かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

東京の図書館から~小金井市立図書館~:ベートーヴェンとモーツァルトの「ハルモ二―・ムジーク」

東京の図書館から、今回は小金井市立図書館のライブラリである、ベートーヴェンモーツァルトの両者が作曲した、ハルモ二―音楽を収録したアルバムを取り上げます。

ハルモ二―音楽って何?って思いますよね。ハルモニ?在日か?と勘違いするのは待ってください。確かに、「ハルモニ―」と検索しますと在日の記事などがヒットするので勘違いするのも当然かもしれませんが、「ハルモニ― 音楽」で再検索してみてください。以下のウィキペディアがヒットするはずです。

ja.wikipedia.org

ハルモニ―ムジークとは、日本語に訳しますと、実は吹奏楽のことなんです。管楽アンサンブルのことを、ハルモニ―といい、そのための音楽と言うことです。18世紀にヨーゼフ2世によって宮廷アンサンブルが作られてから特に多く作られたジャンルで、ナポレオン率いるフランス軍のウィーン侵攻によって貴族に音楽を楽しむ余裕が失われて急速に作られなくなりました。まさに、宮廷のための音楽だと言えるでしょう。とはいえ、アンサンブルであることから、編成としては小さいものです。そのため、基本的にはセレナーデとほとんど意味は同じです。

このアルバムに収録されているのは、実は上記ウィキペディアに記載されています。一つはベートーヴェン交響曲第7番、そしてもう1曲がモーツァルトの「グラン・パルティータ」です。意外なのは、ベートーヴェン交響曲第7番ではないでしょうか。実は私もそれが意外に思ってこのアルバムを借りてきたという経緯があります。

ベートーヴェンが活躍した時代は、ちょうどハルモニ―ムジークの時代が終わる直前です。ベートーヴェンがなぜ貴族のための音楽を書いたのか!と憤る方もいらっしゃるかもしれませんが、ベートーヴェンは貴族のためだろうが市民のためであろうが、「他者の依頼によって」「隷属して」書くのではなく、「自らの意志で」「誰にも隷属せず」作品を紡ぎ出そうとした人です。つまり、隷属しないのであれば、誰のためであろうが自分が書きたいと思うものを書くというスタンスです。ここを見誤ると、ベートーヴェンの芸術の本質を間違ってしまうように思われます。そして、大編成のオーケストラはほとんどない時代です。そうなると、自身の作品をより多くの人に聴いてもらうという意味では、実はハルモニ―という編成は実に理にかなったものでした。ピアノの技術的発展の未来を見越して、ハンマークラヴィーアを作曲したベートーヴェンらしいものだと思います。編曲はベートーヴェン自身とはされていますが、このアルバムでは指揮者のバスティアン・ブロムヘルトの版となっています。おそらくは、ベートーヴェン自身の編曲を、ブロムヘルトが校訂したものだと思われます。

一方、モーツァルトの「グラン・パルティータ」はそもそもがハルモニ―ムジークです。

ja.wikipedia.org

一方で、このアルバムに収録されているのは、4楽章しかありません。本来は7楽章ある作品です。この乖離はなぜだろう?と思い調べましたが、確たるものが出てきませんでした。一つの可能性は、かつてこのグラン・パルティータは4楽章と3楽章の二つの作品を合わせたものと言われていたことです。現在ではその説は否定されているのですが、おそらくその4楽章のものでしょう。ただ、第4楽章に相当するものが「モーツァルト辞典」を見る限りは出てきません。CDの記載には「グラン・パルティ―タの原曲」とありますから、おそらく二つの作品のもう一方と考えられているものと判断していいでしょう。となると、ヨーロッパではいまだ否定まではされていないと判断できそうです。単に「二つのものを一つにまとめたのではない」という説が有力、という判断でいいと思います。

なぜならば、このアルバムの演奏者は、ウィーン管楽協会アンサンブルだからです。メンバーのほとんどがウィーン・フィルハーモニー管楽アンサンブルのメンバー、つまりウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のメンバーということになります。そんなメンバーが、いい加減な楽譜で演奏するはずはありません。CDの記述にはもう一つ「ウィーン・ドブリンガー=フェーラク版」というのがあります。これは検索してみた結果、どうやらウィーンにある音楽ショップのようで、出版もされているようです。その出版社が、二つに分かれていたと言われたその4楽章の部分を採用し、校訂したと考えてよさそうです。実際、グラン・パルティータは13声部ありますがこの演奏ではコントラバスを加えても11声部しかなく、2つかけています。そもそも、ベートーヴェン交響曲第7番とグラン・パルティータをカップリングさせれば、とてもCD一枚では収まる時間ではありませんし。

となれば、ハルモニ―音楽を特集するために、あえてグラン・パルティータは二つに分かれていたとされる一方を使ったと考えれば、つじつまが合います。DLやストリーミングが主体になりつつある今日では、むしろグラン・パルティータそのものが収録される可能性が高いでしょう。今日における新しいハルモニ―ムジークを集めたアルバムも期待したいところです。ウィーン・フィルのメンバーが主体であるアンサンブルの、実に上品かつしなやかで生命力のある演奏だからこそ、ちょっともったいないかなという気がします。しかし、ベートーヴェンもハルモニ―ムジークを作曲し、しかも中期の作品である交響曲第7番をハルモニ―ムジークへと編曲していたということのほうが、ハルモニ―ムジークというものを理解するのに適切だからこその編集だったのかもしれません。その意味では、意義のある一枚だと言えましょう。

 


聴いている音源
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲・編曲
交響曲第7番ト長調作品92(9声部のハルモニーのための:バスティアン・ブロムヘルト版)
ヴォルフガング・アマデウスモーツァルト作曲
管楽八重奏のためのパルティア変ロ長調K.361(370a)(グラン・パルティ―タの原曲、ウィーン・ドブリンガー=フェーラク版)
ウィーン管楽協会アンサンブル
 オーボエ:ゲラルト・トレトシェク、ギュンター・ロレンツ
 クラリネット:ペーター・シュミット、ヨハン・ヒンデラー
 ファゴット:ミヒャエル・ウェルバ、フリッツ・ファルトル
 ホルン:ヴォルフガング・トンブレック・ユン、フランツ・ショルナー
 コントラファゴット:ラインハルト・エーベルガー
 コントラバス:フランツ・バウアー

震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。