東京の図書館から、今回は府中市立図書館のライブラリである、ヒンデミットのヴィオラ・ソナタを収録したアルバムをご紹介します。
ヒンデミットは20世紀に活躍した作曲家ですが、一方でマイナーな楽器を主人公にする作品も手掛けています。その代表的なものが、ヴィオラを使ったもので、有名な中にはヴィオラ協奏曲「白鳥を焼く男」があります。今回はそのヒンデミットのヴィオラ・ソナタが収録されています。
ヒンデミットは、ヴィオラ・ソナタを3曲書いており、実はこのアルバムにはその全3曲が収録されており、いわば「ヒンデミット ヴィオラ・ソナタ全集」です。1曲目が作品11-4、2曲目が作品25-4、3曲目が作品番号無しのハ調です。この3曲にさらに「瞑想曲」を加えた4曲が収録されています。瞑想曲はソナタという分類ではありませんがやはりヴィオラとピアノのための作品で、ヴィオラの代わりにヴァイオリンやチェロでも演奏可能です。
実は、その4つは成立順に並べられて収録されています。いわば、ヒンデミットのヴィオラ・ソナタと相当する作品の遍歴が俯瞰できるように収録されているのが特徴です。
第1曲目の「ヴィオラ・ソナタ作品11-4」は1919年の作曲。2つの楽章が続けて演奏され、一つの有機的結合をしています。下記のブログによれば、ヒンデミットはヴィオラの名手だったそうで、なるほど、ヴィオラのための作品を残すわけだと思います。それにしても最初の作品から思い切った構成をするものです。ヒンデミットの自身のほどがうかがえます。
また、下記のブログによれば、やはりかなり構造的に癖のある作品のようで、意識していないと出会うことがない作品だそうです。
では、私はなぜこのアルバムを借りてきたかと言えば、ヴィオラが今井信子だったから、です。今井信子と言えば、いろんなアンサンブルにも参加する日本を代表するヴィオラ奏者です。かつて私はモーツァルトの協奏交響曲で五島みどりと共演した演奏を聴いてその演奏に魅せられた一人です。彼女がヴィオラでなかったら、果たして借りてきただろうかという気がします。このアルバムは全体的に今井信子のヴィオラの表現力を存分に味わえるものになっています。
2曲目のヴィオラ・ソナタ作品25-4は1922年の作品。どこか隠逸な雰囲気も漂う点がありますが、全体的に不安な気持ちが支配するような作品です。またそれだけに調性も様々であり、高いレベルの表現力が要求されます。今度は3楽章形式でそれぞれがしっかり独立している点が作品11-4とは異なり、かつ3楽章形式という点が、どこか自由を求めるヒンデミットの精神世界を表わしているように私は感じます。
3曲目が、「瞑想曲」。単一楽章によるヴィオラとピアノのための作品で、上記で述べたようにヴィオラに代わりヴァイオリンやチェロでも演奏可能です。1938年の作品で、どこか戦争の影もちらつきます。
最後の4曲目が1939年に作曲されたヴィオラ・ソナタ。なぜか作品番号が付されていません。ハ調の長調でも短調でもない作品で、ヒンデミットがヴィオラで持って人間の内面をえぐり出すかのような印象があります。なぜならこれは4楽章制を採っているためで、自由を求めながらもそれがかなわぬ夢であるかのようです。
以前、自分が苦手とする作曲家は室内楽から入るのだと私は述べましたが、まさにヒンデミットは室内楽から入るほうが適切な気がします。管弦楽の壮大なスケールではなく、室内楽の人間の内面が表現された作品を聴くほうが、作曲者の人となりが理解しやすいように感じるからです。その人となりが、自分自身で共感できるかどうかがカギではないかと思います。ただ、その前提として、演奏者も作曲者に対する共感があふれている必要がありますが・・・・・とはいえ、共感せずに内面まで表現できるかと言えば、ほぼ無理でしょうから。
今井信子の、自身のヴィオラ奏者というマイノリティの意識が、自然とヒンデミットへの共観につながっているように、演奏からは聞こえてきます。ただ、オーケストラの演奏会に何度か行きますと、自然とヴィオラの音色も耳に入ってきます。ヴィオラがどんな役割をっ全体の中で持っているのか、足しげく通いますと自然とわかってきます。内声として、ヴァイオリンを支え彩る楽器がヴィオラ。決して日陰ではありません。むしろヴィオラなくしてヴァイオリンの彩はないのでは?とすら感じます。必要だからこそ楽器が存在しているのであり、ヴィオラの魅力をもっと知ってほしいという、今井信子の意志が、演奏からひしひしと伝わってくるのです。そのために今回必要なツールが、ヒンデミットのソナタだったように感じるのです。
聴いている音源
パウル・ヒンデミット作曲
ヴィオラ・ソナタ作品11-4
ヴィオラ・ソナタ作品25-4
瞑想曲
ヴィオラ・ソナタ(1939)
今井信子(ヴィオラ)
ローランド・ペンティネン(ピアノ)
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