かんちゃん 音楽のある日常

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東京の図書館から~小金井市立図書館~:ヘルムート・ロロフが弾くメンデルスゾーンのピアノ曲集

東京の図書館から、今回は小金井市立図書館のライブラリである、ヘルムート・ロロフが弾くメンデルスゾーンピアノ曲集を取り上げます。

ヘルムート・ロロフは20世紀ドイツのピアニストです。本国ドイツでは演奏者としてだけではなく、教育者としても著名です。

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そのロロフが得意としたのが、メンデルスゾーンでした。わが国でもメンデルスゾーンの作品を弾くピアニストとして有名かと思います。どうも我が国ではロマン派のピアニストとなるとシューマンショパンという名前が出るのですが、実はメンデルスゾーンは当時としては異色の、堅実な作品を書く作曲家でした。そのメンデルスゾーンだけを収録したアルバムである点が、この音源を借りてきた理由でした。特に、私があまり知らない作品が多かったことが、最重要な理由です。

まず、第1曲目が「厳格なる変奏曲」。第14変奏までは一気に演奏され、全曲を通してほぼニ短調で演奏されるのは見事です。

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そもそもが、ベートーヴェン記念像の建設費用捻出のための「ベートーヴェン・アルバム」への新作依頼のために作曲された作品です。受けた作曲家の中にはリストもおり、おそらくベートーヴェンを神格化する人たちばかりという中で、メンデルスゾーンは境界線を引いた、自分の個性を前面に出した作品を選んだのです。ロロフがこの作品を第1番目に持ってきたことは重要な視点だと思います。ベートーヴェンを否定はしませんが、神格化には距離を置いたような意識が作品からは見て取れますし、おそらくロロフもその視点でこの作品を第1番目に持ってきたのでは?と思います。そして、演奏するにはかなり高いレベルが必要な難易度。ヴィルトォーソだけがピアニズムではない!というメンデルスゾーンの一種の宣言だと考えられます。

そして2曲目が「幻想曲嬰ヘ短調」。ピティナの説明では「スコットランドソナタ」という表題がつけられていますが、借りてきたCDにはその記載がありません。ただし、メンデルスゾーンは「スコットランドソナタ」として作曲したようです。3楽章ありますがほぼ連続して演奏されます。そのため、この音源でも1トラックにまとめられています。ロロフはそれでも、楽章ごとが分かるように演奏しており、まるで「分かれているけれど1つ」というのがどういう意味なのかと問いながら演奏しているような印象です。

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3曲目は「ロンド・カプリチョーソ」。メンデルスゾーンが初恋の女性のために作曲した作品です。ただ、ピティナにおける記載年代が説明文と異なっていることから考えますと、そもそもは元となる作品が存在し、それを様々な変化させた最終形態がこの「ロンド・カプリチョーソ」ではと思います。

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2曲目と3曲目は、それぞれ対位法が使われており、メンデルスゾーンの後進性が指摘されるのですが、メンデルスゾーンは見かけの豪華さや華麗さを追い求めるのではなく、様々な技法を使って人間の内面を表現しようとした作曲家だと言っていいでしょう。その点では実は私自身は最も前期ロマン派らしい作曲家だと考えています。ロロフがメンデルスゾーンを得意としたのも、音楽とは外形的なものなのか?という問いかけを常にしていたからではないかと、私個人は考えています。

特に、その傾向が強いのが、最後に収録された「無言歌集」からの9曲です。無言歌集は全8巻ありますが、そのうち第1巻、第3巻、第5巻、第6巻、第7巻から採用されています。第5巻の有名な「ヴェネツィア舟歌」や「春の歌」も採用されていますが、聴き手としては簡単に弾いているように聴こえますが、確かにトリルを優しくゆったりと弾くのはレベルが高いはずだと思います。実際に鍵盤をたたけばわかります。合唱でもトリルは非常に難しいので省略されることすらありますが、メンデルスゾーンの「春の歌」は省略が出来ません。そのうえでゆったりとしたテンポで表現せねばならないのは、運指に確実性がないと弾けないのです。ピアノが弾けなければ、リコーダーで吹いてみてください。「これをピアノは叩けば音は出るが演奏するのか!」とその難しさに驚くはずです。ですが、そのピアノによる「歌」を表現するためには避けて通れません。ピアノという楽器の性能を演奏技術でどこまで引き出せるか。それは明らかに、ベートーヴェンの精神(ハンマークラヴィーアで示したような)を確実に受け継いでいると言えるわけです。それを出版社はわかっていたからこそ、「ベートーヴェン・アルバム」に名を連ねる作曲家としてメンデルスゾーンを選んだと言えるでしょう。だからこそ、ロロフはこのアルバムのトップバッターに「厳格なる変奏曲」を持ってきた、ということになります。

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アルバムを通して、ベートーヴェンの精神を真に受け継いだのは、実はメンデルスゾーンではなかったのかというロロフの問いかけが詰まっているように思うのです。

 


聴いている音源
フェリックス・メンデルスゾーン=バルトルディ作曲
厳格なる変奏曲ニ短調作品54
幻想曲嬰ヘ短調作品28
ロンド・カプリチョーソ ホ長調作品14
無言歌集
 甘き思い出 作品19-1
 狩の歌 作品19-3
 ないしょ話 作品19-4
 情熱 作品38-5
 デュエット 作品38-6
 ヴェニスの舟唄 作品62-5
 春の歌 作品62-6
 紡ぎ歌 作品67-4
 うわごと 作品85-3
ヘルムート・ロロフ(ピアノ)

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