かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

マイ・コレクション:BCJと小川典子のコラボレーションによる「第九」

今回のマイ・コレは、再び第九です。しかも、ピアノ演奏版という、変わったものです。

しかし、以前からピアノ版は存在していました。リストのものがそれです。

http://www.amazon.co.jp/%E3%83%99%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BC%E3%83%B4%E3%82%A7%E3%83%B3-%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%88%E7%B7%A8%E6%9B%B2-%E4%BA%A4%E9%9F%BF%E6%9B%B2%E7%AC%AC9%E7%95%AA-%E3%82%AB%E3%83%84%E3%82%A1%E3%83%AA%E3%82%B9-%E3%82%B7%E3%83%97%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%83%B3/dp/B00005HI8I

しかしこれは、合唱が入っていません。リストはピアノ二重奏用も書いていましてそれもCDが出ていますが、いずれもピアノ演奏だけです。合唱が入っていません。では、リストは合唱スコアまでピアノにしてしまったのかと言えば実はそうではなく、実際はその合唱部分をピアニストが弾いてしまっているというのが真相のようです。

ということは、本来ピアノ伴奏で合唱が入るものがオリジナルの編曲であるということを意味します。それをかなり忠実に再現したのが、この小川典子BCJの演奏なのです。

以前から私はリストのピアノ編曲がほしかったのですが、実際合唱が入っていないことで逡巡していました。そんな時、BISが創立25周年に企画しだしたのがこの一枚だったのです。

合唱が入っているものがほしかった私は、飛びついたのは言うまでもありません。そしてこれ以降、リストのものには全く関心が向かなくなりました。

実はyou-tubeにアップされている方もいらっしゃるようで、そこにリストのものもアップされていますので、暇な方は比較してみるのも面白いと思います。リストのものも名演ですが(カツァリスですから当然ではありますが)やはり、合唱が入ってこないのは興ざめです。

このヴァージョンのいい点は、まずワーグナーの編曲であるという点です。正確には、この演奏はベートーヴェンの作品ではなく、ワーグナーの作品としてとらえられています。ブックレットには「ベートーヴェンの『交響曲第9番 合唱』のピアノ用編曲WWV.9」となっているからです。WWV、つまりWagner-Werke-Verzeichnisの表記があることから、ワーグナーの作品ということになるわけです。しかし、内容としてはまったくもってベートーヴェンの第九です。

ワーグナーはのちに、管弦楽である第九の校訂もしています。このWWV.9はそれにつながるものであるのです。

特に大きな特徴と言えば、このワーグナー版は新ベーレンライター原典版に近いということです。それもそのはず、この編曲は1830年に着手され、1831年に完成しているからなのです。第九の初演が1823年。それから8年後でしかないのです。

こういった点からも、後の楽譜の校訂に影響を与えた一つであることが分かります。私も以前ブライトコプフと新ベーレンライター原典版と二つ歌っていることからも、この編曲の価値がよくわかるのです。それはリストのものもそうなのですけどね。ただ、合唱部分が「歌われていない」からこそ、リストのものは興味が薄いわけなのです。

やはり、第九ですから合唱が入らないと〜

その合唱部分でBCJを使っていることも評価をしている点です。第九が作曲されたのは1823年ですが、ベートーヴェンが生きた時代には大バッハの息子たちが生きた時代でもあったのです。楽器の性能がやっと上がってきた時代で、楽器としてはバロックの時代のものからようやく現代に直接つながるものが出てきた時代でもありました。ですから、声楽面でBCJを使うということは実に時代考証的に正しいともいえるのです。

もちろん、正確に言えばBCJが扱っている時代とベートーヴェン、しかも第九とではほぼ70年ほどのタイムラグがありますが、声楽上ではあまり変わりがありません。もう少し時代が下らないとその差は出てきません。特に、ワインガルトナー校訂まで行かないと、BCJでは合わないとは私は言い切れないと思っています。

そういった時代背景を見ていくと、BCJ小川典子というコンビはとても興味深い組み合わせなのです。たまたまBISの看板アーティストであるということで決まったものだそうですが、それにしてもこういった時代背景をよく知っているからこそのチョイスとしか考えられません。

ホールは第九であるということと、ピアノということを考慮したのか、BCJのホームである神戸松蔭女子大学のチャペルではなく、桶川市民ホールで収録されています。これがいい音響です。日本にはこういった素晴らしいホールがたくさんあるのです。そういったことも顧みさせてくれます。

私としては、この編曲はまっすぐオーケストラ部分の校訂に繋がっていくものなので、マーラーのものとこのワーグナーのものしか編曲版としては持っていません。後は新ベーレンライター原典版のものだけなのです。それはまさしく、このCDに合唱が入っているということと、第九完成後一番早い編曲であるということが理由なのです。

マイ・コレクション:マーラー版の「第九」
http://yaplog.jp/yk6974/archive/592

いつかまた、「音楽雑記帳」で比較して取り上げることも有るでしょう。



聴いているCD
リヒャルト・ワーグナー作曲
ベートーヴェンの『交響曲第9番 合唱』のピアノ用編曲WWV.9
緋田芳江(ソプラノ)
穴沢ゆう子(アルト)
桜田亮(テノール
浦野智行(バス)
バッハ・コレギウム・ジャパン
鈴木雅明指揮
小川典子(ピアノ)
(BIS CD-950)
※国内盤もまだこれは出ているようです。国内盤はKKCC2277です。

地震および津波により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。同時に原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方に、感謝申し上げます。