東京の図書館から、今回は小金井市立図書館のライブラリである、メンデルスゾーンのオルガン・ソナタを取り上げます。
メンデルスゾーンと言えば、管弦楽作品で有名ですが、実は歴史的には鍵盤楽器奏者としての評価が高かった人です。
ゆえに、「無言歌集」というピアノ曲集も存在しますが、オルガン曲も作曲しています。その中でも、オルガン・ソナタは堂々たる作品だと言っていいでしょう。このアルバムは、メンデルスゾーンのオルガン・ソナタ作品65を収録したものです。
オルガン・ソナタ作品65は6つの曲から成ります。これはどこか、バッハを想起します。そういうこともあるためなのか、メンデルスゾーンの評価はつい最近まで悪かったと言えるでしょう。しかし、研究が進むにつれて、メンデルスゾーンの革新性が明らかになって来たという点は喜ばしいことだと思います。
例えば、このオルガン・ソナタ作品65は、バッハのように6曲からなると言っても、鏡像形式になっているわけでもなく、むしろベートーヴェンのピアノ・ソナタに似ています。そのうえで、音楽としてはバッハのような荘厳さも備えています。バッハのような雰囲気をベートーヴェンの形式で表現したと言ってもいいのかもしれません。
いや、それのどこが革新的なのかと言うかもしれません。しかしながら、オルガン曲はこの時代ほとんど教会で演奏されることを前提としています。たとえそれが世俗曲であったとしても、どこかに「神」の存在があり、そのため宗教曲的な様式が取られることもあった時代に、クラヴィーア曲の様式を取り入れるようなことをしたメンデルスゾーンの革新性は、高く評価すべきだと私は考えます。
この作品65では、例えば楽章を見ますと、4楽章と3楽章と2楽章が存在します。このことから見えてくるのが、ベートーヴェンのピアノ・ソナタとの関係です。メンデルスゾーンがベートーヴェンのピアノ・ソナタを知らないはずはないので、当然バッハのオルガン曲とベートーヴェンのピアノ・ソナタを念頭に置いて作曲したであろうことは、容易に推測できるのです。対位法も用いながらも、楽章数は特にバッハの時代に即することにこだわらず、時として3楽章制も存在するというのは、明らかにバッハとベートーヴェンの影響を考えざるを得ません。
演奏するのは、ロジャー・フィッシャー。イギリスのオルガニストです。どうやらこのアルバムは、メンデルスゾーンのオルガン・ソナタを全曲収録した世界初録音の様です。1977年の録音と言いますから、日本でメンデルスゾーンが再評価される40年ほど前にすでにヨーロッパで再評価が始まっていたことを考えますと、やはりその差を感じざるを得ません。これは日本においてクラシック音楽が伝統音楽ではないからという理由では片付かないのではないでしょうか。むしろ、その新しい動きを受け入れたくない、日本人の保守性のほうに原因が求められるように思います。
ffでは本当に力強く美しく、ppでは繊細です。バッハの、あの圧倒的な「音」をオルガン曲だと言う人は、このアルバムを聞きますと下手すれば卒倒するかもしれません・・・
その表現は明らかに、一つの作品に真摯に対した、演奏家の一つの答えでありましょう。プロであれば、楽譜を見れば作品の本質というものを理解しますし、その理解があって初めて表現の方針が決まり、演奏に至るわけです。フィッシャーがその過程をおろそかにしたとはとても思えません。こういう演奏をライブラリに置くという行為こそ、図書館に求められるものであり、小金井市立図書館はその役割をしっかりと果たしていると言えるでしょう。単に広く好まれているから本を置くと言うのでは存在意義はありません。それは民間でも出来ます。そうではなく、行政がかかわるからこそできることを、公立の図書館はすべきではないでしょうか。是非とも、皆さんも地元の図書館に足を運び、CDがあれば借りてこられることを推奨します。
聴いている音源
フェリックス・メンデルスゾーン=バルトルディ作曲
6つのオルガン・ソナタ(全曲)
オルガン・ソナタ第1番ヘ短調作品65-1
オルガン・ソナタ第2番ハ短調作品65-2
オルガン・ソナタ第3番イ長調作品65-3
オルガン・ソナタ第4番変ロ長調作品65-4
オルガン・ソナタ第5番ニ長調作品65-5
オルガン・ソナタ第6番ニ短調作品65-6「天にいますわれらが父よ」
ロジャー・フィッシャー(オルガン)
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