かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

今月のお買いもの:サヴァリッシュ/N響の「エリア」

今月のお買いもの、7月に購入したものをご紹介しています。今回はメンデルスゾーンのオラトリオ「エリア」です。サヴァリッシュ指揮、NHK交響楽団他の演奏です。ディスクユニオン新宿クラシック館で買い求めました。ですのでもちろん中古品です。

メンデルスゾーンと言えば、軽い曲を書く人というイメージが日本では特に強いかと思うのですが、合唱好きのひとたちの間では、バッハ復活の立役者として知られ、「マタイ」の復活演奏に資力したことで知られています。

フェリックス・メンデルスゾーン
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%83%87%E3%83%AB%E3%82%B9%E3%82%BE%E3%83%BC%E3%83%B3

ウィキの説明を読んで、なーんだ、いいとこのぼっちゃんね、だから音楽も軽いのよというのは、私は早計だと思います。実際、私もいいとこのぼっちゃんだな〜とは思っていましたけれど、彼はそんな家柄にも関わらず、精神的にはとてもタフな人ですし、信条で苦労もしています。それは、彼の家がもともとユダヤ教徒であったという点があります。

メンデルスゾーンの父も、祖父もユダヤであるということで明らかな差別を受けていました。それを見越して、メンデルスゾーンの父は彼を7歳でプロテスタントに改宗させます。そして父親も彼が改宗して6年後の1822年に妻とともに回収するのです。そしてこれが、エリアを理解するのにとても重要な一つのキーワードになります。ウィキの該当部分を引用しておきましょう。

「1809年2月3日、ハンブルクにて富裕な銀行家アブラハムメンデルスゾーンとレア・ザロモンの息子として生まれる。祖父モーゼス・メンデルスゾーンは、カントにも影響を残した有名なユダヤ人の哲学者であった。フェリックスの家族は、アブラハムの代でプロテスタントのルーテル派に改宗する。父アブラハムはまず子供達を1816年に改宗させ(この時、フェリックスは7歳)、自らと妻レアは6年後の1822年に改宗した。父はこれを記念して「メンデルスゾーン・バルトルディ」と改姓したが、フェリックスは「バルトルディ」を使いたがらなかったという。
メンデルスゾーン家は1812年以降ベルリンに居を構えるが、フェリックスも含めてユダヤ人としていわれなき迫害を受けることが多く、それは改宗後も大して変わらなかった。にもかかわらず、フェリックスの業績・影響力は極めて強く、終生ドイツ音楽界の重鎮として君臨し続けた。」

これを念頭に置いて、ウィキの今度はエリアの説明文を読んでみましょう。

エリヤ (メンデルスゾーン)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83%AA%E3%83%A4_(%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%83%87%E3%83%AB%E3%82%B9%E3%82%BE%E3%83%BC%E3%83%B3)

メンデルスゾーンはオラトリオを二つ書いています。一つは「聖パウロ」、そしてもうひとつがこの「エリア」です。もうひとつ「キリスト」を作曲しようとしていましたが、それはメンデルスゾーンの死によってかないませんでした。

さて、この二つのオラトリオはメンデルスゾーンの出自と関係があります。パウロ新約聖書で出て来る、つまりキリスト教において重要な聖人ですが、エリアは旧約聖書、つまりユダヤ教預言者なのです。エリアは「ヨハネ受難曲」でもキリストの復活のシーンでもでてくる人で、実は新約聖書でイエス預言者とされることと深い関係があります。

ここに、なぜメンデルスゾーンがバッハ再興に関係したのかの一面が見えてくるのです。さらに、バッハをきっかけにしてバロックの作曲家全般に興味を示すようになり、とくにヘンデルのオラトリオに傾倒していくこととなります。「エリア」は音楽的にはバッハとヘンデルのふたりに影響を受けた作品です。

ですから、様式的にはバロックのオラトリオ同様、レチタティーヴォがあって、アリアや合唱が来るというものになっていますが(ついでに、エリアを担当するのがバスというのも)、その音楽は完全に前期ロマン派です。特に、レチタティーヴォとアリアは音楽的にはあまり差がありません。

これはどこかで見た形式だと思いませんか?そうです、ベートーヴェンの「オリーヴ山上のキリスト」と一緒なのです。

マイ・コレクション:かんらん山上のキリスト
http://yaplog.jp/yk6974/archive/950

オリーヴ山上のキリスト
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%B4%E5%B1%B1%E4%B8%8A%E3%81%AE%E3%82%AD%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%88

