその時に流れるパイプオルガン!まさに音が天井から降って、私を包み込みます。ともすれば苦しみの中にいる私も、まだまだ生きるのだ!と思わせてくれます。最後美しく終わり、その残響をすべての聴衆が味わい、終わったところで万来の拍手だったことも、演奏のすばらしさをものがたるものです。なんと喜びに満ちていることか!レクイエムと銘打たれ、プログラムには今年亡くなった方(その中には、作曲家西村朗氏も含まれています)の追悼もあるにも関わらず、です。

エリアの物語の根底には、ユダヤ教とバアル信仰との争いがありますので、ここでそれを語りますと一つエントリが出来てしまいますので割愛します。是非とも皆さんで調べていただきたいのですが、とても乱暴にまとめると、宗教の争いです。それは、現在起こっているイスラエルハマスの争いととてもよく似ています。ですが、ユダヤ教イスラム教もともに一神教なんですよね。神道のように八百万の神ではないんです。それなのに争うというのは、どことなく悲しいです。ですが、こういった聖書に出て来る逸話が背景にあるのだということを知っておくのは大切だと思います。そして、エリアを一人の人間と見た時に、どの宗教であっても世俗と対峙する人はいますし、宗教家もいます。日本だと日蓮親鸞がそうですね。決して他の国や宗教のことではない、普遍的な事象を扱った作品なのだと気付かせてくれます。ということは、現在イスラエルハマスの間で起きている戦闘は、いつこの日本や周辺地域で起きても不思議はない、ということです。どんな国や地域で起こりえることだということです。戦争という形ではないかもしれませんが・・・

ムシカ・ポエティカさんがなぜ府中の森芸術劇場でやろうと決めたのかはわかりません。当日は大ホールであるどりーむホールではロックンローラー布袋寅泰がライヴをしていましたが、ある意味当日二人の「ロックンローラー」の作品が演奏されていた、ということになります。メンデルスゾーンロックンローラーと言わずしてなんでしょうか?ロマン派の時代にバッハやヘンデルの様式とも見まごう作品を、完全にロマン派の音楽で彩り、人間の性、宗教の闇を突き付けたのですから。そして当時、神聖化されつつあったベートーヴェンを超えて見せました。その作品を、ウクライナとロシアの戦争がいまだ継続し、イスラエルハマスの間で戦闘が起こっているというタイミングで、かつて陸軍の調布飛行場(特攻隊員もいたことでしょう)に関連する施設があった府中の森芸術劇場で行う・・・・・偶然とは思えないのです。このホールでやりたかったという想いが伝わってくるんです。そして、コンサートのテーマ「「レクイエム集い」~魂の慰めのために」という言葉が重なります。お互いを敵視せずに、しかし自らが信じるものを一念に信じる・・・・・これがどれほど難しいことなのか。境界線を引くことが、人間にとってどれだけ難しくしかし大切なことなのか。改めて考えさせられる演奏でした。この演奏で、ムシカ・ポエティカ傘下のハインリッヒ・シュッツ合唱団・東京の演奏も聞きたくなりました。確かに私はキリスト教徒ではありませんが、しかし他の宗教の音楽が自らを省みさせてくれるのであれば、それはぜひとも聴きに行きたいと想わせてくれました。

 


聴いてきたコンサート
ムシカ・ポエティカ2023「レクイエム集い」~魂の慰めのために~
フェリックス・メンデルスゾーン・バルトルディ作曲
オラトリオ「エリア」作品70
淡野桃子(ソプラノ、アリア)
笠恵里花(ソプラノ、寡婦
今村ゆかり(ソプラノ、少年)
谷地畝晶子(アルト、アリオーソ・王女イゼベル)
柴田圭子(アルト、天使)
依田卓(アルト)
石川洋人(テノール、宮廷長オバドヤ)
沼田臣矢(テノール、アハブ王・アリア)
青木海斗(バス)
小籐洋平(バス)
メンデルスゾーン・コーア
ハインリッヒ・シュッツ合唱団・東京
淡野太郎指揮、バリトン(エリア)
ユビキタス・バッハ

令和5(2023)年11月6日、東京府中、府中の森芸術劇場ウィーン・ホール

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