かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

今月のお買いもの:辻井伸行 ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第29番「ハンマークラヴィーア」他

今月のお買いもの、今回は令和6年12月に購入したものをご紹介します。Qobuzで購入しました、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第29番「ハンマークラヴィーア」と歌曲集「遥かなる恋人に」リスト編曲版を収録したアルバムです。演奏は辻井伸行ハイレゾflac96kHz/24bitです。

このアルバムを購入したきっかけは、実はFacebookの制限グループである「クラシックを聴こう!」で取り上げられたことがあります。また、広告も結構出ていたように思います。そこですぐCDを買うのではなく、ハイレゾでと考えて、しばらく待ったのでした。ちょうどe-onkyo musicがQobuzに統合されるというタイミング。レーベルはドイツ・グラモフォンなので、統合後にQobuzで購入しても遅くはないはずと考えて、今回購入に至った次第です。

実際、Qobuzは国内レーベルよりははるかに海外レーベルのほうがクラシックに於いては取り扱いが多く、ドイツ・グラモフォンであれば取り扱いがないということはないだろうと確信していました。一方で、飯森範親指揮日本センチュリー交響楽団ハイドン・マラソンはvol.23までしかなくvol.24以降がまだ取り扱いがない状態です。できればこの状態が解消され取り扱いが去れることを祈っております・・・一応、vol.25まではCDで出ています。そのため、今回は辻井伸行さんのアルバムを選択したという事情もあります。ハイドン・マラソンがないなら、ちょうどいいタイミングですし。

今回は、このアルバムをTune Browserで192kHz/32bitにリサンプリング再生して聴いています。

①「遥かなる恋人に」作品98(リスト編曲S.469)
「遥かなる恋人に」は、1816年にベートーヴェンが作曲した連作歌曲集です。

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ウィキペディアの頁には作品番号の記述がないですが、「ベートーヴェンの作品一覧」には作品98という記述があります。ちょうど中期の「傑作の森」の直後にベートーヴェンがスランプに陥っていた時期の作品ですが、そんなことを感じさせない作品です。

6曲から成りますが、連続して演奏されるので、一つなのかと勘違いしてしまいます。この歌曲集をピアノ独奏にトランスクリプションさせたのが、フランツ・リストで、今回はそのリスト編曲(S.469)が選択されています。おそらくですが、そもそも歌曲集なので伴奏はピアノのはず。実際、他のアルバムを検索しますと声楽とピアノになっていますので、伴奏はピアノとして作曲されているはずです。それをリストがピアの曲へトランスクリプションしたと言うことは、声楽の部分も含めてと考えていいでしょう。これは合唱を伴う交響曲第9番をトランスクリプションしたケースとはまた違うと言えます。

辻井さんは、この曲をトップバッターに持ってきています。それは、この曲がちょうど後期の直前に作曲されたというタイミングがあると思います。ちょうどこの後の「ハンマークラヴィーア」の直前なのです。第28番とは多少時間が空いており、辻井さんとすれば、ちょうどの間を埋める作品だという意味合いがあるのだと思います。勿論、リストの編曲ですからそこにはリストのピアニズムも入っていはいますが、雰囲気を大幅に損なうことがないリストの他の編曲を評価したうえでの選択だと言えるでしょう。じっくり歌い上げるピアノは、後期の名曲の時代が始まる予感を、聴衆に存分に堪能させてくれます。こうなると、ベートーヴェンの歌曲も聴きたいですね~。実はすでに小金井市立図書館で借りております。いつかご紹介できればと思っております。

②ピアノ・ソナタ第29番変ロ長調作品106「ハンマークラヴィーア」
ベートーヴェンの4楽章制のピアノ・ソナタの最後を飾る「ハンマークラヴィーア」は、1819年に完成された曲ですが、作曲にとりかかかったのは1817年です。つまり、「遥かなる恋人に」を作曲し終えた翌年ということになります。

ja.wikipedia.org

ベートーヴェンのピアノ・ソナタの中でも大曲であり、有名な曲の一つで、「将来のピアニストは楽に演奏するだろう」と言って、演奏が難しいのではという指摘を一蹴したエピソードが残る作品でもあります。その作品を、辻井さんが演奏する・・・だからこそ、このアルバムはワクワクしましたし、購入に至ったのです。

ベートーヴェンは今でいえば、難聴でアルコール依存気味かつアダルトチルドレンという障害者だと言えますが、辻井さんも視覚障害者です。辻井さんがベートーヴェンを弾くということは、同じような境遇にある二人が音楽を通じてである機会でもあるわけです。そこでどんな対話をするんだろうと、以前対人援助職だった私も非常に興味を持って聴きました。

まず、辻井さんは、全曲においてゆったり目のテンポで弾いています。まるでベートーヴェンとの対話を楽しんでいるような・・・それでも、曲が持つ激しさだとか、内面性は全く失われておらず、しかもタッチも繊細かつ力強く、聴いていて爽快かつ勇気がもらえるような演奏です。誰かの演奏に似ている・・・そう、以前聴きに行った、瀬川玄さんに近い解釈です。ちょうど瀬川さんがドイツ留学から帰って来たタイミングでの、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲演奏シリーズで上野の東京文化会館小ホールでのリサイタルの時のテンポに似ているのです。どこか瞑想的で、かつ味わい尽くしているかのような・・・

その意味では、瀬川玄さんのスコアリーディング力には驚かされる部分です。辻井さんは同じ障害者だからこそ共感できる部分があるわけで、演奏を聴いていますと、どこか「ねえ、ベートーヴェンさん、そうだよね」みたいに、楽しんでいる様子が手に取るようにわかるのです。一方、瀬川さんは健常者なので・・・この二人が共演したら、いったいどんな化学反応が起きるんだろうと思うと、辻井さんの演奏を聴いていてまたワクワクしてきます。

第4楽章でテンポアップしますが、それはそれまでがゆったり目だったからこその、喜びの爆発のような印象を受けます。激しさもありますが、嵐と言うよりはむしろ、喜びの渦が巻き起こっているという形容のほうが適切であろうと思います。徹底的に明るいのです。目が見えないからこその「心で明かりを見ている」かのよう。聴いているこっちも気分が上がってきます。

こう聴いてみますと、辻井さんがコンクールで賞を取ったのはフラックではないと感じますし、当然の結果だったと言えます。そして、賞を取ったことに満足せず精進し続ける辻井さんの努力する能力も素晴らしいと思います。コンクールの賞がいかなるもので、演奏家として何が必要なのかを理解している証拠だと言えましょう。私自身、辻井さんの演奏は好きで評価するものですが、ドイツ・グラモフォンが選択するピアニストなのだとという点において、やはり自分の判断に間違いがなかったとも思います。今後も辻井さんの演奏からは目が離せません。

 


聴いているハイレゾ
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲
歌曲集「遥かなる恋人に」作品98(リスト編曲ピアノ独奏版S.469)
ピアノ・ソナタ第29番変ロ長調作品106「ハンマークラヴィーア」
辻井伸行(ピアノ)
(ドイツ・グラモフォンUCCG45109 ハイレゾflac96kHz/24bit)

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。