かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

今月のお買いもの:ベートーヴェン第九カルクブレンナー版

今月のお買いもの、令和5(2023)年6月に購入したものをご紹介します。ベートーヴェン「第九」カルクブレンナー版です。ディスクユニオン吉祥寺クラシック館での購入です。

このCD、探し求めていたものでした。最初はe-onkyoのサイトで見かけ、ハイレゾで買おうかと思っていた矢先病気になり、そのうちサイトから記載が消えていました。そのあと、チャンスが巡ってきたんです。それは今年のラ・フォル・ジュルネTOKYO。ベートーヴェンの三重協奏曲を聴きに行った時にCD販売コーナーに並んでいました。その時は悩みに悩んだ末、見送り最終日の第九の時に買おうと決めたのですが、その第九の時にはすでに売り切れ・・・・・

まあ、またハイレゾで買える時を待とうかなと思っていたところ、思わぬところとタイミングで出会いました。府中市立図書館で久石譲指揮ナガノ・チェンバー・オーケストラ(現在のフューチャー・オーケストラ・クラシックス)のベートーヴェン交響曲全集からの分売を借りてきており、交響曲第4番と第6番のアルバムだけが図書館になかったため該当CDを探してディスクユニオン吉祥寺クラシック館へ赴いたとき、結局なかったため銀座山野楽器で晴オケさんの第九を買った時のようになにかほかにめぼしいものはないだろうかと思い棚を見ていたところ、見つけたのが今回購入したアルバムでした。まさか中古CD店であるディスクユニオン、しかも郊外である吉祥寺クラシック館で見つけようとは・・・・・なので最初、私は久石譲指揮のをディスクユニオン新宿クラシック館で探そうって思ったんですよね。

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さて話を戻しまして、そもそも、このカルクブレンナー版は2020年に開催予定だったラ・フォル・ジュルネTOKYOで演奏予定だったのです。当時、そのコンサートを聴きに行くかどうか、シフトを予想しながら迷っていた時、結局新型コロナウイルス感染拡大により中止となり、残念に思ったことを思い出します、今年の再開でもこの版が取り上げられることはありませんでした。その意味でも、このカルクブレンナー版は私にとっては待ち望んでいたものでもありました。しかも、私にとってはこれで3つのピアノ編曲版がそろうことになるということもあります。

ykanchan.hatenablog.com

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では、カルクブレンナー版とは何かを説明しましょう。ドイツ人でフランスで活躍した前期ロマン派の作曲家であり教育者だったカルクブレンナーがピアノ1台による演奏用として編曲したもので、いわゆるトランスクリプションと言われるものです。ベートーヴェン交響曲のピアノ・トランスクリプションといえばリストが有名ですが、実はそのリストよりも前に全曲の編曲を完成させたのがカルクブレンナーなのです。

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今回使われているカルクブレンナー版は出版されている楽譜の中でも1837年頃に出版されたショネンベルジュ社のもので、カルクブレンナー編曲出版の最初期の出版となります。これはワーグナーが編曲した7年後で、リストよりも前です。リストが最初である第5番の編曲に着手したのがまさにショネンベルジュ版が出版された1837年です。ブックレットにはリストのカルクブレンナーを卑下するエピソードが載っていますが、私に言わせればそれは単にリストが革新者足らんとする気概であって、しかしきっかけを与えたのはカルクブレンナーだと考えるのです。ドイツとフランスって、歴史的には仲悪いですからねえ。

カルクブレンナーの編曲がリストより劣っているのかといえばそんなことはありません。実に見事だと思う部分もたくさんありますし、おそらく優劣などはちょっと聞いただけでは判断できないと思います。ただ、第2楽章ではあれ?と思う点もありますが、何度か聞いているうちに特段気にしなくなります。

それよりも、この編曲の最大の特徴は、合唱部分なのです。合唱部分をピアノで代替えしたのかと思われるかもしれませんがそうではなく、実はこれが2020年にラ・フォル・ジュルネで演奏されるときに話題になったのですが、歌詞がフランス語なのです。

となれば、リズムは合唱部分においては多少変わるということになるわけですが、これが全く違和感ないんです!実は2020年当時私が聴きに行くか悩んでいたのは歌詞がフランス語であるから、でした。ベートーヴェンはドイツ語で歌われることを全体に作曲しているわけで、それがフランス語に代わってしまうとどうなるのか?と考えていました。日本語ならともかくドイツ語とフランス語なら同じヨーロッパだから大して変わりないでしょ?という方もいらっしゃるかもしれませんが、言語としてはゲルマン語系のドイツ語とラテン語系のフランス語ではかなり違います。発音も異なりますしね。ところがです、違和感ないんですよ!これは明らかにカルクブレンナーの編曲が優れている証明なんです。

もともとカルクブレンナーはドイツ人で、ベートーヴェンの生前にその才能を評価されていた逸話も残っているようです。その人がフランスへ渡り、その言語と文化の中でもまれ、芸術家として大成していたわけですから、フランス語の特徴をつかんだうえで、祖国ドイツの言語を前提として作曲されている第九をフランス語に翻訳して編曲したはずです。実に美しい!フランス語は美しい言語と言われますが、その美しさを保ったまま、さらに第九が持つエネルギーが乗り移っている演奏になっているんです。

かつて、私が宇宿允人氏の指揮で第九を歌った時、合唱指揮者が「美しい合唱部分にしたい」と言っていたことを思い出します。まさにこのCDの演奏は美しい合唱部分となっています。合唱団はエカテリンブルクフィルハーモニー合唱団、合唱指揮はアンドレイ・ペトレンコ。実はペトレンコと合唱団は、2020年のラ・フォル・ジュルネでも参加する予定で、ピアニストもこのCDのピアニスト広瀬悦子が予定されていました。

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おそらく、今回この公演が復活しなかったのはウクライナ戦役の影響でしょう。力のある合唱団なので残念ではありますが、しかしできれば合唱団は別に用意してでもやってほしかったという感はあります。日本の合唱団ならアマチュアでも力のある団体はいくらでもありますしね。実際ソリストは2020年では全員日本人が予定されていたわけですから。それはおいといて・・・・・

ピアニストの広瀬女史も、独奏と伴奏となる難しいこの曲で実にしなやかかつ力強い演奏を聴かせてくれます。第4楽章アラ・マルシアの後の部分は情熱的で合唱団からエネルギーを受けとってつい力が入っているのが伝わってきます。CDをPowerDVDでWASAPI排他モードの上ソニーのSRS-HG10でアップサンプリングして聴いているということもあるかもしれません。会場の空気感すら伝わってきます。

オーケストラ曲をピアノで聴くのはつまらないでしょ?という声も聞こえてきそうですが、実際ピアノ編曲でも作品が持つエネルギーや生命力は全く失われていませんしむしろピアニストもソリストも合唱団員もともに作品の生命を感じ、情熱的になっているさまは聴いていて感動で涙すら出てきます。そしてこういった編曲を聴くにつれ、ベートーヴェン「第九」という曲がいかに19世紀ヨーロッパに影響を与え、それが現代までつけ継がれているのかを目の当たりにするのです。

 


聴いているCD
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲
交響曲第9番ニ短調作品125「合唱」(カルクブレンナー編曲)
セシール・アシーユ(ソプラノ)
コルネリア・オンキオイウ(メゾ・ソプラノ)
サミー・カンプス(テノール
ティモテ・ヴァロン(バス)
エカテリンブルクフィルハーモニー合唱団(合唱および終楽章指揮:アンドレイ・ペトレンコ)
広瀬悦子(ピアノ)
(キングインターナショナル MIR534)

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。