メンデルスゾーンは、ベートーヴェンが「オリーヴ山上のキリスト」で乗り越えられなかった、「新しいキリストの声部を新しい声楽様式で処理する」という点に成功しています。まるでオペラのようなこの作品は、エリアがイスラエルの民に苦難を予言し、それを解決して、その後裏切られて荒野で命を絶ち天へと昇って行くまでを劇的にえがくことに成功しました。特に、冒頭まずエリアの予言のレチタティーヴォで始まり、その後序曲が来てイスラエルの民が神に苦難を除くよう祈る場面の合唱まで全く連続で描くというのは、映画のような効果を持っています。

このCDは、N響定期演奏会1000回記念の演奏で、ウィキにも触れられているものですが、このCDを買った理由は、もともとこの演奏がなされた当時、BSの放送をVHSに録画してあったことが理由です。今でもVHSは動いてくれますが、そろそろ怪しくなってきているのです。ですので、記憶にある限り、録画してあるものはなるべくCDやDVDで購入しておこうと思い、それが購入の決め手でした。

この演奏を聴いた当時、私はこの作品が意味するものがあまり理解できませんでした。ただ、メンデルスゾーンは決して軽い作品を書く作曲者ではなく、これだけ重いテーマの声楽曲も書く作曲家なのだということを知るきっかけになっただけでした。しかし今、CDを購入して、ブックレットの解説、或いは指揮者サヴァリッシュの言葉を読んでみますと、もっと深い意味がこの作品には込められているという認識に至りました。

メンデルスゾーンのイメージを日本人のどれほどが「保守」だと思っているでしょうか?左翼だと勘違いしていないでしょうか。メンデルスゾーンは「エリア」ではっきりと(いや、そもそもその前の「聖パウロ」ですでになんですが)、安易に流行、或いは新しいものに乗って行かないということを宣言しているのです。ブックレットにはそのあたりのメンデルスゾーンの言葉も載っていますので、この曲は出来るだけCDやDVDを買うことをお奨めします。

特に、前述しましたがエリア、つまりプロテスタントでいえばイエスに当たる存在にバスを当てることや、ヘンデルの楽曲に範をとるという、モーツァルトも「メサイア」の編曲でやったようなことをするというのは、明らかにバロック以来の伝統を大切にするという姿勢以外のなにものでもありません。これを保守と言わずして、なんというのでしょうか。メンデルスゾーンがマタイ復活演奏の時に「プロテスタントの音楽を復興したのが、他ならぬ自分のようなユダヤ人だとはね」という言葉は、メンデルスゾーンの心境を一言で表しているように思いますし、それを知りませんとメンデルスゾーンの音楽全体の理解を誤るような気がしてなりません。

N響の演奏は神がかっています。どんなに速いパッセージでもアンサンブルが崩壊することはなく、気合入りまくりです。合唱団は少し力任せのように聴こえますが、しかしだからといってアンサンブルは決して雑ではなく、むしろとても美しいものに仕上がっています。特に、合唱団は群衆という役割を負っていますが、第1部でのエリアがイスラエルの民を救う前と後、第2部で今度は扇動にのってエリアを裏切るところ、そしてエリアが荒野にてイスラエルの民を救うべく自己犠牲によって天に上った後の手のひらを返すような群衆の様子を、絶妙の表現力で物語っています。これは息をのみます。

そんな演奏からは、現代日本の状況がまるで鏡像のように浮かび上がってくるのは不思議です。サヴァリッシュがエリアを選定したのは、もしかするとそんな理由だっただろうかとも、思ってしまいます。

3.11後にこの演奏に再び出会えたのは、もしかすると天啓なのかもしれないと思いつつ、聴いています。



聴いているCD
フェリックス・メンデルスゾーン・バルトルディ作曲
オラトリオ「エリア」全曲
ルチア・ポップ、曽我榮子、五十嵐郁子(ソプラノ)
アリシア・ナーフェ、荒道子(アルト)
ペーター・ザイフェルト、小林一男(テノール
ベルント・ヴァイクル高橋啓三、福島明也(バス)
国立音楽大学
ヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮
NHK交響楽団
(ソニー・クラシカル SRCR 2738・2739)



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